*訪問者
背中までの金髪と大きく魅力的な青い瞳──15歳だったエリザベスは20歳を迎えていた。
彼女は父の会社を継ぐため熱心に勉強し、その存在感を際立たせていた。今や求愛する男性が後を絶たない程だ。
しかし彼女はいつも……
「ごめんなさい。私には大事な約束があるの」
もちろん、その言葉の前には何人かと付き合った事はある。けれど、彼女の心の中にあるのはいつも同じ男性……決して忘れられないエメラルドの瞳。
報われない愛を貫く気がある訳じゃない。でも、彼のことを思い出すたびに胸が痛む。
初めての恋。初めての失恋。
『彼に褒められたい』
ただそれだけのために──
そして25歳になったエリザベスは父の会社の重役の1人として、その能力を発揮していた。
そんな彼女の元に1人の男が訪れた。部屋に通すと男は笑顔で名刺を差し出す。
「ヘンリーさん?」
「はい」
気さくな笑顔、歳の頃は30ほどか。彼女はソファに腰掛けながら彼にも促す。
「私に何のご用ですの?」
「実はですね」
彼は向かいのソファに腰を落とす。
そして、もったいぶったようにひと呼吸おくと彼女の目をじっと見つめた。
「ベリルに、会いたくありませんか?」
「!?」
一瞬、目の前が真っ白になった。
「……どういうこと?」
自分の耳を疑うように聞き返すと、男は身を乗り出し続ける。
「実は俺、彼の友達なんです」
「ベリルの……?」
「ええ。それであなたの事を彼から聞きまして……」
運ばれてきたコーヒーを味わうため一端、言葉を切る。
「ベリルは……なんと?」
「そこです」
男は「待ってました」と言わんばかりに目を輝かせた。
「彼は、あなたの事をとても良く言っていました。俺から見れば、あなたの事を好きに違いありません」
「! ベリルが?」
男はふたくち目のコーヒーを含んだあと、小さく溜息を吐いた。
「お互いに愛し合ってるのにどうして結ばれないのか。俺は疑問に思いましてね」
僭越ながら協力させてもらおうと会いに来たという訳です。
「……」
ベリル……会いたい……微かに手を震わせる。彼の名前を他人の口から聞いた事で想いは強まっていく。
あの時のように抱きしめて欲しい。優しく笑いかけて欲しい。でも……
エリザベスはキリリと目の端をつり上げると、すっくと立ち上がった。
「あなたのご好意はとても嬉しく思います。しかしまだ会えません」
「! 何故です?」
「私、彼と約束しておりますの。それが果たされるまで会わないと誓いました」
「そんな!」
ヘンリーも立ち上がり焦った表情を見せた。