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プライム・レディ  作者: 河野 る宇
◆第2章~近くて遠い
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*輝く明日?

 深夜──少女は寝付けなくて冷蔵庫に向かった。

 いよいよ明日から旅行が始まると思うと、嬉しさと緊張でどうにもこうにも眠ることが出来なかった。

「!」

 キッチンから少し光が漏れていることに気がつく。

 怪訝に思いながら近づくとそれは冷蔵庫の灯りだと解り、すでに誰かが冷蔵庫を物色しているのかと少し安心した。

 夜警の人かな? 目を懲らすとその影は少女の方に体を向けた。ベリルだ。

「何してるの?」

「巡回ついでに夜警の飲み物を取りに来た」

「巡回!?」

「雇われた内容とは異なるが何もしないで過ごすのも居づらくてね」

 そう言って肩をすくめる。

「でっ、でも明日から旅行よ。大丈夫なの?」

「心配ない。こういう事には慣れている」

 言って冷蔵庫から出した飲み物を持ちすれ違いざま彼女の背中を軽くポンと叩いて寝るように促した。

「……」

 なんだかそれだけで安心したような気がする。

 ジュースを飲んでベッドに潜り込むと意識は自然と遠のいていった。


「それじゃお母様、行ってきます!」

 翌朝──見送る母親とガードたちに少女は明るく発した。

「気をつけるのよ」

 エリザベスは淡いピンクのワンピースに上品な白い帽子をかぶり、母に満面の笑顔を向ける。

 彼はいつものように、ソフトジーンズに濃いめのインナースーツと前開きの半袖シャツを羽織っている。

「だいじょうぶ!」

 心配そうに見つめる母に大きく発した。ベリルはそれを一瞥しピエールに目を移すと、男は小さく頷く。

 それに応えるように軽く手を挙げて弾む足取りの少女と車に向かった。

「本当に大丈夫かしら……」

 婦人は護衛する相手が男性という事で多少の心配はしていたものの、ピエールから「彼なら絶対大丈夫」と言われ不安ながらも信用することにした。

 ガードたちが遠くから監視もしているし、何よりベス自身が「彼でなければ嫌」だと言うのだ。

 ピエールは実はそれも見越してベリルを呼びつけた。他の傭兵ならばきっと嫌だと言っていたに違いない。つまりは確信犯である。


「何これ……」

「車」

「そんなこと解ってるわよ。こんなの普通に使えるの?」

「ピックアップトラックは普通に使うものだ。いいから乗れ」

 荷台があるのにこれのどこが普通に使う車なのよ! そう思いながら少女はぶちぶちと乗り込んだ。

「ベルトを締めろ」

「え、なんで?」

「これはリムジンではない」

 眉間にしわを寄せて発する。

「どうしてリムジンじゃないのよ」

「リムジンでは旅行気分が味わえないと言ったのは誰だね」

「……」

 そういえばそんなことを言った……

「だっ……たからってどうしてこんな車なのよ」

「私の車でいいと言ったのはお前だ」

 それも確かに言った記憶が……

「こんな車だと知ってたらOKしなかったわ」

「今更だ」

 目を据わらせて乱暴に車を発進させた。

 飛行機なら6時間強の所を少女は「旅行気分を味わいたい」とアムトラックで行くと言ってきかなかった。

 少女が住んでいる場所はニューヨーク、父親が出張している場所はカリフォルニア……まさに端から端、その距離およそ3800kmだ。

 アムトラックとはアメリカの旅客鉄道の事で、鉄道なだけに70時間以上をかけてアメリカを横断する。車なら飛ばして3日という処か。

 旅好きの彼にはさして気にならない時間と距離ではある。


「ねえ」

 駅までの道程みちのり、無言で運転する彼に声を掛けた。

「なんだね」

「傭兵のパスポートって、どんなの?」

「見たいのか」

 小さく溜息を吐いて、ごそごそとバックポケットから薄く小さな冊子を取り出し少女に手渡した。

「名前と、顔写真だけ……?」

 怪訝な表情の少女からすぐにパスポートを奪い取る。

「私は特別なのでね」

「それだけで通れるの?」

 応えるように笑って少女を一瞥した。

 思ったほど意外なパスポートでもなかったな……と自分のシート側の窓を開く。

「ん~気持ちいい」

 車は最低だけど……と思いつつ、これからの事に胸を踊られた。

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