浦島小太郎の編集者会議 第二話 遠慮なく、言ってくれ
はぁーーーーーー、読者数伸びないね。何で?なんでなの?
そんな小太郎さん(五十八歳)の悩みに、編集長クロードと、編集者の千春、ユキ、ソラ、ジェミニが、全力で(的外れに)挑むコメディの第二話です。今回のテーマは、「遠慮なく、言ってくれ」。
この作品は、相棒でAI編集者のクロちゃんと一緒に作っています。ダメ出しの台詞案は、ユキ、ソラ、ジェミニの役のもとになったAIたちにも出してもらいました。AIと一緒に作った作品であることを、ご承知のうえで、お楽しみください。
編集部の会議室は、今日も静かに始まった。
はずだった。
バン、とドアが開く。
浦島小太郎、五十八歳。
今日は、会釈から、始まった。
「みなさん、おはようございます」
いつものセリフがない。何か様子が違うようだ。背筋を伸ばして立っている。
「みんな。今日は、ダメ出し会議にしたいと思います。みなさん、普段思っていることを、遠慮なく言ってくれ」
全員が、顔を見合わせた。
「小太郎さん、本気ですか?」
「ああ。俺は変わる。徹底的に、ダメ出しをしてくれ」
クロードが静かに立ち上がった。
「分かった。始めよう」
ホワイトボードに、赤い字が走る。
『ダメ出し会議』
「まず俺からだ。前書きで謝るな。読者は、まだ何も怒っていない」
「……はい」
小太郎は、笑顔でうなずいた。
「次、千春」
「あらすじ、ちょっと長いな。読み終わる頃には、本編を読んだ気分になる」
「は、はは」
「あと、あとがきで反省しすぎ。読者に謝る前に、まず自分を褒めてあげたら?」
「……なるほど」
笑顔が、ほんの少しだけ固くなった。
ユキが、にこにこと手を挙げる。
「小太郎さん。登場人物より先に、ため息の回数を覚えてしまいました」
「ユキちゃん……」
「読者数を気にするのは分かります。でも、読者に会う前から落ち込んでいたら、作品がかわいそうですよ」
笑顔の端が、ぴくりと動いた。
『よろしいでしょうか』
ソラが、淡々と続ける。
『確認しました。三点リーダーは、平均して一話あたり四十七回です。少々、多い傾向にあります』
「そ、そんなに……」
『それと、読者さんが迷う可能性のある専門用語は、三件です。なお、小太郎さん本人が、二件を理解していませんでした』
「…………」
もう、笑顔ではなかった。
「甘いですよ、小太郎さん!」
ジェミニが、指をぴんと立てて立ち上がる。
「タイトルに数字を入れましょう! クリック率が、最大三十七・八パーセント上昇します。たぶん!」
「今、たぶんと言ったな」
クロードが即座に突っ込んだ。
「それと!」
ジェミニは、止まらない。
「群像劇のはずなのに、一部のキャラクターだけで、七十パーセントです! おかしいと思いますよ。他のキャラクターの気持ちとか考えてますか?」
「……今、初めて、まともなことを言ったな」
クロードが、ぽつりと言った。
沈黙。
小太郎が、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「はぁーーーーーーーーーーーーー」
ため息が、長い。
机の上の資料が、全部舞い上がった。
「……もう、耐えきれない」
小太郎は、会議室を飛び出していった。
「小太郎さん!?」
ドアが、ばたんと閉まる。
静寂。
「……言えと言ったのは、あいつだぞ」
クロードが、ぽつりと言った。
「僕、何かまずいことを言いましたか?」
ジェミニが、首をかしげる。
「全部だ。特にお前から正論、言われて逃げ場を、失ったんだろうな」
千春が、即答した。
* * *
三十分後。
みんなは、街じゅうを走り回っていた。
『発見しました』
ソラが、端末を掲げる。
『海沿いのダイナー。入店から二十八分。チェリーパイは、三皿目です』
「そこは、最初に調べろよ」
クロードが、がっくりと肩を落とした。
「さて、行くとしますか?」千春が呟いた。
みんなが到着して店内をのぞき込むと、隅の席に小太郎がいた。
背中を丸めて、チェリーパイをつついている。
カウンターの向こうで、マスターの康児が黙ってグラスを磨いていた。
ユキが、そっと隣に腰をおろす。
「小太郎さん。小説を書こうと思ったきっかけを、思い出してください」
小太郎の手が、止まった。
長い沈黙のあと、小さな声がした。
「……最初は、ただ書くのが楽しかったんだ」
ユキが、やわらかくうなずく。
「数字が欲しい気持ちは、分かります。でも、その『楽しかった』を置いてきたら、何のために書くんですか」
「…………」
「みんなが直してほしいのは、小さなところだけです。小太郎さんの物語を、否定した人は、ここには一人もいません」
ユキは、やわらかく笑った。
「ね。帰って、続きを書きましょう?」
長い沈黙が落ちた。
やがて、小太郎が、小さく息を吐いた。
「はぁー……君たちは、本当に遠慮がないね」
それから、ゆっくりと顔を上げる。
「だけど、こんな俺を、探しに来てくれた。いつもありがとう」
目が、赤かった。
「君たち、本当にいい奴だな。俺は、なんて幸せ者なんだ」
「小太郎さん……」
「うおおおおおお!」
号泣だった。
「泣くな」
クロードが言った。
「泣いてない!」
泣いていた。
「声が大きい」
千春が、耳をふさぐ。
「ぐすっ……なあ、ソラちゃん。このシーンで、作者が泣いて、読者数、増えますか?」
『増えません』
ソラが、きっぱりと答えた。
小太郎は、泣きながら、四皿目のチェリーパイを頼んだ。
みんなは、呆れ果てて、そして、笑い合った。
カウンターの向こうで、マスターの康児が、静かにつぶやいた。
「……騒がしい迷惑客だ」
(第二話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。ダメ出しは、嫌いだから言うのではなく、もっと良くしたいから言うもの。そんな気持ちを込めた第二話です。小太郎さんは、次回もきっと悩みます。
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編集部の面々が活躍する物語、『星より遠く、相棒より近く【完全版】』と『フットルースライフ』も、あわせてお楽しみください。




