男性と兎
兎
白衣を着ており、兎の仮面を被った女性。
この業界に同性が中々入ることがなく、透に興味津々。
狐に対しては結構辛辣な態度が見られる。
叶斗
今回仲間として迎え入れることになった男性。
見た目は20代前半。
少し言葉が強いが、優しい一面もある。
…それは、あの復讐が終わってすぐのこと。
あの忌々しい学校の屋上に私は立っていた。
制服に身を包んだ私は、屋上の柵を乗り越え飛び降りようとしていた。
…あぁ、これは‘‘あの時の夢だ‘‘と私はすぐに分かった。
狐「そのように命をすぐに投げうってはいけませんよ。」
この時何故学校内に不審者がいるのかとか、この人は誰にも見られずに、どうやって来たのだろうか。なんて普通は考えるのに、私は‘‘邪魔をする人‘‘と認識したんだっけ。
透「邪魔…しないで。こんな無価値な世界にいても、何のメリットもない。」
狐「ふむ…なら、私の頼みを聞いてはくれませんか?」
こいつ、何言ってるんだろう。って思った私は、
だいぶ失礼なこと言ったっけ。
透「見ず知らずの人の言うことを何故聞かないといけないの?それに、それを聞いて私に何のメリットがある?」
狐「…なら、貴女の望みを‘‘何でも‘‘叶えましょう。
言葉の通り、家を用意しろと言われれば望みの家を用意します。‘‘掃除用具を用意しろ‘‘と言われれば望みの物を用意しましょう。何なら貴女の復讐にもお手伝いします。…如何ですか?」
この時の私は、復讐が出来るならなんでもよかった。
正直、相手が悪魔だったとしてもこの話に乗ったであろう。
私は柵から内側に行き、狐の元に行く。
透「私、人間と同じぐらい嘘が嫌いなの。」
狐「嘘偽りがないこと、証明して見せましょう。私は狐とお呼び下さい。速水透さん」
透「…なら、来月にある遠足でクラスメイトと担任を殺す。その為に、行く場所の水族館を貸し切りにして。そして、初心者でも扱いやすい武器と、灯油tライター。」
狐「…早速要望を伝えてくるのは、貴女が初めてですよ」
そういい、私は教室に戻ったんだっけ。
目が覚めると、私は見慣れない天井の部屋だった。
…そうか、新しい家に引っ越してきたんだっけ。
そんなことを考えながら、適当に部屋着に着替え、ダイニングへと向かう。
狐さんが用意してくれた珈琲の豆を使い、マグカップに珈琲を用意する。
一人だと広すぎるリビングに行き、ソファーに座る。
壁に埋め込まれているのか大きな水槽があり、そこには
熱帯魚たちが優雅に泳いでいる。
この子たちを見ながら過ごせるというのは、私にとって
本当に天国のような時間だ。
〈ピロン〉静かな空間に通知音が響く。
狐さん以外に連絡先を知らないので、きっと仕事の内容だろう。
〈新しい依頼です。現在殺人の容疑を掛けられている
叶斗という人物を探し出し、仲間に引き入れること。私も同行いたしますので、明日10時にお迎え行きますので、本日はその準備をお願い致します。〉
…まあ、何人かいた方が仕事の周りが良いのだろうとは思うが。
透「…出来れば干渉してこない人だといいけれど。」
…翌日。
私は動きやすい服に着替え、軽く朝食を済ませる。
そして前に用意してもらった拳銃と小型ナイフを
足のホルダーに入れ、スマホを手に持ち家の外に出る。
時間より少し早めに出たはずなのに、もう狐さんが立っていた。
狐「おや?時間より10分ほど早いですが、もうよろしいのですか?」
透「…お母さんに、約束の時間より少し早めに準備しておきなさいって教えられていたので」
狐「素敵なお母様だったのですね。では、早いですが早速行きましょうか」
そういうと前の車とは少し違って、スポーツカーっぽい見た目の車に乗せられた。
狐「これは叶斗さんが好きらしいお車でして。
せっかくならと思いご用意しました。少し揺れると思いますがご了承下さい。」
透「乗り物酔いはしないと思うので、大丈夫です。
…ちなみに、その人の居場所は把握しているのですか?」
狐「大まかな目途は立っています。それでは、参りましょうか。」
狐さんは車を発進させる。だいぶ音がうるさいけれど、
まあ…しょうがないか。
…だいたい1時間ぐらい経った頃か。
どこかの港にある倉庫に着いた。
狐「おそろく情報が正しければここに潜んでいるそうです。」
透「ドラマとかアニメでありがちな展開ですね。」
狐「ふふっ、確かにそうですね。では、透さんは私の後ろに。」
狐さんは私を守るように歩く。
駒でしかないはずなのに、どうして…?
ガコン…と倉庫の扉を開ける音がする。
中は少し暗く、上から差し込む少しの日の光だけが頼りだった。
コツ…コツ。狐さんの靴の音と、微かに自分の履くスニーカーの音が聞こえる。
奥の方に行くと、物陰に隠れるように座る血だらけの男性がいた。
?「…奴らにしては人数が少ないし、足取りが軽い。
お前ら、誰だ?」
男性は虚ろな目で狐さんと私を見る。
?「狐面と…子ども?」
狐「貴方が叶斗さん、でお間違いないですね?」
叶斗「だったらなんだよ…俺を殺しに来たんじゃねぇのか?」
狐「いいえ、返答次第では貴方を助けます。衣食住の提供もさせて頂きます。…しかし、こちらの依頼する仕事を引き受けてくれることが条件ですが。如何ですか?」
狐さんは私と初めて話した時より少し冷たく言う。
私の時は相手が子どもだったから優しく言ったのだろうか。
叶斗「…いいぜ。ここから逃げれるなら、地獄だろうと
どこだろうと行ってやる。」
狐「話が早くて助かります。透さん、叶斗さんの反対側の肩を支えていただいてもよろしいですか?」
透「はい」
私は狐さんの言う通りに、男性の肩を支える。
叶斗「…お前、いくつだ?」
男性は私の方を向き質問する。
透「今年で17です」
叶斗「…こんな子どもを連れて。狐野郎はロリコンなのか?」
透「色々ことらにも事情があるので。安全な場所でお答え致します。」
そう答えると、男性は静かになった。
恐らくここまでの疲労のせいで気絶したのだろう。
車にゆっくりと乗せ、私も乗り込む。
狐さんはどこかに電話をした後、すぐに車を発進させた。
…病院ではなく、家に着くと玄関前に白衣を着た女性が
立っていた。その人は兎の仮面をしていた。
兎「おい、狐。けが人一人いるのは聞いていたが、女の子を新しく迎えに入れたことは聞いてないぞ。」
女の人は私の方に駆け寄りながら、狐さんを叱る。
狐「だって、貴女に言ったら会わせろだのうるさいじゃないですか」
兎「この業界に女の子なんて中々いないからだ!
少しぐらい親睦を深めさせろ!」
そういうと、今度は私を見る。
兎「ごめんね、うるさくして。私は‘‘兎‘‘とでも呼んでくれ。君、名前は?」
透「…速水透です。」
兎「透ちゃんね、これからよろしく。女同士じゃないと
話せない事とか色々あると思うし、何かあった時用に連絡先交換したいな」
…その人は狐さんと話すよりも優しく私に話しかけてきた。
そういえば、お母さん以外の女の人とあまり話したことなかったな。
透「はい。こちらになります」
兎「…オッケー、ありがとう。何かあったら気軽に相談してね」
そういうと兎さんは私の頭を優しく撫でた。
…誰かに撫でられたのも、お母さん以外なかった。
狐「中の医療室に運びましたよ」
いつのまにか男性を運び終えた狐さんが戻ってきた。
兎「こっちも最初の挨拶が終わったところだ。
取り合えず手当しとくから、二人はゆっくりしてるといい。」
そういうと兎さんは中に足早に入って行った。
狐さんは少し考える素振りをした後に、私の方を向く。
狐「では手当が終わるまで、ゆっくり致しましょうか。
本日はもう依頼はないので、服を着替えてもらって構いませんよ。せっかくですので、私も少しお邪魔させてもらってもよろしいですか?」
透「狐さんが用意して下さった家ですので、私の許可は必要ないかと。」
狐さんは少し驚いた…ように見えた。
もしかして、もうここは私の家だから勝手に入るなとでも言われると思っていたのだろうか。
狐「では、お言葉に甘えさせてもらいますね。
珈琲、ご用意しておきます。」
透「ありがとうございます」
…今日はなんだか疲れた。そう思ったが、これからまだ疲れそうな気がする私は、軽い溜息をついたあと、自室に入るのだった。