40 いつでも、どこでも、銀髪さん
家に着き、荷物整理を始めた途端の出来事だった。
『──蔵野市に次元の裂け目の兆候あり。ただちに非難を開始してください。繰り返します──』
「あとで整理するから置いておいてくれ」
「コッチは任せろってぇ。やっとくからバッチリ録画してきてよね、アニキ」
「当然! ガールズフォオオオムッ!!」
公園の池の上に元の裂け目が発生しかけているそうだ。荷物整理はカグヤに任せて、俺は急ぎ現場に向かうことにした。
すまんが頼むぞ!
すぐさま着替え、俺は飛び出す。
空高くジャンプしながら、銀髪モードにチェンジする。
趣味でヒーロー配信をしているものですがチャンネル──配信開始。
「お空の上からこんにちわ。みなさん、ヒーロー配信のお時間でございまぁ~す」
『あれw?』
『なんでwww』
『外国にいたはずではw』
「先ほど帰って来ましたところ、丁度いいタイミングでエネミーが来るとのこと。つまり……お土産整理よりも、当然ながら配信ですよっ」
『おかえりw』
『お元気そうでなにより』
「ヒーローの活躍を見逃してなくてセーフです!」
『うんうん』
『そうだね・・』
『うん、よかったね・・・』
とはいえ杉並近辺という、限られた現場じゃないとムリなのがな……。
趣味でヒーロー配信をしているものですがチャンネルは慢性的に人手不足!
「クソッ!! 私が足りない!!」
『ええ・・?』
『急にキレたし』
『意味分からんw』
『コイツはホンマに』
『こんなのが世界を救ったとかw』
『お前に足らんのは常識じゃよ』
「まあ仕方ありません。気を取り直して私にできることをやっていきましょう。
つまり! ヒーローのきらめきを歴史の教科書に刻むこと!!
それこそが我が使命! 我が誓いッ!!」
リスナーに大事なことを伝えたところで現場に到着した。
スチャッ!!
「趣味で配信をしているものですが、お邪魔してもよろしいですか?」
「……邪魔したら叩き出す」
「ハイッ」
相変わらず言葉が鋭いぞ陣内さんっ!
「あ、おかえり、銀髪さん」
「ただいま戻りました鳴神さん」
「アストラル・バイオニクス社の人たち、大事なくて良かったね」
「ええ! アルラウネさんたちの協力があってこそでした。
まさに運命の導きッ! まさに天命ッ!!
彼女たちはホワイトになるべくして生まれてきてくれたのでしょう!!!」
『もうおかしなった』
『だいたい銀髪さんのせいでは?』
『お前のせいだろw』
『汚清楚デビルが仕事してんのよ』
『アッ』
『ヤベッ』
『ギロリ!』
俺は叩き出されそうになった。
「静かにします! 静かにします!」
『おいダマレ!』
『ひなちゃんの活躍が見れないだろうが!ダマレ!!』
『黙って密着しろ!』
『陣内こよみ・・おつよい』
『でも許したげて?銀髪さんの実況も聞きたいのよ俺らw』
すまんな、リスナー。
陣内さんの邪魔はできないのでね。作戦担当の近くで実況は良くなかった。なので実況は動画化したときに入れると約束しよう。
そして静かに密着した俺は、鳴神さんに怖がられた。
「いつものほうがマシだよぉ」
「マ、マシ!?」
一体どうすればっ!?
『草』
『絵面がヒドイ』
『喋らなかったらキモい顔になってるw』
『血走った目でハァハァw』
『オカシイのはお馴染みだけど方向性が違ったなw』
『ただの変態で草』
クッ、リスナーにも言われてしまっているではないか!
まだまだ学ぶべきことがあるようだな、俺には。
「なんとも反省点の多いライブになってしまいましたね。今後に生かしますので、チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いします!それではみなさん、ごきげんよう~!!」
『おつ』
『乙』
『正気に戻れよー』
『ごきげんよー』
『乙』
『おつかれー』
『ごきげんよー』
『ごきげんよー』
『銀髪さんの正気とはいったい?』
このあと反省会とのメール。ウチでいいかと聞いてきたのでOKを返す。
ちょうどいいのでお土産を渡そう。カグヤに陣内さんと鳴神さんが来ることを伝えて、俺は食材を買うためにスーパーに寄ることにした。
◆
俺が買い物を済ませて家に帰る。するとそこには、すでにいつメンが揃っていた。
「兄の実況は必要と考える。私が兄のオモシロに慣れるまで離れてやって欲しい」
「オ、オモシロ!?」
俺の実況に愉快な要素があっただろうか?
だがしかし、深刻なものではなさそうなのでよかった。
「そ、それでいいんだ、こよみちゃん」
「ぉぉ、アニキ慣れを自らっ」
「じゃあ私からもひとつ。今日の顔は怖かったからやめて」
「公式の撮影班もアニキの面白さを追い始めちゃったからな。今日のはヒドイ絵面だったよ! アハハハーハハッ」
「欲まみれの顔だった」
コクリと頷いて、陣内さんは続けて話をした。
「私はカグヤの高校卒業と同時にヒーロー事務所を設立する予定。そのメンバーにみんなを誘いたいと思っている」
「え!? 凄い……もうそんなこと考えてたんだ。こよみちゃん」
「ウチも? ねえねえ陣内さん、ウチも創立メンバー!?」
「まさか会社設立を考えていたとは。さすがだな、陣内さん」
「あっ! 前に言ってたウチを新しい世界に、ってこのこと!?」
「そう。私の真の目的は異世界への冒険。そのための事務所にする」
ノリノリな鳴神さんとカグヤ。
「なかなか魅力的なお誘いだな!」
「……なかなか」
しかし俺は──
「すまん」
「やはりムリだった……残念」
断る、という選択を選んだ。
「え? 小柴くんは参加しないの?」
「あー……まあアニキはそうなるかあ」
「あ、そっか」
理由は単純。
「俺の目的はヒーローの輝きを歴史に刻むことだからな! しかしヒーローのいる場所こそが俺の居場所ッ!!
異世界だろうとどこであろうと銀髪さんは現れるッ!!!」
「そこは理解している。だから異世界で魔法の勉強をして分身の可能性を上げ、専属カメラマンとして雇う方向に今、修正した」
「さ、さすが戦術系ヒーロー……ッ」
「え? 銀髪さんが群体になる……の?」
「アキャキャハーッハハハ、や、やめ、アニキ、そんなことしたらもう完全にギャグじゃん!」
鳴神さんは困惑し、カグヤは笑い転げた。
しかし!
俺は陣内さんのアイデアに感服したッ。
それならば俺はいつでもどこでもヒーローを追えるじゃあないか!
頷き合う俺と陣内さん。
「ヒーローのきらめきが永遠になる日も近いな!!」
俺は新たな歴史の1ページに刻まれるであろうヒーローの姿に、心を躍らせた。
ぉぉ……よき……。
くうぅぅぅっ、やはりヒーローは永遠だ!
これにて完結です。
ここまで読んでくれてありがとうございました!




