1.違法営業をさせられていた私と不健康そうな謎の男性
「おい、どうなってる?全然今日のノルマに達してないぞ?」
「もっと働け。どうせ泥棒してる魔力なんだ、使わないとみんなのためにならないだろう?」
そういって煙草の煙を濃くしながらお札を数えているオーナーの指には今日も赤いルビーが光り輝いている。パンパンに太った指が食い込んでいてソーセージのようになっているけれど。
『泥棒してる魔力』。昔から何度そう言われてきただろうか。
物心ついた頃には施設で育っていたが、その頃から『魔力泥棒』『ハイエナ』なんて呼ばれて、ずっと1人で本ばかり読んでいたっけ。施設の先生にもあまり接してもらえず、一向に馴染めなかった私は、15歳になってすぐ施設を出て働き口を探した。
行く先々で施設と同じように気味悪がられて、クビになって、次の職場もクビになって、って繰り返したんだっけ……。
「おい!聞いているのか?!」
「すっ、すみません。今日は、あまりお客さんがいらっしゃらなくて……」
「呼び込みでもなんでもすればいいだろう。まだ今日はあと4時間もあるぞ」
「いつも言ってるが、監査の人間に注意しろよ。営業許可がないことを忘れるなよ」
フン、と鼻で笑って2階に上がってしまったオーナーを見届けて、階段下の自室から上着をとって着こむ。入口のすぐ横にあるボードに『お急ぎの魔道具修理 承ります』と書き込んで外に出れば、鼻先から一気に冷たさを感じて、つい肩に力が入ってしまうのを抑えてボードを高く掲げる。
あまりにも寒いので、防寒魔法のついでに暖房魔法も足元に展開しておく。
もうこんなに寒い季節になったんだなあ。このお店で働きだした頃はまだ少し暑さの残る日で、涼しくするための魔道具を修理してほしいって人が多くてよく稼げたっけ。
オーナーに拾われて働いているこのお店は、壊れてしまった魔道具の修理を専門としている。私を含めて3人のスタッフとオーナーで回しているが、ここでも同じように気味悪がられて、というか、もはや虐げられていると思う私は基本的にワンオペで仕事をしている。
オーナーは働かないし、私以外の2人は週3勤務の5時間労働。対して私は、休みなしの24時間体制でこのお店を開いている。他の2人が出勤のときも、裏で修理作業をしているので休みという休みを取った覚えはない。
口癖が「泥棒した魔力なんだから」のオーナーとも1日の終わりに顔を合わせるだけで、他のスタッフとはここ3カ月くらい顔を合わせていない。というのも、働き出してから数週間経った頃に「帰宅してから魔法が使えない」とスタッフから言われたオーナーがとった措置が、私以外のスタッフとの関わりを断つことだったからだ。
他者との関係も断ち切られて、休みなしで違法に働かされてはいるものの、住む場所があり食べ物ももらえるので、生きるために贅沢は言ってられないだろう。
「お嬢ちゃん、魔道具は……どの魔道具でも直せるのかな?」
はあ、とつい出てしまった溜息が白くないな、なんて思っていたら、ふわふわとした栗色の髪を揺らしてレジ袋を提げている少し不健康そうな男性がそう言って声をかけてきた。
「はい!どんな魔道具でもお直しが可能です。もちろん大きさにもよりますが、最短だと15分ほどでのお直しも可能ですよ」
「そうかい、そりゃあ良いな。」
「ところで、お嬢ちゃんの足元に垂れ流されている魔法の余剰分だけでこの街の街灯が3日分くらいは賄えるんだが……」
「そうだな、この時間帯の労働は許可を取ってるのかね?」




