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11 透き通る青の衝撃




 吸引ノズルを備えたドローンが整然とした群れを成して上空を覆う。

 それは、人々が呼び覚まされたばかりの「驚き」や「涙」を、機械的に吸い取り、灰色の無関心へと還元していく。


「感情吸引フィールド、展開」


 サッカ・リンの冷徹な号令と共に、飛行型ドローンから不可視の波動が放たれる。せっかく潤いを取り戻しかけた市民たちの瞳から、再び光が失われていく。



「マスター……感情エネルギーが吸い取られています。このままでは……!」


 SoDAの翡翠色の髪が、恐怖と寒冷によって白く透け始める。感情を「エネルギー」とする彼女にとって、帝国の「虚無」は存在そのものを否定する猛毒だった。


「慌てるな、SoDA。奴らが『熱』を奪うっていうなら、こっちはその『冷たさ』さえも味方につけてやる!」


 カイトはトランクの最下層から、一つの青い小瓶を取り出した。それはラベルさえ貼られていない、深海のようなコバルトブルーの液体。



「それは……『極北のシロップ』……? マスター、今の私では制御しきれません!」


「大丈夫だ。お前はただの機械じゃない。感情を持つ一個の生命体だ!生命体は『学び、成長する』!今のお前だからこそ、俺は制御できると信じる!」


 カイトのその言葉に、SoDAの顔から不安の表情が消え、強い意志がみなぎる。


「……了解しました!」




 カイトがバースプーン「エトワール」を天にかざすと、魔法陣は氷の結晶のような鋭い六角形へと変貌した。


「純喫茶錬金術、錬成──『凍てつく空のブルーハワイクリームソーダ』!」


「 クール・アーカイブ、全開放! 『絶対零度の静寂』を、ミキシング!!」



 SoDAの髪が瞬時に鮮やかなブルーへと染まり、彼女の周囲の空間がパキパキと凍りつく。

 それは単なる低温ではない。焦りや怒りを鎮め、心の奥底にある「澄み渡った静寂」を物質化した氷だ。



「放て! 『サファイア・フリーズ・シュワップ』!」


 SoDAが両手を広げると、グラスから溢れ出した青い炭酸水が、一瞬にして巨大な氷の槍へと姿を変え、上空のドローン群を貫いた。さらに、弾け飛んだ氷の粒が「冷たい霧」となって街を包む。


「なっ……吸引ノズルが凍結しただと!? 馬鹿な、感情には熱エネルギーしか存在しないはずだ!」


 監視塔でサッカ・リンが声を荒らげる。


「お前は知らなかっただろう?「切なさ」や「孤独」という冷たい感情もまた、人を動かす強大な力になるということを!」


 霧を吸い込んだ市民たちは、凍りつくのではなく、すっと背筋が伸びるような涼やかさを取り戻していた。それは、夏の盛りに不意に吹き抜ける、あの透明な風の記憶。


「……冷たい。でも、なんて……透き通った味なんだ」


 一人の少年が、空から降ってきた青い氷の結晶を口に含み、微笑んだ。







「…確かに計算外ではあった。だが、想定を大幅に超えたわけではないな」


 サッカリンは眼鏡を押し上げ、自身の椅子に備え付けられた巨大なレバーを引いた。  

街の中央にそびえる第3塔が、不気味な地鳴りとともに変形を開始する。


「感情が不要であることを、その身に刻んでやろう。……『人工甘味料重装巨兵・アスパルトルーパー』、起動!」


 塔の基部から、全身を白銀の装甲で固めた、人間を遥かに超える巨躯のロボットが姿を現す。



「SoDA、どうやら一休みさせてはくれそうにないな」


 カイトは空になった瓶を置き、次のシロップに手を伸ばす。


「はい、マスター。でも、負けるわけにはいきません!」



 青い髪をなびかせたSoDAが、戦闘態勢を整える。  

 ディストピアの静寂を破り、本物の「甘さ」を取り戻すための戦いは、次のフェーズを迎える。


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