*その絆
ルイスはそれからベリルに会おうとは思わなかった。
彼と母の間には愛とか友情とか、そんなモノでつながっているのでは無い事を知ったからだ。言葉では表現出来ない何か……周りの人間になど到底、理解できっこない絆があるんだと感じた。
だから、母も彼も口を閉ざすんだろうか。ならば俺は何をすればいいのだろうか……簡単な事だ。
『母を支えること』
俺は母を支えるためにここにいるんだ。
それが、ベリルに会って出た「答え」──
それからさらに5年が経ち、55歳になったエリザベスは息子のルイスを次期社長とするための手続きを取り始めた。
まだ25歳という若さのルイスに重役たちから異論の声が出たが、彼女はそれに笑って応える。
「大丈夫よ、あなたたちで支えてあげてちょうだい。この会社は、あなたたちのモノでもあるのよ」
その微笑みに一同は喉を詰まらせた。彼女の笑顔には誰をも沈黙させる力がある。もちろん、ルイス本人も多少戸惑った。まだ経験も浅く自信もない。
「あなたなら大丈夫よ。周りの人たちが支えてくれるわ」
彼女は時折、どこか呑気な処があった。逆境にも明るく笑って立ち向かっていく。
どうしていつもそんな風に笑っていられるのか……重役の1人が訊ねた事があった。すると彼女はいつものように笑って応える。
「困った時にこそ笑う事が大切なのよ。それを私は教わったの」
会社をルイスに譲り、エリザベスは会長という肩書きだけの役に就いた。
本当は全てを彼に託してのんびりと余生を送りたかったが、会社は彼女の力をまだまだ必要としていた。
60歳近くなったベスは、お気に入りの公園のベンチで日がな一日過ごすのが日課となっていた。
ベリルとの約束を交わした公園──彼女は時間があるといつもここに来ていた。約束を忘れないため彼との記憶を忘れないために……目を閉じて夢のような数日間を思い起こす。
木の葉が舞うほどの風だったけれど、彼女にとっては心地よかった。
「……」
目を開きのんびりと目の前に視点を合わせる。
「!」
ふとそこに人影が視界に入った。
そこにいたのは紛れもなく──