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朱い橋  作者: 飴屋
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狒々の面の男は、軽々と片手で子どもを持ち上げる。

背中の帯で吊られる形になった子どもは始めこそ手足をバタつかせたが、すぐに大人しくなった。


あの帯は子ども用の柔らかい布でできた帯…。


動くとふわりと揺れ動く軽い帯だ。

だから引っ張ればその分、体に食い込んでしまう。

今持ち上げられた子どもは体をくの字に曲げてしまっていた。いくら子どもの軽い体重とは言え、自分の重さが細い帯にかかっている。痛くないはずがない。


「待って」


朱鳥が声を出すと、猿の面の男がピクリと反応した。

それでも、朱鳥は狒々の面の男から目を離さない。

彼は、子どもをどこかに連れていこうとしているのだ。今止めなかったら、あの子はどうなるのか。


「もう一度。もう一度だけ、機会をあげて…」


彼らの怒った理由があの失敗ならば、もう一度やり直せばいい。今、こうやって叱っているくらいなのだから、時間はあるはずだ。

しかし、朱鳥の言葉は通じていない。

なぜかあの鹿の面の女性なら言葉が通じるようだが、探してもあの人はこの会場にいなかった。


どうしよう…。


朱鳥は咄嗟に足元に落ちていた鈴を拾った。そして、その持ち手を狒々の面の男に向ける。

本当は彼の持つ子どもに向けるつもりだったのだが、子どもは目を閉じているのか反応してくれなかったのだ。


「ー?」


コトリ、と狒々の面の男が首を傾げる。

表情が読めず、でも相変わらずの優しい声音はこの状況では不気味だ。しかし、朱鳥は引かずに軽く鈴を揺らした。


「お願いします。もう一度」


通じてなくても、言いたいことは伝わるはず。

そう信じて語りかけると、狒々の面の男は子どもを持ったままこちらに歩いて来た。


「!」


そして、朱鳥の前に子どもを置いた。

とさり、と子どもの手足が畳に付く。

それを見た猿の面の男が子どもに手を伸ばしたので、急いで朱鳥は子どもを抱き締める。


もう突き飛ばさせない。


狒々の面の男が猿の面の男の手を掴み、なにかを言っている。

軽く言い争っているような口調だが、朱鳥はその隙に子どもを連れて二人から距離を取り、子どもの頭を撫でた。


「大丈夫? 怪我はない?」


軽く手足を触ってみるが、痛がっている様子はない。

帯も思ったよりはしっかりした作りのものだったようで、お腹も痛くはなさそうだ。


「もう一回、踊れる?」


朱鳥が鈴を差し出すと、それまで硬直していた子どもは我に返ったように鈴を受け取った。


「うん。がんばれ」


ちらりと、狒々の面の男を見るが、まだ猿の面の男と話し合いを続けている。

朱鳥は急いで、乱れた子どもの髪を手櫛で整えた。頭に付けられた髪飾りの位置も直す。次いで、帯もいったんほどくと、他の子と同じように結った。


「出来た」


泣いていないのが幸いだった。

面のせいで表情は分からないが、子どもはずっと大人しいまま。

励まそうと両手で子どもの手を握る。

小さな手が、きゅっと朱鳥の手を握り返してくれた。


「ー?」


狒々の面の男がこちらに声をかけてきた。


「ー!」


子どもが大きな声で答える。

猿の面の男が笛を吹く。

風の音のような、頼りなく寂しさを感じさせる音だ。

子どもは朱鳥の手を離すと、他の四人の待つ場所へと駆け出した。


シャンシャンシャンと、鈴の音が流れ始めた。



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