*そういうことで
「……」
呆れて二の句が継げない。
「すまん! ホントに」
ピエールは祈るように手を合わせて頭を下げた。
「信用があって強い傭兵って聞かれたらお前しか浮かばなかったんだよ」
「私では返って話をこじらせる恐れがある」
「え?」
首をかしげるピエールに苦笑いを浮かべる。
「20年以上も前から人気者だ」
「あ!? そうだったか~……」
見た目は25歳ほどだが実際は55歳だ。
彼はとても信じがたい『不老不死』という存在なのである。25歳で不死になり30年が経つ──15歳からこの世界に入ってものの5年で名を広めた。
そこに至るまでにはまあ色々とあった訳だが、仕事が仕事なたげに今では『公然の秘密』のように振る舞っている。とりあえず今はその事ではなくボディガードの依頼についてが問題なのだ。
「信じられない! 本当に傭兵を雇ったの!?」
ピアノのレッスンから帰ってきたエリザベスに母は傭兵を雇った事を告げた。
「これもダメなら一人旅は許しません」
「……」
ニコニコと言い切った母の妙な威圧感にベスは何も言えない。
「!」
リビングから庭に目を移すとピエールと誰かが話している姿が見えた。
もしかしてあれが雇った傭兵? 向こう向いてるから顔は見えないけどピエールよりも小さいのね。彼は確か180cmだったから。しかも随分細いわ。傭兵ってもっとガッシリしてるのかと思ってたのに……と金髪のショートヘアを眺める。
「……」
どうせ顔はムサいんでしょ。傭兵やってるくらいだもんね。
かなりの偏見でベリルの後ろ姿にぶちぶちと独り言をつぶやき、話し合っている外の2人から母に視線を戻した。
「やっぱり傭兵なんてイヤよ!」
母親に声を張り上げた刹那──話し合いが終わったらしく庭の2人がリビングに足をけ向ける。
「!?」
その姿に少女はハッとした。
「他の者を雇う方が良かろう」
「そ、そうだな……解った」
話し合いを済ませリビングに向かいながら最終確認の会話を交わす。
「!」
ああ、あれがエリザベスか……リビングにいる少女を見つけて心の中で確認した。
綺麗にカールされた髪は母親譲り。大きな青い瞳に可愛く整った顔立ち。さぞかし自慢の娘なのだろう。
「奥様、実は……」
言いかけたピエールに婦人は耳元でぼそぼそと何か告げている。そのあとピエールはベリルを見つめてゆっくり彼に近づいた。
「?」
怪訝な表情を浮かべる彼に男はポン……と軽く肩を叩く。
「じゃ、そういうことで」
にっこりと満面の笑みを見せた。
「は……?」