*乗れない鉄道
「!」
アムトラックの駅まで車を走らせていると後ろに不審な車が2台、一定の距離を保ちつつ付いてきているのが確認出来た。
「……」
彼はバックミラーでそれを一瞥し、窓から右手を出して何かの動作をした。すると後ろで何台かの車が衝突した。
「! なっなに?」
「単なる衝突事故だろう、気にするな」
薄笑いを返したがミラーを覗くとまだ数台が張り付いている。彼は小さく舌打ちをして勢いよく左にハンドルをきった。
「きゃっ!? ちょっと! もっとちゃんと運転してよっ」
「それはすまないね」
だめだな……尾行をまけそうにない。ガードは先ほどの車にぶつかって阻止したため、いまガードはいない。ベリル1人でどうにかするしかない。
乗り場まではまだかなりある。遅れる事が日常の鉄道だがさて、どうしたものか……と思案してペロリと唇をひと舐めした。
「しっかり掴まっていろ」
「え?」
アクセルを目一杯踏み込む。
「きゃあ! ちょっ、ちょっと……」
「喋るな。舌を噛むぞ」
「一体なんなのよ!」
「捕まりたくなければ大人しくしていろ」
「!?」
その言葉に後ろを向いた。
「!」
この車にぴったりと付いてくる車が2台見えて少女はシートベルトにしがみついた。
「あれがどちらの追手なのか解らないがね」
「え?」
「私も人気者なのだよ」
恐怖で微かに震えている少女に笑ってウインクする。この状況で余裕を見せる彼に不思議と震えが収った。
「1本、遅れてもいいかね」
「予約してるのよ? だめ」
長距離路線のアムトラックは1日1本ペースの鉄道だ。1本逃せば次は翌日以降となってしまう。
「……仕方ない」
溜息を吐くと正面を睨み付けた。
「ベス」
「何よ」
後部座席をあごで示す。
「そこの荷物を持ってくれ」
「このバッグ?」
後部座席に置いてあるバッグを引きずって肩にかけるとズシリとした感覚が肩に食い込んだ。
「何が入ってるの? これ」
「そこで車を乗り捨てる。出たら一気に走るぞ」
「走るのっ?」
少女はげんなりした。
「旅をしたいのだろう」
「もう!」
なんで普通に乗れるハズの鉄道にこんなに苦労しなきゃ乗れないの? こんな人生ホントいや!
少女は苛つきながら振り回されまいとあちこちにしがみつく。そうして勢いよく車が止まり2人はドアを一気に開けて全速力で乗り場に向かった。
走りながらバッグを受け取り少女を護るように周りを警戒する。
「……」
私を護ってくれてる……少女の心に優越感が満たされる。
追手から逃れて改札に入り、荒い息を整えながら車両に乗り込んだ。なんとか間に合ったらしい。