*笑顔
しばらくしてノックのあとにピエールがドアを開く。
「!」
目を腫らした彼女に胸が痛む。
「ありがとう。とても素敵なプレゼントだったわ」
「……っ」
真っ赤に腫らしたその目に凛々しさを残す彼女を見やりピエールは言葉を詰まらせた。
俺が奴に依頼さえしなければベス嬢はこんなに傷つく事も無かったのだろうか……自責の念にかられる。
「!?」
扉が叩かれ我に返った。
「どうした」
入ってきたもう1人のガードに問いかける。
「お前宛に荷物が届いた」
「! 俺に?」
差出人の名前が無い小さな小包に怪訝な表情を浮かべた。
「チェックは?」
「したよ。異常なしだ」
「……」
扉を閉めたあと2人は顔を見合わせた。
「今日は、色々とある日ね」
クスッと笑ってピエールを見上げる。彼はそれに笑顔で応えいぶかしげに開封していく。
「! スカーフ……?」
なんだって俺に女物のスカーフなんて……入っていた淡いピンク色をしたシルクのスカーフに眉をひそめた。
「!」
1枚のカードが入っている事に気がつきそれを読む。
「……」
それを読んでスカーフを彼女に差し出した。
「! え……?」
「これはあなたにです。ベリルから」
「!?」
予想もしていなかった事に彼女は目を見開く。渡されたカードに目を移す。
『おめでとうベス ベリル』
それだけのそっけないカードはシンプルで彼らしい上品な紙質だった。
「ベリル……」
差し出されているスカーフを手に取り目を細める。
「本当に彼から……?」
「ええ、本物ですよ」
見てご覧なさい……ピエールはスカーフの端を示した。
そこには見たことの無いマーク──刃先を上に向けた剣の柄に一対の翼、その背後には盾を簡略化した図が描かれたマークが刺繍されていた。
「ベリルのエンブレムです」
「え……」
「あいつは滅多にエンブレムなど記さないんです。それをわざわざ記している」
「……彼の」
少しずつ表情が軟らかくなる。スカーフを首に巻き満面の笑顔を浮かべた。
「!」
こんな顔はお前じゃないと出せないな……ピエールはその笑顔を見て後悔が薄らでいく。
しかし、どうしてプレゼントなんか? 今まで何もしなかったのに……
「!」
不思議がっていると、彼の携帯が着信の振動を伝えた。