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プライム・レディ  作者: 河野 る宇
【止まらない時間】第1章~突き刺さる記憶
15/23

*訪問者

 背中までの金髪と大きく魅力的な青い瞳──15歳だったエリザベスは20歳を迎えていた。

 彼女は父の会社を継ぐため熱心に勉強し、その存在感を際立たせていた。今や求愛する男性が後を絶たない程だ。

 しかし彼女はいつも……

「ごめんなさい。私には大事な約束があるの」

 もちろん、その言葉の前には何人かと付き合った事はある。けれど、彼女の心の中にあるのはいつも同じ男性……決して忘れられないエメラルドの瞳。

 報われない愛を貫く気がある訳じゃない。でも、彼のことを思い出すたびに胸が痛む。

 初めての恋。初めての失恋。


『彼に褒められたい』


 ただそれだけのために──


 そして25歳になったエリザベスは父の会社の重役の1人として、その能力を発揮していた。

 そんな彼女の元に1人の男が訪れた。部屋に通すと男は笑顔で名刺を差し出す。

「ヘンリーさん?」

「はい」

 気さくな笑顔、歳の頃は30ほどか。彼女はソファに腰掛けながら彼にも促す。

「私に何のご用ですの?」

「実はですね」

 彼は向かいのソファに腰を落とす。

 そして、もったいぶったようにひと呼吸おくと彼女の目をじっと見つめた。

「ベリルに、会いたくありませんか?」

「!?」

 一瞬、目の前が真っ白になった。

「……どういうこと?」

 自分の耳を疑うように聞き返すと、男は身を乗り出し続ける。

「実は俺、彼の友達なんです」

「ベリルの……?」

「ええ。それであなたの事を彼から聞きまして……」

 運ばれてきたコーヒーを味わうため一端、言葉を切る。

「ベリルは……なんと?」

「そこです」

 男は「待ってました」と言わんばかりに目を輝かせた。

「彼は、あなたの事をとても良く言っていました。俺から見れば、あなたの事を好きに違いありません」

「! ベリルが?」

 男はふたくち目のコーヒーを含んだあと、小さく溜息を吐いた。

「お互いに愛し合ってるのにどうして結ばれないのか。俺は疑問に思いましてね」

 僭越せんえつながら協力させてもらおうと会いに来たという訳です。

「……」

 ベリル……会いたい……微かに手を震わせる。彼の名前を他人の口から聞いた事で想いは強まっていく。

 あの時のように抱きしめて欲しい。優しく笑いかけて欲しい。でも……

 エリザベスはキリリと目の端をつり上げると、すっくと立ち上がった。

「あなたのご好意はとても嬉しく思います。しかしまだ会えません」

「! 何故です?」

「私、彼と約束しておりますの。それが果たされるまで会わないと誓いました」

「そんな!」

 ヘンリーも立ち上がり焦った表情を見せた。

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