箱ぼっちの少年
少年はいわば箱入り息子だった。
箱入り息子なので、
ずうっとずっと箱の中で育った。
春も、夏も、秋も、冬も
ひとり 箱ぼっち。
彼はその箱の中で
何もかもを経験した。
赤ちゃんからずっと育った。
ときおり、箱ごと殴られて
体が ゴキゴキ変形した。
彼からは外は見えない。
一生見えないのだ。
彼は一生 箱の中。
雨が降って 箱が濡れても
雪が降って 箱が凍っても
暑さの中 汗が滴り落ちても
ひとり 箱ぼっち。
春の桜だって
秋の紅葉だって
彼には見向きもしない。
彼には何がなんだかわからない。
わからないけど、
ときおり 何もかもが透明になって
箱の外に出られる夢を見た。
そこは 何もなくて、
真っ白で、誰もいなくて、
泣きそうになるほど 美しくて、
死にそうになるほど 残酷に、
彼しかいない そんな世界だった。
夢の中の彼は
いつも いつも
なにかを叫ぶ。
誰かを 呼ぶ。
でも誰もいない。
なにか ひとつでいいから
僕に くださいと言う。
知識でもいい 絆でもいい
役に立たない一粒の砂でも
何かを 与えて ください。
どんなに 叫んでも
その声は 透明になって すりぬけた。
ください くださいと言っても
真っ白な世界には通用しなくて
箱の外も 箱の中も
あんまり変わらなかった。
勇気を出しても 意味がないなら
あがくんじゃなかったと
溢れ出る涙
夢は 現実
時すでに遅し
死んで外に出てきただけだったね。
さようならと言う言葉すら
誰も聞いていなくて
彼には 何ひとつ、
なにもかもが なかったから
生まれたことも 死んだことも
特に意味はなくて
だけど 誰にも
認めてもらえなくても
生きたと思う その心は
確かに存在して
でも やがて 空へと消えた。
少年の抜け殻だけ
箱の中 ちんまり収まってた。
小さくて 愛しいこの世よ
誰にも見られていなくても
せめて さようならくらいは
言い残して よかったと
少年は抜け殻を見下ろしながら
淡く 思った。