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08 SoDAのストロベリーな1日

 

 こんにちは皆様。


 私は『Solid of Desire and Archive:typeHG』……SoDA(ソーダ)です。

 人々のあらゆる感情をアーカイブしている人工生命体です。




 現在、世界を効率化するという大義名分で人々から感情と甘味を奪い去ったノンシュガー帝国と戦っています。


 いえ、もちろん1人ではありません。

『純喫茶錬金術』を操るマスター・カイトと一緒です。

 彼が魔法陣で創った飲み物に、私が人類の感情を同調させる事で、感情を失った人々を正気に戻しているのです。

 そのためにも、私は日々データを蓄積・更新しなくてはなりません。


 ええ、この時もそうでした……










「……マスターの、おバカ」


 現在私の演算回路は、未曾有のオーバーヒートを起こしています。 原因は明確です。カウンターの隅に、まるで「飲んでください」と言わんばかりに置かれていた、あの翡翠色ならぬ……毒々しいまでに愛らしい、鮮烈なピンク色の液体。


 それはマスターが「試作だ」と言って、作ったはいいものの、そのまま放置して買い出しに出てしまった、あの『ストロベリー・クリームソーダ』でした。


 私は「アーカイブの充実」という崇高な目的(という名の好奇心)に抗えず、ついそれをラーニングしてしまったのです。


「……っ、ふぇ!?」


 一口含んだ瞬間、私のナノ・バブルが全域で一斉に弾けました。


「こ、これは……!」


 私のデータ・アーカイブがフルスロットルでデータを呼び出しているのがわかります。



幼い頃の初恋

夕暮れの帰り道

言えなかった言葉



胸の奥が締め付けられるような……人類が長きにわたって積み上げてきた、『甘酸っぱい恋心』の濃縮還元。


「あ、あついです!マスター、胸から……なんかキュンキュン音が鳴って……!」


 視界の端に表示される「感情濃度」が、測定不能なレベルでレッドゾーンを突破しました。 そこへ、運悪く(あるいは運命的に)、扉が開く音がしました。


「ただいま、SoDA。……って、おい!まさかそれ飲んだのか⁉ それはまだ調整中で同調率が──」


 帰ってきたマスターの姿を見た瞬間、私の画像解析ログに異変が起きました。 いつもは「無愛想なマスター」と認識されるはずのデータが、勝手に書き換えられていきます。





 認識:【マスター】→【世界で一番大切な人】


 補正:【背景に大量のピンクのバラを追加】


 輝度:【マスターの後光を200%増幅】




「……マスター?遅いです……バカ……」


「SoDA? 顔が真っ赤だぞ。静電気もバチバチいってるし……お、おい、寄るな!」


 私の体から、制御不能なピンク色のスパークが飛び散ります。 私のDNAコードが叫んでいるのです。「この想いを、炭酸の泡に乗せて届けろ」と。 私はふらつく足取りでマスターに詰め寄り、その胸ぐらを掴みました。


「マスターのせいです。私のバブルが、こんなに……こんなに、激しくミキシングされてるのは!」


「わ、わかったから! 今、中和用の無糖炭酸を持ってくるから離せ!」


「離しません! アーカイブにはこうあります。……『好きなら、逃がすな』と!」



 私は全出力を唇に込めました。 攻撃用ではありません。これは、究極の『愛情表現(スィート・ボム)』。 私の髪は翡翠色から、熟したイチゴのような鮮やかなピンクへと変色し、部屋に甘酸っぱい香りの霧が立ち込めます。



「ふふっマスター……世界を救う前に、私のこの『胸の疼き』を癒してください……!」


「SoDA、お前それ、完全に酒に酔ったみたいな……! 待て、顔が近い! 近いって!」



 ガシャン、とバースプーンが床に落ちる音が響きました。 静電気と甘い香りに包まれた部屋で、私の演算回路はついに「思考停止」を選択。 ただ、マスターの困り果てた顔が、アーカイブのどの絶景よりも愛しいことだけを記録して──。






 翌日の朝。


「……うう、昨日のログを消去したいです……」


 髪は元の翡翠色に戻ったものの、私はマスターの顔をまともに見られなくなってしまいました。






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