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朱い橋  作者: 飴屋
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三日目もまた、宴会だった。


…私が太るまで、宴会はつづくとか…?


そんなまさか。

もしそうだとしたら、無駄が多すぎる。


今日は、剣舞から始まった。


虎のお面を被った大柄な人と、龍のお面を被った背の高い細身の人。


虎のお面の人は大きな剣を二振りで龍の人は細長い刀を一振。


優雅に舞いながら、時折二人で剣を交え、くるりと反転し位置を変えたりと、見ごたえのあるものだった。

ひらひらと着物の裾が揺れ、柄に巻いた帯が舞い上がる。


「ー!」


しかし。

龍の人が振り下ろした刀を、虎の人が受け止めずに避けてから、流れが変わった。


二人とも、動かない。


これで剣舞は終わりかな、と思うほど長く見つめあったのち、二人はそれぞれの武器をを構え直した。


キンッ!


刃がぶつかる激しい音が、宴会場内に響き渡る。


虎の人が振りかぶり、龍の人がそれを受けた音だった。

虎の人のほうが力があるのだろう。しかし、龍の人も負けてはいない。


…見、見えない…。


龍の人が、虎の人の剣を押し返して再び二人はにらみ合い、そののち、斬り合いになった。

朱鳥が目で追えたのは、そこまでだった。

激しい攻防に、朱鳥は何が起こっているのか分からない。


他の面をつけた人たちは見えているようで、手を振り上げ応援したり、二人が戦いやすいように場所を作ったりと、色々動いている。


どれくらいその戦いは続いたのか。


気付くと二人は朱鳥の目前まで迫ってきていた。


私、邪魔だ!


やっとその事に気が付いて、朱鳥はお膳を持って移動しようと試みる。


しかし、その時、虎の人が動いた。


「っ!」


剣の風圧が朱鳥に届く。

怖くなって、朱鳥は持っていた膳から手を離してしまった。

まだ低いところだったから、お膳をひっくり返さなくて済んだ。

でも、振動が伝わったのだろう。箸がカランと転がった。


「あっ」


膳から転げ落ちる箸を取ろうと朱鳥が手を伸ばす。しかし、あと一歩と言うところで届かず、箸が畳の上へ。


すると音に反応したのか、龍の人が朱鳥の方を見た。


「…ー」


龍の人が何かを言いかけたとき、虎の人が斬りかかってきた。


「!」


完全に隙をつかれていた。


私のせいだっ!


蒼白になる朱鳥だったが、龍の人は冷静に虎の人の剣を受け止めると、再び押し返し、そのまま刀を振り下ろした。


やはり目では追えなかったが、龍の人の持つ刀が光を反射しキラリと光ると、虎の人の剣は二本とも遠いところに跳んでいっていた。


「…」


一拍したのち、宴会場にいた人々は、わっ、と手を叩く。


決着が付いたんだ…。


虎のお面の人は一度だけ大きく息を吐くと、朱鳥に向かって頭を下げ宴会場から出ていった。


よく分からないながらも、朱鳥も手を叩く。


緊迫した空気も解けて和やかな、勝者を称える雰囲気になったのを感じたとき、朱鳥に思わぬことが起きた。


えっ。


龍のお面の人が、朱鳥の前に来ると刀を向けてきたのだ。


「あっ…」


そうだ、私は真剣勝負の邪魔をした…。


勝ったからと言って、許されるわけではない。

いや、そもそも、この勝負の賞品が朱鳥だったのかもしれない。


勝った方に贄を…?


どちらにせよ、輝く刃は朱鳥に向かっていて、朱鳥はあまりの恐怖で動けない。


「ー?」


何かを問いかけられているようだが、分からない。


「…ごめん…なさ」


掠れた声で聴こえたかどうか。

その時、突きつけられていた刀が不意に退かされた。


「ー!」


龍のお面の人が声を荒らげる。

そのさきに立っていたのは、あの狒々の面をつけた人だった。

持っていた扇子で、龍の面の人の刀を緊張感なく叩く。


「ー。ー?」

「!」


何か言い争いだろうか。

刀を何度も叩かれた龍のお面の人は、こちらを見ると、そのまま何も言わず去っていった。


…助かった…の?


いや、自分は贄として来たのだから、そう思うのはおかしい。

それでも、やはりあの刀の鋭さを思い出し、朱鳥は震えた。


「ー」


狒々の面の人は、穏やかな声で朱鳥に声をかけた。

通じていないのは分かっているのだろう。返事を待たずに、他の面の人々に向かって何かを語りかける。


剣舞によって乱れた室内は再び整え直された。

給仕の人たちが現れ、みんなに飲み物が振る舞われる。朱鳥にも渡された。


…お酒、じゃない。


透明な小さな器に、一瞬お酒かと思ったが、香りを嗅いで違うことに気付いた。


「おいしい…」


なにかの果汁のようだ。

淡い甘味は、緊張していた心を解してくれた。


回りをよく見てみれば、ここでも珍しい飲み物なのか、お面の人たちもゆっくりと味わって飲んでいる。


あの狒々のお面の人は…。


もしかしたら、あの人がここの責任者なのかもしれない。


そう思ってあのお面を探すと、すぐに見つかった。

少し遠く、宴会場の出入口の側に立っている。

ずっと、朱鳥を見ていたようだ。

目が合っているのだ、となぜか確信した。


「あっ」


ありがとう、お礼を言おうとしたとき、拍手が沸き起こった。


次の演目が始まったようだった。



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