*約束
「とめて!」
「!」
帰路の途中、突然少女が口を開いた。
そこは広い公園の前──車から出て公園に入る。
「ね、ベリル。私、ずっと考えていたの」
周囲を見回し決意するように彼を見据えて微笑んだ。
「あなたはきっと、全ての人を愛しているんだわ。だから、1人に絞るなんて出来ないのよ」
「私は聖人君子ではない」
苦笑いを返した。
「当り前よ。そんな人だったら好きになんてなってないわ」
少女の言葉に肩をすくめる。
「あなたは人間として全てを愛しているのよ。だから、とても魅力的なんだわ」
「よく解らんな」
「それでいいわ。見てて、私はパパよりも会社を大きくしてみせるから」
言い切ったあと爽やかな風を頬に受け大きく息を吸い込んだ。
「ね、私が大人になったら一度だけ会ってくれない? そのとき褒められるようなレディになってたら……っ」
その後の言葉が出なかった。出せば泣いてしまいそうになる。
目を細めて彼女を優しく抱きしめた。
「約束して……っ」
泣かないように必死にベリルに強くしがみつく。
彼はひと言も応えなかったが、少女は自分に誓うように強く目を閉じた。
「ママ! ただいま」
「おかえりなさい」
婦人は少女を抱きしめた。
「ありがとう」
その光景を遠目で眺め、隣にいるベリルに発する。
「仕事をこなしただけだ」
無表情に応えたあとピエールを一瞥して……
「私を選んだ返しは覚悟しておけ」
「ゲッ!?」
計画を見抜かれていた!? 気まずそうなピエールに小さく笑みを見せて少女に目を移す。
「お前の仕事をやり抜く事だ」
「当り前だろ」
ピエールは今の仕事に就く前は傭兵だった──護衛の依頼を受け仲間と共に要人の家族を護衛したとき……彼はその家族を護れなかった。
その中には5歳の少女も……それから傭兵を辞めガードの仕事に就いた。
『誰かを守り抜く』
心の傷から逃げるのではなく自らの命を賭ける。それが彼の生き甲斐となった。