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第009話 楽な仕事


 階段を上がると、3階の倉庫にやってきた。

 倉庫は2階のフロアと同じ作りになっており、広さも同じだ。

 とはいえ、手前に3つの木箱に入ったポーションとレンガ、それに木の枝があるくらいで他には何もない。

 まあ、人もいないんだから倉庫も空なのは理解できるが、やはり寂しすぎる。

 一人を得意とする俺ですらこう思うのだからエーリカは大変だったんだろう。


 俺はたくさんの枝が入った木箱を空間魔法に収納すると、2階に降りていく。

 そして、自分のデスクに戻ると、コーヒーが置いてあった。


「エーリカが淹れてくれたのか?」

「はい。淹れましたんでどうぞ」

「ありがとう」

「いえいえ!」


 気遣いもできるのか……


「美味いな……」


 正直、味のわからない男の俺はいつものコーヒーとの差がわからなかった。

 だが、エーリカがニコニコしながら見ているので感想を言わないといけないと思ったのだ。


「良かったです! コーヒーを淹れるのは得意なんですよ!」


 あっぶねー……

 でも、この子は良いな。

 求めている答えがわかりやすいし、俺みたいな対人関係初心者には難易度が低くて助かる。


「なあ、エーリカ、別に敬語じゃなくてもいいぞ。俺達は同僚だろう。というか、ここではお前の方が先輩だ」


 俺は上下関係にはうるさくないので気にしない。

 それにこの世界は意外とそういうのが緩く、俺も同級生や同僚には貴族相手でもタメ口をきいたりする。


「いえ、ジークさんの方が先輩ですし、3級じゃないですか。それに私はこういう人間なんです」


 まあ、本人がそれでいいならいいか。


「わかった。よし、方眼紙を作ってしまうか」

「あのー、見ててもいいですか? 私、やったことないので参考にしたいんです」


 向上心もある……

 この子は伸びそうだな。


「いいぞ」

「ありがとうございます!」


 空間魔法から枝の入った木箱を取り出し、足元に置く。

 そして、1本の枝を取ると、デスクに置いた。


「えーっと、紙を作る機材はないんだよな?」

「専門の業者さんのところにしかないと思います」


 だったらその専門の業者に頼めよってものすごく言いたい依頼だ。

 でも、これはそういうことじゃない。

 あくまでも俺達のため。


「紙を作るのはそう難しいことじゃない。こうやるんだ」


 木の枝に触れ、魔力を込める。

 すると、木の枝が光り出し、あっという間に数枚の方眼紙に変化した。


「え? 終わり?」

「そうだな」

「早くないですか? しかも、目盛りまである……」

「方眼紙なんだから目盛りがあるのは当たり前だろう」


 何を言ってるんだ?


「私、授業では錬金術で紙を作ってからそこからさらに錬金術で目盛りなんかを描くって習ったんですけど……」


 俺もそう習ったな。

 非効率だなと思いながら先生の話を聞いていた。

 とはいえ、いきなり応用を教えるのはさすがにないことはわかっている。


「最初はそれでいい。でも、慣れてくると一気にできるようになるんだよ」


 俺は最初からできたけどな。


「す、すごいですね……さすがは3級です」


 階級なんて関係ない。

 できる奴は最初からできるし、できない奴はできない。


「3年もやってるからな。エーリカもそのうちできるようになる。でも、今は一つのことを丁寧にやって、少しずつ慣れていくのがいいぞ」

「わかりました! 頑張ります!」

「うんうん」


 頷くとすぐにヘレンを見る。


「お見事です。その気遣いができる会話が大事なのです」


 やはりこれが正解か。

 思ったことを言わなくて良かった。


「本部のプライドだけが高い奴らと比べて、エーリカは素直だし、ライバルにならなさすぎて良いな」


 10級だし。


「そういうことは言ってはいけません。事実を言いすぎて失敗したんですよ」


 なんかマズいことを言ったか?

 

「エーリカ、すまんな」

「え? 何がですか?」


 エーリカが笑顔のまま首を傾げる。


「知らん」


 悪いことを言ったらしいから謝ったが、よくわかっていない。


「良い人で良かったですね……」


 それは俺もそう思う。


「そんなことより、もう一回見せてくださいよー」


 エーリカが俺の腕を触る。


「そうだな。今度は順番に見せてやろう」


 もう1本の枝を取ると、すぐに紙に変える。

 そして、作った紙をさらに目盛りがついた方眼紙に変えた。


「すごいですねー。本当に一瞬です」

「スピードが大事だったからな。でも、今はそこまで依頼があるわけじゃないし、丁寧にやれよ」

「はーい。じゃあ、私もポーションを作っていきますね」


 エーリカが自分の担当のポーションを作り始めたので俺も残りの枝を方眼紙に変えていく。

 すると、昼前にはすべての枝を方眼紙に変え終え、エーリカも昼休みのチャイムが鳴るのと同時にポーションを作り終えた。


「依頼はこれで終えたな?」

「そうですね。昼からチェックして、明日に納品しようかと思います」


 次の仕事もくれるよね?

 やることないんだが……


「そうか……まあ、飯にしよう」

「そうしましょう」


 エーリカが頷いて、カバンからランチボックスを取り出し、デスクに置いたので俺も空間魔法から朝飯でおかわりしたパンと水、それとサプリメントを取り出した。

 そして、サプリメントを水で流し込むと、パンを食べる。


「あ、あの……食事は?」


 ランチボックスから取り出したサンドイッチを手に持つエーリカがおずおずと聞いてきた。


「あー、そうか……ほらー、ヘレン」


 空間魔法からヘレンの食事を取り出すと、デスクに置いた。


「わぁ……! ありがとうございます!」


 ヘレンはデスクに飛び乗ると、がつがつと食べだす。


「美味いかー?」

「はい。すごく美味しいです」


 うんうん。

 ヘレンの食事は俺が作った特製のキャットフードだからな。

 栄養バランスも抜群で味も良い。

 実際、俺が食べても美味かった。


「あ、いや、ジークさんの食事です。パンだけですか?」

「サプリメントを飲んだだろ」

「サ、サプリメントって何ですか?」

 

 あ、そうだった。

 この世界にはまだそういう概念がないんだった。


「人間は色んな食物から栄養素を得るんだ。詳しくはどうせわからんだろうから省くが、親とかに色んなものを食べなさいって言われただろ?」

「確かに言われましたね。私は子供の頃、お魚がダメだったんです」


 魚を食べないのはいかんな。

 まあ、子供の頃の話か。


「何故、それを言うのかというと偏食は体を壊すということを経験的に知っているからだ。俺はその研究をし、人間の活動に必要な栄養素を調べたんだよ」


 これは嘘。

 前世の知識である。

 俺は前世からカップラーメンやおにぎりとサプリメントしか食べていなかったから詳しいのだ。


「へー……すごいですね。でも、パンだけは寂しくないですか? 私のサンドイッチいります?」


 エーリカがランチボックスを差し出してくる。


「いや、それはエーリカのだろう。それに俺はこのパンで十分だ」


 うん、美味い。


「ジーク様はもう少し、食事に興味を持たれると良いと思うんですけどね」


 ほっとけ。


「ジークさんはお食事が嫌いなんですか?」

「いや、そんなことないぞ。ただ、俺は何を食べても美味いという感想しか出ないから何でもいいんだ」


 これは前世からである。

 好き嫌いがなく、何でも美味しく食べることができた。

 ただ、上司や取引先と高級な料理屋に行くことはあったが、どれも同じ感想しか出てこないからバカらしくなったのだ。

 だって、寿司もコンビニのおにぎりも一緒なんだもん。


「そうなんですか? うーん、でも、色んなものを食べた方が生活が豊かになると思いますよ」

「私もそう思います」


 俺はそう思わない。

 はい、以上…………いや、もしかしたらこれもダメなのかもしれない。

 今の俺には目標もやりたいこともない。

 まだ人生は長いし、色んなことを経験して目標を得た方が良いかもしれない。


「じゃあ、1つもらえるか?」

「どうぞ。私が作ったんですよ!」


 そりゃそうでしょうよ。


 そう思いつつ、口には出さずにサンドイッチを1つ取り、食べてみる。


「うん、美味いな……うん、美味い」


 感想が出てこねー。

 すまん。

 食レポは無理なんだ。


「良かったです!」

「ありがとうな。代わりにサプリメントをやろうか?」


 ビタミンはお肌に良いんだぞ。


「あ、なんか怖いので大丈夫です」


 皆、そう言うんだよな……

 師である本部長ですら『毒だろ? お前、私を殺す気だろ?』って言ってたし……


お読み頂き、ありがとうございます。

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悪かったなからの知らんは流石に笑っちゃうw 頑張れ、ジーク……
[一言] 本部長にも責任があったな。
[一言] ……もしかしてストレスによる味覚障害だったんじゃ?
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