初めての復讐
ハヤミ トオル
速水 透 高校生
在学中に唯一の家族である母を亡くす。
母以外の人間がとても嫌いで嫌いで仕方なかった。
幼い頃、父が母と自分を捨て家を出ていき、
周りは助けてはくれず、学校では虐められていた。
しかし、母だけは自分の味方であり、全てだった。
珈琲は中学くらいから好きで飲んでいる。
キツネ
狐 若いとしか分からない男性
透がビルの屋上から身を投げようとしていた所を、
スカウトした人物。
掃除道具だけでなく、家までも提供してくれる謎の人物。
契約として、「貴女の復讐を手伝うから、こちらの要望を叶えて欲しい。衣食住はこちらが提供する」というもの。
透からしたら、全てであった母がいなくなり、
「どうでも良くなった世界にいてもいなくても良い」と言う考えなので、狐のことは詮索していない。
…魚は好き。こちらに対して干渉をして来ないし、
向こうも何か思っていたとしても話しかけてこない。
だから私は水族館という空間が好きだ。
…しかし、水族館には魚以外にも人がたくさんいる。
そこがとても嫌いだ。
ある人達は仲良く話をしていると思えば、片方が片方に対して憎悪を持っていたり、またある人達は手を繋いで仲良いカップルを演じていると思えば、お互い別の好きな人がいたりと…。
人間はやはり、醜くてとても傲慢な生き物だ。
透「…折角の珈琲が不味くなる」
私は誰もいなくなった水族館で、珈琲を飲んでいた。目の前には、魚たちが優雅に泳いでいる。
…死んだら、魚に生まれ変わりたいと切実に思う。
珈琲が無くなり、おかわりを持ってこようと立ち上がると、足元に転がっていたカバンを蹴ってしまった。
それは、私のカバンではなくクラスメイトの物だったカバンだ。
透「あぁ、ごめんね川野さん。カバン蹴っちゃった…って、聞こえてないか」
川野さんのカバンの近くに転がる川野さん自身。
その身は彼女自身の血で真っ赤に染まっていた。
透「今日はいい日だ。静かに魚たちを眺められる…。けど、このゴミたち片付けないとな〜」
足元に転がるたくさんの肉塊。
同じクラスだった人達や、先生。みんなもう静かに横たわっていた。
透「これからどうしようかな。魚たちには罪無いし…」
このたくさんのゴミたちをどうしようか考えていると、川野さんが前に言っていた言葉を思い出す。
川野「ゴミは燃やすのが手っ取り早いよね〜?
速水さんもそう思うでしょ?こんな、''ゴミ''。捨てた方がいいよね〜?」
そう言いながら母が昔作ってくれた御守りを焼却炉の中に入れる。それは、母が最後に残してくれた物だというのに。
透「…どうしてこんな事するの?」
川野「どうして?楽しいからに決まってるでしょ?その顔!!反抗的な目!その目が絶望に染まった時が1番興奮するの…!」
そう言いながら、私のありとあらゆる物を燃やしていく。それを見ないようにと目を逸らすクラスメイトと、担任の先生。
…あぁ、嫌なことまで思い出した。
でも、ありがとう川野さん。
透「貴女も言っていたから、同じことをするね。
魚たちには申し訳ないけれど…。」
そう言い、事前に準備していた灯油を肉塊に満遍なく注ぐ。
そして、ライターの火をつけ床に落とす。
火はすぐに燃え広がり、私はゆっくりと外に出た。
外に出ると1人の男性が待っていた。
?「もう、良いんですか?」
透「…えぇ、ゴミは処理しました。ありがとうございます、この様な形で復讐の機会を与えて下さって」
黒いコートを身に纏う男性は不敵に微笑みながら、私を見て言う。
?「いえ、貴女にはこちら側の才能がありますので。その貴女様が来て下さるというのであれば、どんな事でもお手伝いさせて頂きますよ」
透「…まぁ、契約ですから。」
私は男性が用意してくれた車の後部座席への向かう。今度は、私がこの人達に使われる番だ。
…車に揺られながら、ふと男性の名前を覚えていないことに気がつく。
透「そういえば、お名前何でしたっけ?」
狐「こちら側の名前しか教えられませんが、''狐''とお呼びください。」
透「狐さんね。今度は忘れないようにしておきます」
そう言い、車を走らせる狐さん。
確かに顔は狐の仮面を被っているから、間違いではないか…。
狐「そういえば、お疲れかと思うので何かお飲み物を買ってきますが、何がよろしいですか?」
私は決まっている好きな飲み物、そして場所を伝えた。
透「魚が見える場所で、珈琲を飲みたいです」
狐さんはチラリと私を見る。
仮面の下から見えるその目は、何を思ったのか
ニコリと笑っているように見えた。
狐「そしたら、とっておきの豆を揃えて置きます。
…魚はそうですね。新しい家にならあるので、そこでも宜しいですか?」
透「どこでも構わない…静かなら、それで」
私は会話を終え、外の様子を眺める。
ビルや建物がキラキラと輝いていて、人もたくさん歩いている。あぁ…すごく。
透「すごく…吐き気のする光景だ」