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朱い橋  作者: 飴屋
6/17

次の日もまた、宴会だった。

昨日と同じ場所に座らされた朱鳥は途方に暮れる。


何で今日も…?


目の前には、御馳走。

お面を被っているので分かりづらいが、朱鳥がちゃんと食べているか皆が様子を伺っているようだ。


視線の圧力に負け、おそるおそる箸を手にする。

今日もまた、美味しそうなご飯だ。

これがまた食べられるのはとても嬉しい。ただ、ここに来てから朱鳥は何もしていない。

美味しいご飯を食べて、用意された布団で眠っただけ。

…夜に何かあるのだろうと待っていたが、朝、鹿のお面の人が起こしに来てくれるまで、誰も来なかったのだ。


私は誰に捧げられるんだろう…。


贄にしては厚待遇で、それがどういう意味を持つのか、朱鳥には分からない。


朱鳥は隣を見る。


…誰もいない。


朱鳥の村の基準でいえば、今朱鳥が座っているのは、偉い人が座る場所だ。

せめて隣に誰かいてくれたら、そのヒトが偉い人なのだと、おそらく朱鳥を食べる人だと思えたが、金の屏風の前には朱鳥一人。


食べごたえがないから…、とか?


やけに食事を勧めてくるのは、もしかしたら朱鳥は年頃の娘にしては薄い体だからなのか。

もっと太れと言われているのだとしたら、なんだかいたたまれない。


「 ー!」


もくもくとお膳のご飯を食べていると、誰かが手を叩いた。

つられて朱鳥が顔を上げると、華やかな衣装を纏った五人の女性たちが朱鳥の前に並んだ。


きれい…。


やはり皆、お面を被っている。

金魚のヒレのようなものがヒラヒラついたお面や、うさぎの耳がついたもの。

他のヒトたちのものよりも、色鮮やかでキラキラ光る。

それは一度だけ見た、母の螺鈿細工の小物入れの装飾に似ていた。

お面に目を奪われていると、五人はくるりと回ってから跪いた。


そのままどこからか琴のような音が奏でられる。単音が和音になり、二重、三重と重なっていく。やがて軽やかな旋律となると、女性たちは立ち上がりその音に合わせて舞い踊り始めた。


たおやかなその躍りは美しく、華やかな音楽がそれを盛り上げる。

女性たちはいつの間にか、きれいな花のついた枝を持っていて、くるりと回る度に、花びらがひらひら散った。


最後にその枝を朱鳥にくれた。


そのときに見た傷一つないきれいな手、滑らかな動き、朱鳥は見事に女性たちの虜になって、…はたと気付いた。


あの人たちが基準なら、私は一生追い付けないのでは…!?


何も贄に美しさは求めないとは思うが、…いや、求めないで欲しい。無理だ。

でも、あんな美しい女性たちがそばにいて、新しく求めてやって来た贄がみすぼらしい貧相な娘だったら…。


私は贄として失格なのだろうか…。


美味しいご飯を食べるだけ食べて、失格だと言われたら、どうすればいいのだろう。


朱鳥は目の前が真っ暗になった。


それからも、今まで聴いたことのないような荘厳な音楽や、優美な舞いに、楽しげな曲芸、たくさんの催しがなされた。


不可思議な幻術、手のひらから現れる炎や水がまるでリボンのようにくるくる回ったりと、やはり、ここの人たちは特別なんだと思い知らされる。


見ているときは心が踊ったものの、終わると、自分と比べてしまい、暗澹たる気持ちになった。



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