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朱い橋  作者: 飴屋
2/17

村の東の果てには大きな川が流れていた。

向こう岸が見えない、大きな川だ。

時折、好奇心に負け川に入り向こう岸に渡ろうとする者がいたが、その者が川から出てくることはなかった。

だからこの地域に住まう人々は水を汲むことはしても、川には決して入らなかった。


そして、その川には一つの言い伝えがあった。


一川に朱色の橋が架かるとき、贄を…




ある日、忽然と朱色の橋が表れた。


「伝承は本当だったんだな」

「贄って…?」

「記録によれば、前回は五百年前。当主の娘が捧げられたらしい」


視線の先には現当主の娘、ツバメが蒼白な面持ちで立っていた。


「嫌よ! 私は嫌!! お父様、こんな話信じるの!?」

「…だが、確かに橋は架かった」


そう昨日まで、確かに橋は架かっていなかったのだ。あんな立派な橋、一晩で架けることなど不可能だ。


「記録って、そんなぼろぼろの紙切れに書かれていることなんて…!」


ツバメは当主の後ろに控えていた男が持っていた紙を見る。

確かに、虫食いだらけで、一見すると塵芥だ。


「落ち着きなさい。贄とはあるが、当主の娘と指定されているわけではない。…誰か、罪人を」

「ですが、あまり望ましくない者の場合、何か罰が下りはしませんか…?」


そう言ったのは長老で、周囲の者も皆頷いた。


「五百年前贄を捧げたあと橋は消え、代わりに変えがたき財宝がもたらされた、とあります。価値のあるものでなければならないのでは?」


こちら側で罪を犯した罪人を流刑するのでは、意味がないのかもしれない。


「高貴な者、もしくは若い者、と言うことか?」

「…おそらくは」


当主には三人の子供がいた。

次期当主の鷹人。

長女、翼女(ツバメ)

末の妹、くいな。


「そうだわ、あの娘がいるじゃない!」


翼女が言う。


朱鳥(あとり)よ! あの娘なら、半分は家の血が入っているわ!!」


皆が顔を見合わせた。

翼女と同い年の朱鳥は、現当主の姉の子供だ。

現当主の姉は、親に決められた相手との結婚式の当日、姿を消した。

そしてある年、幼い妹を連れ朱鳥が現れた。

手にしていたのは一通の手紙で、短く『私の娘をよろしく』とだけ書いてあった。


父親はどこの誰だか分からない。


家に泥を塗った娘の子。

しかし、子供には罪はない。

現当主は、姪としてその少女を家に住まわせていた。


「…当主の血族で、若い者…」

「確かに、朱鳥も基準を満たしているのか」


くいなはもちろんホタルもまだ幼く、鷹人は跡継ぎだ。

ならば、翼女か朱鳥のどちらかになる。


「…しかし、朱鳥よりも翼女の方が血が濃いのでは?」

「いや、血が濃いことが重要かは分からない」

「足りないのなら、足せば良い」


当主が呟いた。


「なんぞ?」

「朱鳥に宝飾品を持たせて、捧げるのは?」

「…まるで、嫁入りだな」

「あぁ。それだ」


誰もが、贄を捧げないという選択肢を述べなかった。

一夜にして橋を架けられる者たち。人ならざる者たちに逆らって、こちら側に来られては堪らないからだ。




こうして、私の嫁入りが決まった。


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