*独占欲
「ハァイ」
食事を楽しんでいると軽薄そうな女が2人ベリルに声をかけてきた。彼はそれに一瞥して食事を進める。
「……」
何よこの人たち……少女は眉をひそめた。女たちは彼女をチラリと見て鼻で笑い、構わずに彼に顔を近づける。
「ねぇ。暇してない?」
「食事で忙しい」
「妹?」
「!?」
誰が妹ですってぇ!? 少女が口を開こうとした時──
「親戚の子だ」
「……っ」
彼の言葉に喉を詰まらせる。
ウソでもいいから「恋人です」とか言えば彼女たちも離れてくれるのに! 少女は腹立たしげに彼を軽く睨んだ。
「無事に連れていかねば私が怒られる」
肩をすくめた。
「そう、残念ね」
女たちは諦めていそうも無い視線を送って離れていく。それを確認して少女は溜息を吐いた。その表情はもちろん、とても良いとは言えない。
気を取り直して食事をしようとフォークを握る彼女の目には、すでに何事もなく食べ進めている彼の姿が映った。
「……」
彼の食事に怪訝な表情を浮かべる。
傭兵でもマナーは習うのかしら……その上品な食べ方がとても想像していた傭兵の姿とはかけ離れていた。
そうなのよね、ずっと不思議に思ってた。この人一つ一つの動作がとても上品……少女は目の前にいる自分だけのボディガードをじっと見つめた。
そんな2人を遠目で眺めながらガード2人はハンバーガーを口に運んだ。
食事を終えて部屋に戻る。
「……」
少女は一瞬警戒して体を強ばらせたが彼はその様子もなく鍵を開く。
「今度は誰もいないのね」
「プロは同じ事をせんよ」
「プロなんているの?」
「誘拐を専門にしている組織もある」
それに身震いした。
「どれくらいの数がお前を狙っているのか図りかねているがね」
ニヤリとする。
「イヤなこと言うのね……」
怖がらせて楽しんでいるように見えてなんだか腹が立つわ……荷物の中から鏡を取りだし髪の手入れを始める。
少女はする事もなく暇を持てあましていた。あんな事を言われた後で車両を歩き回る気にはなれない。
言えば彼がついてきてくれるのは解っているのだけど……なんとなくこの空間を楽しみたい気分でもあった。
狭い部屋で2人きり……そう思うと自然と胸がドキドキして彼を見つめる。
「……」
指が意外と綺麗なんだ。細く見えるけど筋肉質よね、さすが傭兵……などなど彼女の興味は尽きない。
「……」
刺さるほどの視線を浴びている本人は気まずい思いをしているのだが……
鉄道旅行2日目──
「さあ! 買い物するわよ~」
少女は朝からやる気満々だった。
今日は昼頃に2時間ほど電車が止まる。そんな駅には自然と店が集まってくるため、駅周辺は観光客などで賑わっているのだ。
しばらくして減速が始まり電車は駅に停車した。
「ベリル! 早く早く」
笑顔で手招きする少女に苦笑いを浮かべゆっくり歩み寄る。
「これ可愛い! どうかな?」
リボンを頭に添えて意見を伺う。
その時──
「どう? 気は変わった?」
例の女性2人が再び声を掛けてきた。
「……」
なんの気よ! ギロリと女を睨み付ける。
「これはどうかね」
女性たちを一瞥したあと、並べられていたリボンをすっと取って少女の頭に添えた。
「え?」
思いがけない彼の行動に少女は目を丸くする。
「う、うん。じゃあ……それにする」
にこりと笑って精算に向かった。
「……」
びっくりした……胸に手を当てて心臓をなだめる。女たちはそれを見て完全に諦めたようだ。
フフンだ。彼は今は私だけのものよ……彼女たちの後ろ姿に鼻で笑う。特別な人間を独占しているのだという感覚が彼女の優越感をさらに高めた。
料金を払いながらベリルはピエールの言葉を思い起こす。
『頼む……ベス嬢には優しくしてやってくれ。彼女の初めての1人旅なんだ。楽しい思い出を作ってやってくれよ』
そう言われては従う他はない……小さく溜息を漏らした。