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2.国家予算並みの横領と救世主かもしれない男性



―——

【労働許可】

この街では午後7時以降の労働は許可制になっているので、そのことを指す。

一般的にはスーパーなどの小売店や魔道具修理のようなサービス業などが許可を得ており、飲食店に関しては申請のみで営業が許されている。しかし審査が厳しいうえに、その許可を得てからも更新料やら何やらで費用がかかる制度である。

―——



まさか、この人は労働局の人間なのだろうか?

その割にはラフすぎる格好で、持っているレジ袋からは酒瓶のようなものも見えている。

いや、そもそも今この人は魔力に関して「3日分は賄える」と言っていた?




「労働許可がないなら、ちょっと話をしようかな……」

「店長は店の中?」


「あっ……ええと」




私の返事を聞くよりも先に店の扉を開ける男性に、慌てて「待って!」と声をかけたが、男性は「すみません!」と大きな声をあげていて、私は終わったと思った。


先程と同じ煙草をくわえながら2階から降りてきたオーナーは、男性のことを視認した途端に煙草を消し、猫なで声で声をかけた。




「いらっしゃいませ、旦那様!」

「本日はどういったご用件でしょうか?魔道具修理なら、後ろの店員の方で承りますよ」


「いやはや、最近は寒くてねえ」

「ううん、単刀直入に言うと、違法労働について聞きたくてね」


「何をおっしゃいますか!違法労働なんてしておりませんよ」


「そうかい?いやあ、それなら何で表に堂々と許可証を出さないのかと思ってね」

「中に掲げているのかと思えば、どこにも見当たらないから……許可を取らずに営業しているのかなと」


「まさか!しっかりと許可はいただいておりますよ」


「そうか。じゃあ、見せてもらっても構わないかな?」


「……」

「ッぐ、か、金か?!金ならいくらでも出すぞ!貴様、労働局の人間じゃないだろう!?」




わなわなと唇を震わせて顔を赤くし怒るオーナーに対して、飄々とした様子のまま話を続ける男性。男性の表情までは見えないが、声の感じや雰囲気から、涼しげな顔なのだろう。

どうすればいいか分からず、会話に入る隙もないので上着の袖をぎゅっと握って二人のやり取りを見守る。




「そうだな……労働局の者ではないが。実は、こういう者で」




そう言って胸元から何かを出して見せると、オーナーは明らかに動揺した様子で口をぱくぱくとさせている。




「ちなみに、私の後ろにいるお嬢さんは、膨大な魔力量を持っているみたいでね。しかも、本来であれば国が管理、分配すべき希少な魔力だ」

「計ってないため正確な量は分からないが、おそらく、国家予算レベルの横領をしていることになるだろう。つまり、あなたは国家資産の不当搾取をしていることになるわけだ。加えて問題なのは、労働許可すらもないこと……。法務局と労働局、魔導局、どこから連絡してほしい?」


「こっ……か、予算?はは、馬鹿な……そいつは、周りの魔力を吸って魔法を使うんだぞ!」




そう声を荒げるオーナーに、鏡を見なくても分かるほど顔がこわばる。

何度言われても慣れることはない言葉に、心が重くなる。


顔を伏せていると、上から「……そう言われてるのか。まあ、そう思われるのも仕方ないか。辛かったな」と声をかけられて、びっくりした。

そんな風に声をかけられたのは初めてで、よく分からない感情が渦巻く。

嬉しいような、むずがゆいような、報われるような。




「まあ、何も報告しないという手もあるがね。このお嬢さんを私にもらえるのなら、の話だが」


「……私を、もらう……?」


「そ、お嬢さんをいただきたいなと思ってね」




呟いた私に向かって、振り向いてそう言った男性は、怪しげにニヤリと笑ってみせた。




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