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シャンシャンシャン、と鈴が鳴る。
猿の面の男に連れられ並んだのは、五人の子どもたちだった。皆同じ雀の面をつけている。
慣れない晴れ着で体が動かしにくいのか、ぎこちなくお辞儀をした。
三段の鈴のついた楽器のようなものを持ち、それを鳴らしながら踊る様はとてもかわいらしい。
甘い飲み物に、かわいらしい舞い。
先程の緊迫した空気から一転、会場内は和やかな雰囲気に包まれた。
ホタルよりも年下かな。
朱鳥は、妹を思い出していた。
妹のホタルは恥ずかしがり屋で、人前に出るのは嫌がった。
元気にしてるかな。
砂糖菓子を手に喜んでいる妹の顔を思い出したとき、それは起こった。
シャン!
調子外れの鈴が鳴ったと思うと、右の端で踊っていた子どもが転んだのだ。
どうやら、鈴についた長いリボンに躓いたらしい。
他の子どもも驚いたのか、踊るのを止めてしまった。
「…」
転んだ子どもは立ち上がらない。
体を起こしたままうつむき、小さく震えていた。
畳の上なので怪我はしていないと思うが、足を捻ってしまったのだろうか。
転んだ子どもに一番近いのは朱鳥だ。
逡巡したのち、ゆっくりと子どもに近づこうとした。
「ー!」
そっと声をかけようとしたとき、猿の面を被った男が怒鳴り声を上げる。
その声に怯えた朱鳥が足を止めた間に、猿の面の男は、未だ震えている子どもを突き飛ばした。
「!」
まだ小さな子どもだ。
大人の男に突き飛ばされた子どもは、畳の上を転がった。
静かに子どもは壁の方まで転がり、止まった。
猿の面の男はまだ怒りが収まらないのか、肩を震わせていた。
朱鳥が助けを求めて回りを見るが、誰も動かない。
なぜか皆、朱鳥を見ているようだった。
「ー」
猿の面の男も朱鳥の顔を一度見てから、子どもの方を向く。
また、突き飛ばすきだろうか。
朱鳥は、この男の足にすがって動きを止めたかった。その際に蹴られるかもしれないが、子どもが蹴られるのを見ているよりはよほどいい。
でも、贄の自分が動いていいの?
贄が庇ったことで子どもに害が及んだらと思うと、怖くて子どもの側に行けない。
下手をしたら、子どもも朱鳥と同じ贄にされてしまうのかもしれないのだ。
そう思わせるほど、猿の面の男の剣幕はすごかった。
「ーー」
俯く朱鳥の耳にあの、涼やかな声が聴こえる。
あの声は、狒々のお面の…。
あの人は、優しい人だ。
そう一縷の望みをかけて、顔を上げる。
「!」
狒々の面の男は、いつの間にか突き飛ばされた子どもを見下ろすように立っていた。そして、倒れたままの子どもに手を伸ばし持ち上げた。
背の帯を掴んで、まるで荷物のように。






