チョコエッグ作ってみた
チョコエッグ。名前の通り、卵を模した形のチョコレートだ。
なんだ、つまりちょっと変わった形をしてるだけの普通のチョコレートってことか。そう言いたくなったそこの貴方、ちょっとお待ちなさい。このチョコエッグがその真価を発揮するのは、一口齧ってみた後のこと。
薄すぎず、厚すぎない絶妙なチョコレートの殻に齧りつけば簡単に割れてヒビが入る。すると、その中から現れるのは……! そう、このワクワク感がチョコエッグの持つ最大の魅力なのだ。
チョコエッグの中に入れるものは色々。トッピング用のこじんまりとしたお菓子だったり、動物やアニメキャラの精巧なフィギュアだったりとメーカーによって色々だ。でもまぁ、共通しているのは「とにかく素敵なものが入っている、もしくは入っているような気がする」と思わせるようなものであること。
そんなチョコエッグを作ってみようと思って私は今、刻んだチョコレートを湯煎でせっせと溶かしている。
昔は「メイキングトイ」というジャンルでチョコエッグを簡単に作れるオモチャもあったらしいが、令和の今にそれを探すのはなかなか難しい。なので代わりに使うのは、たまたま100均で手に入れた卵に近い形のモールド。その内側にちょっとずつ溶かしたチョコレートを塗っていき、同じものを失敗した時用の予備も含めていくつか用意しておく。
冷蔵庫で固め冷やしたそれの片方に、「中身」を詰める。そうしてもう1つ、片方のチョコエッグの側面にチョコレートソースを塗る。それを接着剤代わりにして、「中身」が入っている方のチョコレートの殻と合体。そうしてまた冷やし、完全に固まったら慎重にモールドから外していく……。
簡単に言ってはいるが、この作業が実は一番難しい。チョコレートの接着剤が弱かったら簡単に割れてしまうし、ちょっと力を込めてしまうと殻が割れてしまうこともある。
そうやって失敗を繰り返し、ようやく素人感が残っているとはいえ「チョコエッグ」と言っても差し支えないものができる。
「結構大変だったな……これ大量生産してるメーカー、マジ尊敬するわ」
そう呟きながら、私は出来上がったお手製チョコエッグが割れないようちょっと丈夫な箱の中に入れてラッピングした。
「はい、これ。バレンタイン。帰ってから食べてね」
昨日、試行錯誤の末に出来上がったチョコエッグを受け取った彼は「あ、ありがとう」と素っ気ない返事を返す。当たり前だ、幼馴染だった彼に私は今まで義理チョコを何度も送って来たし彼もまたそれをわかりきっていて大して深く考えもせず私からのチョコレートを受け取っている。
(……でも、今年はそうじゃないんだよな)
今までの私が上げていたのはガナッシュカップ、要は溶かして固めるだけというシンプルかつお手軽なチョコレートだった。でも、今年のは違う。
小さな頃からオタク気質なところがあり、チョコエッグも既製品のものを何度も食べたことがある彼。そんな彼が、私の作ったチョコエッグの中に隠されたもの――私の素直な気持ちを込めた大切な手紙を見て、彼はどう思うだろうか。喜ぶか、戸惑うか、ドン引きするか、困るか……あぁもう、考え始めたら負けだ。とにかく今の私はもう、チョコエッグが開かれるのを待つしかない。
……でも、できればそのチョコエッグから出てきたそれが彼にとっても「素敵なもの」と思ってもらえて、「幼馴染」という微妙な関係で留まっている卵の状況からもっと先の深い付き合いになれるような関係にまで孵化し成長したらいいのにな……
そんな不安と期待を入り混じらせながら、私はドキドキして顔が赤くなるのを隠すようにさっさと彼の前から姿を消すのだった。