Mission・Record――ミッション・レコード外伝 ミッション・レコード:ZERO
この作品は、私の代表作『Mission・Record――ミッション・レコード』の前日譚です。本編をお読みになられてからお読みになることをお勧めいたします。
また、この作品はフィクションです。登場する人物、団体、国家、事件などは現実のそれとは全く関係ありません。
2034年11月13日月曜日。後に『呉の悪夢』と呼ばれる、大規模テロ事件が起こった。詳細は現在でも闇に包まれているその事件の詳細を、今回公開する。
・呉の悪夢 大神重工が第二次B-X(次期主力バトルノイド調達計画)のために新規開発していたバトルノイド(人型機動兵器)XW-4〈グラディエータ〉の強奪未遂事件。大神重工及び自衛隊、民間人に多数の死傷者を出した。この際、開発主任者二人の内、大門舞助教授は死亡、大門誠一郎教授は下半身不随の重症を負う。
・実行犯は全員傭兵で、計画失敗と同時に口元に隠していた毒のカプセルで自殺。恐らく中華人民帝国軍、及びその関係組織が関与していたものと考えられる。
day:11/13/2034/am2:35 mon.
area:Kure City Hiroshima Prefecture
俺、大門誠一郎は補食のゼリー飲料を飲みながら、トレーラーに横たわっている人型機動兵器『バトルノイド』の試作機、XW-4〈グラディエータ〉一号機のコクピットに繋がれたノートPCのキーボードを叩いていた。
全く……こいつの開発が始まってから大体二年と六ヶ月。
最近三週間は俺か舞のどっちかがローテーションで家に帰るという生活だったんだ。
それが今日の一号機と二号機に政府から取り付けを要請された『特殊な機材』とやらの取り付け作業のせいで、娘を実家に預ける事になった。
搭載するのは舞が研究室で開発していた機材らしいが、詳細は知らない。
調べてみようとしたが『極秘』の二文字のせいで調べられなかった。
どうやらエグゾリウム粒子関係の代物らしいが、どういった目的で使うのかは全く説明されなかった。
コクピット周りに取り付けるから、何か制御関連なのか?
どっかの論文で『エグゾリウム粒子は魂である』なんてあったが、俺の専門は機械工学だからさっぱりだ。
まぁ、機械工学者でかつ、陸上自衛隊所属だから〈グラディエータ〉の開発主任とテストパイロットをするために出向になってるんだが。
俺はこいつの開発途中から参加しているから、よくわからない部分も多いがコレだけは分かる。
こいつは、俺達が手塩にかけて生み出した最高傑作にして、史上最強のモンスターマシンだ。
元がW-3ってのは基本的な設計で分かる。だが、こいつはそう……なんか、もっと先にいる気がする。
〈ソルジャー〉に、より強力なリアクター、サーボモーターを取り付け機体剛性を上げ、装甲は特殊合金を使用して強固で軽量。制御システムも天下一品、全く隙もない。
こんな化物を作らないといけないほど、仮想敵――中華人民帝国は強大だと強く思い知らされる。
最近あの国は北朝鮮を併合し、韓国を制圧した。広大なロシアの南部も吸収し、莫大な資源と多くの人手を持った。
今やアメリカからしたらかつてのソ連を超える、史上最大の敵と言えるだろう。
あの国のBN〈孫悟空〉は、はっきり言って弱い。性能は同世代のW-2〈ギガント〉や、W-2+〈ジャイアント〉以下。そのくせ紙装甲だから、正直歩く棺桶というのが〈孫悟空〉一機の性能だ。
だが安く、数が多い。元BN乗りの勘だが、アレが大量に並んで突撃してきたら手に負えないだろう。
いくら前線で敵を叩いても、その穴を埋めるようにわらわらと、雑草やカビの様に出てくる。これはもう、悪夢としか言いようがない。
そんな暗い思考に陥っていたとき。
「おーい、セー君! サンドイッチいる?」
腰掛けていた肩部装甲の上から立ち上がり、声がした方を見ると俺の妻――舞がいた。
「あぁ! 丁度ゼリーじゃ足りないって思ってたところだったんだ! ちなみに何サンド?」
「ボクお手製のテリマヨチキンサンドだよ!」
「ちょっと待ってくれ今すぐ取りいく!!」
テリマヨチキンサンド! 舞のテリマヨチキンサンドは天下一品だ。マスカット味のゼリーなんかより、千京倍うまい。
パソコンを閉じてコクピットの中に置き、機体の装甲を蹴って飛び降りる。
きれいな着地を決めてから、サングラスを外して駆けていく。
「はい、どうぞ」
「んじゃ、いっただきま〜す!」
テリマヨチキンサンドを受け取ってラップを剥がしてかじりつく。
あっという間に、テリマヨチキンサンドを食べきってしまった。それほど疲れていたのだろう。
「そういや、今やってるAIの方はどうなんだ?」
「ん? 〈ハル〉の事?」
〈ハル〉とは、舞が〈グラディエータ〉と同時並行で開発を進めているAI。少し前に始めてみたときは、あまりの『人間らしさ』にぶったまげた。
『これって、Vチューバーとかみたいに中の人が本当にいないんだよな?』と、舞に聞いたほどだ。
「あぁ、俺はあんなとんでもねぇAI初めて見たぞ。ほぼ人間みたいじゃねぇか。あれどんなプログラム組んだんだ?」
「あぁ、そのこと……じつはね、あれ出来たのたまたまなの」
「はぁ? どういうことだよ」
あれがたまたま? あの完璧なまでに人間らしいAIが? ユーモアと恋愛を理解して、『成長のために多数のメディアの視聴を許可してください』とか言うあのAIが?
「開発自体は〈グラディエータ〉より前から、大学生時代からやってたんだけど……七月の台風のとき、研究室の近くに雷が落ちたでしょ?」
「そいつは覚えてる。そのせいで〈グラディエータ〉のプログラムが何個か消えたからな」
「あれのせいでパソコンがバグって、再起動したらああなってた」
??? そんなこと……そんな事、あるのか?
「え? 冗談は止せよ、ホントはどうなんだ?」
「いやホントだって! ボクもわかんないもん!」
この反応からして、こいつぁ本当のことを言ってるっぽいな。にしても……バグったらできたっておい……
「まぁともかく、もうそろそろ一号機の起動テストでしょ? そろそろ耐Gスーツに着替えてきたら?」
「そうだな。んじゃ、行ってくるぜ」
俺は白衣を翻し、格納庫を出た。
暗い呉市の闇の中、三機のステルス大型輸送機が上空を飛ぶ。
『こちらHQ、ドラゴン隊、降下準備を開始せよ』
『ドラゴン1了解。ウルフ隊、ゴブリン隊、降下準備』
『ウルフ1了解。降下準備完了』
『ゴブリン1了解。降下準備完了』
『こちらHQ、オペレーション〈サイレント・バレット〉を開始する』
司令部の号令と共にカーゴハッチが開き、レールから火花を撒き散らしてBN――帝国の第三世代型BN、Kh-33〈齊天大聖〉三機と、歩兵部隊が降りてゆく。
夜闇の中、パラシュートが広がった。
更衣室で耐Gスーツに着替え終わり、ドアを開けて部屋を出ようとした時。
ドッガーン! という轟音と激しい振動が部屋を、建物を包んだ。
「何だ!? 地震じゃない!?」
慌ててヘルメットを被り、頭を守るように伏せる。
けたたましく鳴り響くサイレン。このサイレンは――襲撃!?
とっさにベストの拳銃に手をやり、引き抜いてスライドを動かして初弾を装填する。
「ひとまず格納庫に行かないとやべぇ……!」
周りに敵がいないか見回すと、丁度背を向けた兵士が一人いた。他には――いない。
後ろから飛びつき、首を絞める。男は抵抗虚しく酸欠で気を失った。
「持ってる武器は何だ……?」
この耐Gスーツには、ナイフはあっても銃は一丁もない。気絶した兵士を更衣室まで引きずり、一旦ドアを静かに閉める。
腰に入っていたコルト・ガバメントとH&K HK53アサルトカービンを奪い取って、残弾数を確認してから、兵士の両足のアキレス腱を切って口に誰かのネクタイで枷をつけておく。
ガバメントをベルトに挟み、HK53を構えてドアを出る。
壁沿いにすすんでいくと、小さな銃声と跳弾、薬莢が地面に落ちる音が耳を打つ。方向からして、格納庫の方だ。
銃声の音量からしてサイレンサー付き、銃声や薬莢の音からして恐らくサブマシンガン。
こっそりと格納庫のドアに近づき見てみると、防弾プレート付きの耐Gスーツで05式短機関銃を構えた男がいた。距離は約50m。十分狙える。
相手の頭に照準を合わせ、俺はトリガーを引いた。
三点バーストで放たれた弾丸は、相手の首に吸い込まれるように当たり、延髄を破壊し鮮血を散らす。
撃ってしまった。撃たないと、恐らくこちらが殺されていたが、俺は今人を殺してしまった。
自衛隊の仕事でも、演習こそ受けてきたが実戦はしていない。
ひどい吐き気がする。耳の奥でわんわんと耳鳴りがする。
でも、止まっていられない。止まっていたら死ぬ。走れなくなった兵士の末路なんてろくなもんじゃねぇ。
とりあえず、身を隠せる安全な場所……それに一つ思い当たりがあった。
BN。俺達の最高傑作、〈グラディエータ〉のコクピット。
幸いあたりには敵はいない。俺は一目散に〈グラディエータ〉の安置されているトレーラの荷台に跳び、〈グラディエータ〉の首の付け根のハッチからコクピットの中に入る。
「……ちぃ、AIは積んでないから手動か」
エグゾリウム・リアクターを起動すると音が出るから、コンデンサーの予備電源を始動させる。
開いている胸部緊急ハッチと、通常ハッチを手動操作で閉鎖して、キーボードで機体にIDとパスワードを入力。
OS起動画面が流れることを流し目で確認し、スマホのパスワードを入力し、自衛隊司令部に襲撃を受けたことをメールで伝える。
次に、舞に『大丈夫か? 今一号機の中にいる』と、メールを送った。
慌てたせいでミスタイプしたのだろうが、直す余裕もない。
敵に動いていることを気取られないよう、出力を待機まで下げ、デュアルアイの光を切る。
〈グラディエータ〉の首を動かさないよう注意して周辺を探る。もしかしたら、舞がこっちに来てくれるかもしれない、そう思っていた。
だが、その予想はほんの少しだけ外れていた。
右側に安置されている〈グラディエータ〉二号機の方に、舞はライフルを押し付けられて歩かされている。
「舞!」
とっさに操縦桿を掴もうとした。だが、ダメだ。敵の戦力もわからないし、それに今動かしてしまったら舞が射殺されてしまうかもしれない。
そう考えて必死に自制しているとき、ポケットのスマホの振動が伝わってきた。この揺れ方からして、電話。
スマホの音量を落とし、小声で取る。
『こちら第十三旅団司令部。大門二尉、状況を説明せよ』
「はい、現在自分は一号機のコクピット内にいます。ここまで来る際襲撃者の内二人を無力化、大門舞助教授が襲撃者に囚われています」
『……そうか、わかった。大門二尉、君に任務を与える。敵の目標は〈グラディエータ〉の実機、あるいはそのデータだ。メインサーバーを破壊し、一号機、二号機を迅速に回収せよ。もし二号機が敵に奪われた場合、躊躇せず破壊しろ』
「了解」
『そして、もし舞助教授が敵に拉致されそうになり、救助が不可能な場合は彼女を殺害しろ。彼女は〈グラディエータ〉の『特殊な機材』や、本体の開発に深く関わっている人間だ。絶対に敵に奪わせるな』
その言葉に、俺は一瞬返答を躊躇った。だが、逆に救出してしまえば彼女を殺さないで済むってことだ。
ここで逆らっても意味はない。
「……了解」
『以上、通信を終了する』
ツー、ツー、ツーという通話終わりの音。
ポケットにスマホを突っ込み、改めて二号機の方を見ると――特徴的な、リアクターの起動音。
「嘘だろ……!」
二号機は実行犯供と舞をのせ、格納庫を走り去る。
「クソッ! 会話に夢中になってなければ……」
悪態をつきながら、主電源であるエグゾリウム・リアクターを起動。FCS、IFF起動。出力を待機から巡航に。
関節のロック解除、アクチュエータ活性。
〈グラディエータ〉一号機は、らんらんと緑色のデュアルアイを輝かせ、立ち上がった。
舞は、後ろ手に手錠を掛けられ、サイドシートに乗せられていた。
なんで、なんでこんなことに……なっちゃったの……? ボクは、ただ、最初はいろんなことを知りたかっただけだったのに……
そもそも最初は、BNを作りたかったわけじゃなかったのに。ボクが作りたかったのは、人そっくりのロボット。
それも本物の魂を持つ、自分で考えて動けるロボットを作りたかったのに……
それが、なんで?
このやりたくないけど、娘を……ひまちゃんが平和に暮らすには必要な仕事を早く終わらせて、セー君といっしょに帰って、みんなで遊園地で遊ぶつもりだったのに……
きっと、この人たちはあのきれいな粒子……エグゾリウム粒子を悪用するつもりなんだ。ハルを、悪用するつもりなんだ。
〈グラディエータ〉の操縦桿を握る人は、無理やりボクにパスワードを入れさせた後にCDを差し込んでいた。
多分この機体のデータを奪うために、このシステムを奪うために差し込んでいるんだ。
止めなくちゃ……それでも、私は止められない。
スマホから、強い振動が伝わる。きっと、セー君からの電話だと思う。
「助けて……」
何度も何度も、BNの砲撃戦の轟音が俺の耳を打つ。
テロリストどもが乗る、舞を連れ去った二号機を追い、一号機は走る。
突如、足元に砲弾が飛んできた。それを左に跳んでかわし、そちらの方を見ると自衛隊の〈ソルジャー〉と敵のBN……中帝の〈齊天大聖〉だったか? が打ち合っている。
〈齊天大聖〉の背中の二本の『尾』……チェーンブレードの乱舞に対し、〈ソルジャー〉は苦戦している。
気がついたら、俺は一号機を走らせていた。
「ブーストモード、起動!!」
コンソールのカバー付きのスイッチを叩き、叫ぶ。
それに呼応し、一号機の肩の、肘の、腰の、膝の、ふくらはぎの装甲がスライドし、翼のような放熱板がせり出す。
放熱板周りからリアクターが過剰に生成した、緋く輝くエグゾリウム粒子が漏れ出る。
ブーストモード。それは、今日テストする予定だった最大出力稼働状態。作戦行動時間が極端に短くなる代わりに、何者も寄せ付けない力を発揮する。
神速の流星と化した一号機は、〈齊天大聖〉の頭を蹴り飛ばし馬乗りになる。
胸部緊急ハッチの装甲を引きちぎり、拳をコクピットに叩き込む。
オイルと、冷却用の液体窒素と、どす黒い血が混ざった液体が一号機の右腕をポタリポタリと流れ落ちる。
「そこの〈ソルジャー〉、てめぇの得物よこせ!」
マイクで一方的に叫び、〈ソルジャー〉から散弾砲と、高振動単分子ブレードを奪い取った。
コレだけの武器でも、いい。せめて舞を助けることが出来れば、俺達の日常に帰れるのなら…………なんでもやってやる!!
「行くぞ、〈グラディエータ〉ッ!!」
一号機は、それに応える様により強く輝く。
舞の目に映る、サイドパネルに投影された風景にある機影が見て取れた。
〈齊天大聖〉。〈グラディエータ〉の仮想敵の一つ。
皮肉なことにその機体がこの二号機にアサルトライフルと、グルカナイフ状の高振動単分子ブレードを差し出し、それを二号機は受け取った。
〈齊天大聖〉と二号機は併走し、市街地を走る。
こんなところで戦闘が起こってしまったら、なにも知らない民間人に被害が及ぶ。
そんなことお構いなしな様子で、ビルに足跡を残しながら二機は高速パルクールを続ける。
ひどい揺れ。こんなことならサイドシートをもっと快適な座り心地にすれば良かったんだと強く思う。
セー君達は、こんなひどい揺れに耐えて居るんだ。それに出産の時の痛みのほうがずっと痛かった。
唐突に、〈齊天大聖〉のコクピットが火を上げて、真っ逆さまにビルから転落して道路にクレーターを刻んだ。
「※`”#$”+@@?!」
何を何語で言ってるのかは聞き取れないが、おそらく、『何だ!? 何があったんだ!?』みたいなことだろう。そんなことを喚いてテロリストは砲弾が飛んできた方向を向く。
そこには、どす黒い返り血に汚れ、怒り狂うように緋い光を辺り一帯に撒き散らすよく見知った機体。
〈グラディエータ〉一号機が散弾砲を右腕に、高振動単分子ブレードを左腕に構えていた。
弾切れなのか、一号機は散弾砲を地面に向かって投げ捨てる。散弾砲はアスファルトをえぐり、深く突き刺さる。
〈グラディエータ〉一号機は高振動単分子ブレードを右腕に持ち替え、ビルを蹴りこちらに飛んでくる。
それを、二号機はグルカナイフで受け止め、双方後ろに飛びビルの窓ガラスを撒き散らしながら垂直に滑り降りた。
「+*@・$%&##!!」
ボクには理由のわからない言葉をテロリストは無線に叫ぶ。きっと仲間を呼んだのだろう。
一番起きてほしくなかった事態……実戦が幕を開けた。
『大門二尉、まもなく援軍の第十三偵察戦闘大隊の〈ソルジャー・シーカー〉一個小隊と、一六式機動戦闘車八両の三個小隊が約五分後現着する。敵機の数は?』
このクソ忙しい中、本部は無線を流してきた。敵BNの集中砲火を紙一重でかわしながら、俺は大声で返答する。
「二号機を含め、現在確認できているのは五機! 急いで応援を頼みます!」
わらわらと出てくる〈齊天大聖〉と〈孫悟空〉との連戦のせいで、一号機はあちこちガタガタになってきていた。
左膝のアクチュエータにレベル3の異常、右肩に被弾。ブーストモードのせいで活動限界は残り三分。
高G環境による機体の、俺自身の悲鳴を黙らせ、奪ったアサルトライフルをビルに流れ弾を当てないように細心の注意をはらいながら撃ち、〈孫悟空〉一機を沈黙させる。
交差点を曲がりながら、後ろを追ってきた〈齊天大聖〉を振り向きざまに撃ち、ワイヤーガンでビルを昇る。
リールが壊れ、回収できなくなったワイヤーをパージする。そして、ビルの窓ガラスを蹴り、別のビルに飛び移る。
滞空中、こちらに銃口を向けてきた〈孫悟空〉に銃弾の嵐を浴びせ、再び駆け出す。
突然目の前に、待ち構えていたのであろう〈齊天大聖〉が現れる。
チェーンブレードを姿勢を低くしてかわし、体当たりを食らわせ一号機もろとも路面に叩きつける。
胸部ハッチに銃口を押し付け、フルオートで弾丸をばらまく。
大量の徹甲弾は〈齊天大聖〉のコクピットを削り取り、冷却回路を破壊されオーバーロードをおこしたリアクターは爆発を巻き起こす。
「あとは……! どこ行った!?」
そうつぶやいたとき。
大体500m先の、四十階建てのビルの上から、二号機が現れた。胸部ハッチは開いている。なにかと思い、全体をもう一度しっかり見ると信じられないものが見えた。
その左手にはぐったりとした舞が握られていた。あの位置なら、二号機が手を離せば彼女は真っ逆さまに路面にたたきつけられてしまう。
『アオイBN、トマレ、トリヒキスル!』
下手くそな、片言の日本語が聞こえた。
『オマエ、デロ、コクピトカラ! ヒトジチ、カイホウスル!』
人質を解放するから、コクピットから出ろ、というところか。
俺の頭の中で、二つのものが天秤にかけられた。命令と、舞の命。その二つを乗せた天秤がゆらりゆらりと揺れる。
俺にとって、その二つは正に等価だった。先程言われた命令も、恐らくテロリストと取引をさせないようにするためだったのだろう。
だが。
俺には出来ない。彼女を見捨てることも、命令を破ることも。
センサーがオートで二号機をズームする。よく見ると、舞は何か、小さな声で言葉を発している。
『ひまちゃんを、お願い』
そう、読み取れた。
陽茉梨……俺達の子どもが、舞が死んでしまったら、俺が舞を見捨てたら、どうなるか。
「いやだ……そんな事……嫌だ……!」
俺は、シートベルトに手をかける。
ボクの視線の先にいる、一号機。その胸部ハッチが開いて、コントローラーを持ったセー君が出てきた。
『お望み通り出てやったぞ! 今すぐ舞を解放しろ!!』
堂々と、セー君はマイクに怒鳴る。でも、すぐとなりからそれを嘲笑うような息。
「@+*#$!!」
テロリストの持っていたライフルが火を吹き、セー君の脇腹をえぐった。そして、テロリストは手元のコントローラーになにかの命令を送った。
突如、ボクの体が宙を舞った。
あぁ、死ぬんだ。なんとなく、そう理解して、私は目を閉じた。
もっと、セー君や、ひまちゃんと遊びたかった。ハルだって、まだ完成してない。口コミで聞いたケーキ屋さんにも行ってないし、来年の三月のひまちゃんの卒業式にも行きたかった。
とめどなく、ポロポロと涙がこぼれる。
何かの音を、耳が拾った。
閉じていた瞳を開くと、そこには一号機がいた。セー君は、吹き飛ばされてすぐ機体を動かして、シートベルトを締める間も惜しんで、助けに来てくれたんだ。
今朝までピカピカに輝いていた一号機は、もうぼろぼろになっていた。
あちこちに刀傷が浮かび、三週間前に塗ったばっかりの塗料はところどころ剥げて、煤けている。
一号機が手を伸ばす。でも、もうわかってる。
もう間に合わない。
「セー君、今までありがとう」
間に合え、間に合え、間に合え……!
痛む脇腹を無視し、シートベルトも着けずに一号機は飛び出した。
必死に右の手を伸ばし、舞を掴もうとした。
でも、間に合わない。
一号機が、動かない。一号機のデュアルアイの光が消え失せ、放熱板から放たれていた余剰粒子も霧散する。
コンソールを見ると、活動限界の表示が写っていた。途端リアクターが停止し、カメラ程度しか動かせない予備電源に切り替わってしまった。
舞は、一号機が受け止めるよりも速く、落ちてゆく。
時間の流れが引き伸ばされ、すべてがスローに見えた。
『セー君、いままでありがとう』
舞は、必死に作ったのであろう笑顔で、俺に言った。
嫌だ。待ってくれ! まだ一緒にいたいんだ! 失いたくない、頼む!!
だが、神は、仏は、閻魔大王は、死神は。俺達に対して非情だった。
彼女は地面に叩きつけられ、その生命を、思い出を、魂を散らした。
まにあわな、かった。おそすぎた。たすけられなかった。
「待って……くれ……!」
一号機は舞を二号機から庇うように、ひざまずき、彼女の体をハッチの中に入れた。
彼女の遺体を抱きしめ、コンソールを殴り、頭をかきむしった。目があつい。とめどなくポロポロと目から涙が流れ落ちる。
何故、何故間に合わなかった!? なんで舞が死ぬ必要があったんだ! なんで、舞は死んで俺は生きているんだ!!
『セー君』
幻覚なのだろうか? 俺の体を、風邪が包み込み後ろから誰かに抱きしめられた気がした。
『泣かないで。待ってるから』
一瞬、そんな声が聞こえた気がした。
『ひまちゃんと、ハルをお願い。セー君』
慌てて後ろを振り返ると、薄く青く、焔のように、陽炎のように、舞の影が揺らめいていた。
『またね』
その言葉をキーにするかのように舞の影は消え、再びエグゾリウム・リアクターに火が灯った。
サイドシートに舞を乗せ、彼女の瞳を閉じる。
「舞……行くぞ」
まだ、俺の体からは血が流れている。
心も、体も、機体も傷ついている。
それでも、まだ止まれない。止まらない。止まれる訳がない!!
《LINK SYSTEM Ver.ZERO MODE2》
《BOOST MODE》
突如、中央のタッチパネルにそう表示されたかと思うと、俺の首に金属の部品が巻き付き、まばゆい光が一号機を包む。
飛んできた砲弾の群れを、粒子の壁が遮った。
先程まで血のような緋だった余剰粒子の輝きは、今度は先程見た、星のような蒼に輝いている。
一号機は再び駆ける。エグゾリウム粒子が、流星の尾の様に、翼のように輝く。飛んでくる銃弾をかわし、急接近。
右手に握った高振動単分子ブレードを二号機のアサルトライフルの銃身を袈裟斬りにする。
「まだ!」
下で高振動単分子ブレードを横薙ぎにし、両足を両断。
「まだだ!!」
未だ空中にある二号機を蹴り倒し、地面に叩きつける。
「こいつで仕舞いだぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
高振動単分子ブレードで、コクピットを突く。バチバチと火花を撒き散らし、ゆっくりと進んでゆく。
「『うおぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォッ!!!!!!』」
右手だけではなく、左手で更に押し付ける。
二号機は、地面に縫い付けられ、デュアルアイの輝きをなくして沈黙した。
傷だらけの一号機は、朝日を反射し輝いていた。ただ朝露に濡れ、メインカメラから雫が流れ落ちる。
俺は操縦桿から手を離し、舞の頭を撫でる。
「今まで、ありがとう」
そこまで発して、俺の意識は途切れた。
これが、『呉の悪夢』の真実である。後に、〈リンクシステム〉不完全起動の後遺症で下半身不随に陥った誠一郎教授は〈グラディエータ〉を復元させ、デュエルのために〈ブーストモード〉にロックを掛けて第四蒼天校に送る。
〈リンクシステム〉に関しては、誠一郎教授はいくら調べてもわからなかった。科学者としては癪だが、きっと舞の起こした奇跡なのだろうと思うことにした。
また、教授は舞助教授の残した設計図に従い、ハルのマシンボディを組み上げた。この際『独創的なデザイン』に多少困惑したそうなのだが、それは別の話。
これで、レポートを終了させる。
day:5/7/2035 sat
格納庫内の〈グラディエータ〉二号機の頭部に格納されてある、機体制御コンピューター。そこには一つのファイルが書き込まれていた。
『Program:Nightmare』。〈ネクスト〉を強制的に覚醒させる、特殊プログラム。それが、二号機にのみ追加されていた。
このプログラムに気づいたものは、誰もいなかった。
ミッション・レコード外伝 ミッション・レコード:ZERO 剣の夜明け 了。
Mission・Record――ミッション・レコード Chapter1 The beginning
に続く。
こんにちは、しろくろねこです。今回は外伝! 誠一郎博士とグラディエータの話になっております。
最近、本編が緩みすぎている気がしたので今回かなりハードな話になりました。できる限り死人は出したくなかったのですが……すみません。あのような結果となってしまいました。
ここで一つ余談を。リンクシステムの副作用に関してです。
今回博士は不完全なリンクに成功しましたが、その結果彼は下半身不随になりました。それに対して、本編の大和は完全なリンクで、副作用はありません。
これは、まぁパイロットの素質が関係しています。
本来リンクシステムは適合者のみが起動できるのですが、博士はたまたまそのロックをすり抜けてしまい、適合者ではないのに起動させてしまいました。
それに対し、大和はシステムに適合した人間だったため、ノーリスクで動かせたわけです。
(ちなみに星奈は今回仕込まれたプログラムのせいで起動できました)
まぁ、こんなところでしょうか。
そして、ここまでお読みいただきありがとうございます!
もし『ロボットアクションがかっこいい』『今後の展開が気になる』と思っていただけたら、ページ下部の【★★★★★】とブックマークで応援していただけると、執筆の大きな力になります!
また、できたら本編も読んでください!!
それでは、また今度。




