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着付けに化粧、髪結いと思った以上に時間がかかり、朝から支度をしていたというのに、全ての支度が整った頃にはもう辺りは薄暗くなっていた。
私が慣れない上質な履き物で、朱色の橋に一歩踏み出そうとしたときだった。
「待て」
「はい」
「馬はどうする?」
今日は私の婚礼で、馬とその背に乗せられた品々は私の嫁入り道具だそうだ。
「誰か、付き添うべきか?」
番頭の言葉に、みんなが勢いよく首を振った。
「いや。朱鳥以外、橋に乗るべきではないだろう」
「では、私が連れていきます」
馬の世話は得意だ。
みんなも、毎日私が世話をしていることは知っている。
着物の長い袖を右手で押さえ、左手を差し出した。しかし、手綱は渡されなかった。
「いや、その格好では無理だろう。引っ張られたら、どうする」
それは、私を思っての言葉ではなかった。
ただ傷がついて、向こう様が怒りはしないかと、心配しただけだ。私か馬か、傷がついて困るのはどちらだろうか。
「欄干に繋いでおきましょう。さすれば、我々の意図は通じるはずです」
「…そうだな」
これで話はついた。
そう、皆の視線が言っていた。
私は一度頭を下げて、橋へと向かい直した。