第082話 メンタルケア
電話が終わったので受話器を戻す。
「何かあったのかい? 王都とか魔剣とか聞こえたけど」
お茶を用意し終え、テーブルについているレオノーラが聞いてくる。
「ちょっとなー……」
そう答えながらレオノーラの対面に座った。
なお、ドロテーはコップに入った蜂蜜をストローで器用に飲んでいる。
「何かマズいこと?」
レオノーラがカップにお茶を注いで渡してくれる。
「いや、そういうことではない。本部長が陛下から魔剣作りの依頼を受けたそうだが、本部長は剣が好きじゃないから手伝ってくれって言われたんだよ」
手伝うというよりも行って作る感じだがな。
でも、どこで作るんだろうか?
俺のアトリエはもうないよな……
「へー……いつ?」
「お前らが試験を受ける時についでに来いってさ」
「おー! じゃあ、一緒に行けるんだね!」
そんなに嬉しいか?
子供じゃないんだから別に行けるだろ。
「まあな。ホテルとかも考えないとなー」
「実家とかないの?」
「うーん、しいて言うなら本部長の屋敷だが……」
チラッとヘレンを見ると、ものすごく嫌そうな顔をしていた。
「ヘレンが本部長の使い魔の鷲のことを苦手にしているんだよ」
「あいつ、うざがらみしてくるし、突いてくるから嫌いです」
「わかるわー。本当にわかるわー。あのバカ鳥はデリカシーがないのよねー」
ドロテーも同意する。
「あー、ヘレンちゃんがダメならダメそうだね。ホテルにしなよ」
「そうだな。俺も本部長の家は嫌だし」
特に理由はないけど、嫌。
「せっかくだし、一緒のホテルにする? エーリカとアデーレも一緒」
そうするかな……
「どこだ?」
「セントラルホテル」
聞いたことあるな……
俺でも聞いたことあるということは……
「高いのか?」
「うん。せっかくだし、贅沢しようってなったんだ」
ふーん……そういや、昼休みにそういう話をして盛り上がっているのをはた目で見た気がする。
「まあ、俺も寝泊まりするところは充実するようにしているが……」
アデーレに教わった。
「じゃあ、いいじゃん。電話してあげる。懇意にしているところだから」
レオノーラがそう言って立ち上がり、電話の方に行く。
「懇意って……貴族だなー」
「貴族だよー」
レオノーラが電話をかけ始めたのでお茶を一口飲んだ。
「レオノーラさんは本当に良い人です。ジークさんは弟子運に恵まれて良かったですね」
ドロテーがうんうんと頷く。
「クリスの弟子ってどんなのだ?」
本部長の弟子である同門共は知っているが、その弟子はほとんど知らない。
「いやー、苦労してますよ。優秀な人もいますが、鼻につく言動をしますし、逆に真面目な方もいますが、どうも考えが固まっていけません……ってクリス様が愚痴っていました」
大変そうだな……
「そりゃ苦労しているだろうな。確かに弟子運に恵まれて良かったわ」
もっとも、鼻につく奴は弟子にせんがな。
どんなに優秀でも俺以下なのだから身の程を知れ。
そのままお茶を飲みながらドロテーと話していると、レオノーラが戻ってきた。
「何、何ー? 何の話ー?」
「ジークさんにはもったいないお弟子さん達だなって話です」
「そう? 3級のジーク君の方がすごいよ」
「人間ができてるー! ジークさん、この優しさに甘えたらダメですよ。そういう男は将来、熟年離婚されます」
何の話だよ。
「はいはい……レオノーラ、ホテルは?」
「普通に空いてたから取れたよ」
「悪いな」
「別にいいよ。よーし、勉強を頑張ろ」
お茶を飲み終えると、レオノーラが勉強を始めたので俺もそれに付き合った。
しばらくすると、アデーレが呼びにきたのでエーリカの家で夕食を食べる。
そして、夕食を食べながら本部長との電話の件をアデーレとエーリカにも伝えた。
「へー……じゃあ、あなたもついてきてくれるのね」
「心強いですー」
そうか?
「試験を受けるのはお前達なんだから俺がいようがいまいが関係ないだろ」
「そんなことないわよ。試験を知っている人がいてくれた方が安心でしょ」
「そうですよー。師匠がいてくれた方が心の持ちようが違います」
わからん……
「ジーク君、試験の時のアドバイスとかないの?」
レオノーラが聞いてくる。
「うーん……試験は試験官が俺以下だなーって思ってたな。お前らに俺を評価する資格があるのかって心の奥底で思ってた」
「絶対に態度に出てたと思うわよ、あなたは……」
「出てただろうねー……」
出てたかもな……
「まあ、そういう感じで自信を持つと良いと思うぞ。実際、お前らは普通にやれば9級、8級程度なら受かると思う」
余裕、余裕。
「ジーク様、そういう言葉を試験前日や当日の朝にかけてあげるべきなんだと思います」
「そうですよ。あなたのその長所でもあり、短所でもある絶対的な自信をお弟子達に分けてあげるべきです」
なるほど……
しかし、人間(俺)より人の心に詳しい猫とカラスだな……
「じゃあ、行って正解なわけだな。陛下も良い仕事を本部長に依頼したもんだ」
この前の魔剣より良い魔剣を作らないといけないだろうな。
世界に数本しかない雷属性の魔剣でも作るか。
「そういえば、陛下はなんでそんな依頼を本部長に出したの? 軍ならわかるけど、陛下が魔剣なんているのかしら?」
アデーレが聞いてくる。
「あ、そう、それ。アデーレの爺さんって軍のお偉いさんだってな」
「ん? まあ、確かそうだったと思うわ。あまり軍のことは詳しくないんだけど、よく実家に怖そうな人が訪ねてきてたわね」
怖そうな人……
軍人はごついし、強そうだからな。
ルッツは爽やかだけど。
「実はアデーレが来る前に大佐から魔剣製作の依頼を受けたんだよ」
「魔剣? また珍しい依頼を受けたわね」
「まあな。その魔剣は何かの祝いってことで大佐からアデーレの爺さんに贈られたんだ」
「そういえば、この前、お爺様の誕生日だったわね」
え? 誕生日の祝いに魔剣を贈ったのか?
過剰すぎんか?
「その魔剣をアデーレの爺さんがあちこちで自慢したらしく、それを耳にした陛下が魔剣を欲しくなったんだと」
「……この場には私達しかいないけど、コメントは控えさせてもらうわ」
アデーレも子供かって思ったな……
「まあ、そういうわけでお前達が試験を受けている間は魔剣作りだな。報酬に抽出機と分解機をくれるってさ」
「それはいいわね。ケチがついてないやつだし」
「建物も新築になり、機械も来るわけだね」
「楽しみですねー」
3人共、笑顔だ。
やはりさっさと建て直してもらうべきだな。
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