*声
<届いたかね>
「! ベリル」
「!」
聞こえた名前にビクリと体を強ばらせる。
「お前……なんでっ」
<私が気付かないとでも思うのか>
「!?」
もしかして撮影を頼んでいた事か……
「いや、それはだな」
<問い詰めたらバラしたよ>
「……」
こいつに隠せる訳がなかったか……ピエールは頭を抱える。
<今回だけは大目に見たが次は無い>
「悪かったよ」
そして隣で体を震わせる彼女に目をやり携帯を渡そうとした──
「えっ!? おいっベリル!」
あのヤロウ……切りやがった。
「切られたのね」
呆然としている男にクスッと笑みをこぼす。
「すいません」
「いいのよ。これで十分」
嬉しそうにスカーフをつまみ上げる。
「仕事するわ」
「はい。失礼します」
「!」
デスクに腰掛け、DVDを出そうとしたときにふともう1つファイルがある事に気がつく。
「? 何かしら」
首をかしげてダブルクリックした。
<25か>
「!」
画像は無いがスピーカーから響く声は紛れもなく……
<あれから10年になるのか。時が経つのは早いものだ>
「……」
ああ、彼の声だわ。落ち着いた、よく通る声……目を閉じてその姿を強く思い浮かべた。
<私には何も出来ないがお前はお前の進む道を外れぬように>
『それが、私の願いだ』
「──っ」
ベリル、ああ、ベリル……その言葉に想いが込み上がる。
何度もそれを再生した。