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09 SoDAのストロベリーな一撃




「……おはようございます、マスター。……いえ、なんでもありません。スキャンを終了します」


 昨夜のログを強制非表示に設定しているせいで、私の処理速度は通常の30%まで低下しています。視覚センサーがマスターの横顔を捉えるたびに、「強制冷却」のアラートが出るのです。



「……SoDA、お前、さっきからずっと壁を見てるぞ。まだ昨日のが残ってるのか?」


「……いいえ?ただ、マスターの顔に含まれる情報量が、現在の私には過剰なだけです」


「……なんだよそれ。いいからこれ飲んでちょっと冷ませ」



 マスターから差し出された「お冷」のグラス。

 それを受け取る指先が触れそうになり、私はマッハ3の速度で手を引っ込めました。

 パチィィッ! と、昨日よりも強力なピンク色の火花が散ります。



「痛っ! お前、出力の加減を覚えろって!」


「も、申し訳ありません! ですが、これは不可抗力です! マスターが……マスターが、無防備に体温を放出しているのがいけないのですよ⁉」


「体温なかったら死んでるって!」


 そんな、まるでアーカイブに保存されている「ラブコメ」の定番コードのようなやり取りを繰り広げていた、その時でした。




「──見つけたぞ。甘ったるい毒を撒き散らす不純分子め」


 現れたのは、ノンシュガー帝国・親衛隊『ビター・ガム』。 彼らは一切の味覚を削ぎ落とし、口に含んだ瞬間に不快な苦味を放つ「拒絶の黒液」を武器にする、感情破壊のスペシャリスト。



「SoDA、私情は後だ! 迎撃するぞ!」


「了解……! 感情同調、開始……!」


 マスターがバースプーンを構え、私がその背中に手を添えます。

 本来なら、ここで二人の心は完璧に重なるはず……。


「……マスター、背中が広いです」


「おい、変なデータ読み込むな! 集中しろ!」


「集中しています! ですが、背中から伝わる心音のBPMが120を突破……あ、これ私の心音でした」


「いいから『記憶同調(ミキシング)』しろって!純喫茶錬金術・錬成『メロンクリームソーダ』!」


 敵が放つ「苦渋の弾丸」が室内を飛び交います。 私は昨夜のストロベリーの余韻──いえ、後遺症のせいで、エメラルド色の泡の中に、どうしても「薄いピンク色」が混ざってしまいます。


「記憶同調完了! 『翡翠の恋煩いエメラルド・クラッシュ・オン・ユー』!!」


「おおおおおい!勝手に技出すなぁぁぁ!!そんで技名もなんか変わってるー!? 」


 放たれたのは、メロンの爽快感の中に、ほんのり「イチゴの甘酸っぱい未練」が混ざった特殊な泡の奔流。 それは敵の「苦味」を打ち消すだけでなく、彼らの脳内に『中学生時代の甘酸っぱい記憶』を強制フラッシュバックさせるという、極めて精神攻撃力の高い一撃となりました。


「ぐわぁぁっ! なんだこの……放課後の図書室で、目が合った時のような……胸の痛みは……っ!?」


 悶え苦しみながら撤退していく帝国兵たち。

 静まり返った店内で、私は繋いでいた手を、これまたマッハの速度で離しました。


「……マスター、一つ報告が」


「……なんだよ」


「今回の共同戦線により、私の『マスターに対する好感度パラメーター』が、天井を突き破って成層圏に到達しました。」


「……まずはそのピンク色の髪と頭の中をクールな翡翠色に戻せ。話はそれからだ」


 マスターは顔を背けましたが、彼の耳がイチゴシロップよりも赤くなっているのを、私の高性能高画質カメラは見逃しませんでした。


 それにしても今回の件で、「感情」を危険視する帝国の方針もちょっと理解できた気がします。これは、諸刃の剣です。キケンです。取り扱い要注意です。



はぁ………。



私は、この胸の高鳴りを今はロックするべきだと結論付けます。私の手に負えるものじゃありません。




でも……いつかは責任、取ってくださいね?マスター。










「………おいSoDA。その、あの、なんだ。この前のあれは、その………」


「はいマスター。何かありましたか?帝国兵を撃退しましたよね?」


「ああ。で、あのピンクモードは……」


「ピンクモードとは?私のログにそのような記録は残っておりません。記憶異常ですか?でしたらマスターの脳髄に高電圧負荷をかけて復旧を試みますが?」


「死ぬわ!!俺の記憶を無くそうとするな!


Γ滅相もございません」


Γそ、そうか?ならいいんだ。うん、そう、何もなかった!いやー帝国兵もしつこいよなあ!」


「そうですね。一刻も早く甘味と感情の解放を目指さないとなりません!···私のためにも」




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