第081話 本部長と話す
本部に電話をかけると、呼び出し音が聞こえてくる。
『こちら錬金術師協会本部です』
呼び出し音がやみ、受話器からこの前の受付嬢の声が聞こえてきた。
「こちらリート支部のジークヴァルトだ。本部長に繋いでくれ」
『かしこまりました。少々お待ちください』
受付嬢がそう言うと、すぐに保留音に切り替わった。
「ジーク君、砂糖いるー?」
「蜂蜜がいいです」
「レオノーラさんはジーク様に聞いたんです!」
うるせーなー……
「砂糖はいらない……あ、もしもし?」
保留音がやんだので声をかける。
『ジークか? 砂糖って何だ?』
本部長だ。
「お茶の話です。ウチに電話がないので同僚の家からかけているんですよ。支部の電話も燃えちゃいましたしね」
『あー、そういうことか。お前も電話くらい買ったらどうだ? そのくらいの蓄えはあるだろ』
「誰にかけるんです?」
『…………いつでもかけていいぞ』
かけねーよ。
同情すんな。
「そんなことはどうでもいいです。電話しろって支部長に言ったらしいですね」
『ああ、もちろん支部の件だ。とんでもないことをする奴がいるんだな』
「田舎の王様が調子に乗ったってところじゃないですか? だからバカは嫌いなんですよ」
普通、近い奴が止めるだろ。
典型的な周りをイエスマンで固めた愚か者だ。
『まあな。それで燃えた支部を復旧せねばならんが、なんとかなりそうか?』
「無理です。完全に焼けました。建て直すしかないですね」
『そうか……そっちに人を送るからそいつに状況説明をしてくれ』
誰が来るんだろ?
「早めにしてくださいね。仕事になりません」
『どうせロクな仕事はないだろ。少しは休んだらどうだ?』
「ダメです。今はようやく仕事が回り出し、信頼を取り戻している大事な時なんです」
嘘はついていないが、それ以上にいつまでも火事現場を放置するのはマズいのだ。
何しろ、裏が俺達の家だから玄関を開けたら嫌でも目に入ってしまう。
アデーレは来たばっかりだからそこまで気にしないと思うが、エーリカとレオノーラはいい気分ではないだろう。
『そうか……じゃあ、急ぐか。ちなみに、要望はあるか?』
「4人で話し合いをし、間取りなんかの図面を作っています」
『新築でノリノリじゃないか……』
それぐらい良いだろ。
「職員のメンタルケアのためですよ。ここに長くいた者は泣いていましたし」
泣いてないけどな。
『ふーん……わかった。担当の者に渡してくれ』
「あ、これは絶対なんですけど、防火壁にしてください」
『あー……確かにな。気持ちはわからんでもない。それも担当の者に伝えろ』
よしよし。
「じゃあ、頼みます。あー、それとクリスの使い魔のドロテーが残っているんで回収もお願いしますね。王都まで飛んで帰るのがだるいって言ってます」
『ドロテー? ああ……クリスのヒステリックガラスか……』
「誰がヒステリックですか! おたくのバカ鷲より賢いですよ!」
よく聞こえたな……
『あん? 誰がバカだ、下品ガラス』
この声は本部長の使い魔である鷲のカルステンだ。
「あんたよ、あんた!」
「ドロテーちゃん、急にどうしたの? あまり家の中で羽ばたかないでくれないかい? 羽根が……」
ドロテーの黒い羽根が床に落ちている。
「あ、すみません」
金髪好きのドロテーが素直に謝った。
「本部長、使い魔を刺激しないでください。こいつら、仲が悪いんですよ」
『あー、そうだったな。カルステン、空の散歩にでも行ってこい』
『はーい』
鳥同士はさらに仲が悪いからなー。
「そういうわけでドロテーを連れて帰ってくださいね。というか、クリスは?」
ドロテーはクリスの前だと大人しいからあいつが来ればいい。
『あいつは出張でまだ帰ってきてない。ドロテーがいるならウチの者を送るか……』
ウチの者?
同門かな?
「誰でもいいですけど、仕事ができる奴にしてくださいね。グダグダ言う奴は時間の無駄です」
『うーん……まあ、事情が事情だからなー。わかった。それとな、お前、ちょっとこっちに来れるか?』
は?
「なんで? 王都に異動ですか?」
『んなわけないだろ。自分でリート支部がまともになるまで頑張るって言ってただろ』
言ったね。
燃えちゃったけど。
「じゃあ、何の用ですか?」
『ちょっと仕事を頼まれてくれ』
「何です? すぐにできるのにしてくださいね」
『実は陛下から魔剣作りを頼まれたんだ。私は杖を作るのは得意だが、剣なんて興味ないから知らんのだ』
魔剣?
「陛下が魔剣ですか? また何のために?」
『お前、アデーレの爺さんに魔剣を作っただろ』
はい?
「いや、アデーレの祖父なんか会ったこともないですし、名前も顔も知らないレベルなんですけど……」
『あー……前にリート軍の大佐から魔剣の依頼を受けただろ?』
あったな。
少佐の不正のお詫び依頼みたいなやつ。
「受けましたね。Aランクの炎の魔剣を作りました」
『Aランクって……』
「評判を上げようと思ったんですよ。私は逆に魔剣を作るのは得意ですからね」
かっこいいし。
『それだよ、それ。その魔剣は軍の元帥に贈られた。それがアデーレの爺さんだ』
え?
「アデーレの祖父ってそんなに偉いんですか? 田舎貴族でたいしたことないって聞いてますけど?」
『軍に身分は関係ない。強い奴が出世するんだよ』
へー……
アデーレが魚も触れないほどのビビりなのにそれでも気が強いのは祖父の血かねー?
「それでなんで陛下が? 欲しくなったんですかね?」
『アデーレの爺さんはお前が作った魔剣を大層気に入ったようであちこちに自慢したらしい。それが陛下の耳に入ったんだな』
どっちもガキか。
小学生じゃねーか。
「アホくさ。それで私の師である本部長にもっと良い魔剣を作れって依頼したわけですか?」
『そういうことだな。師匠だったら当然、できるだろって感じだ。なーんもわかってない』
わかってないなー。
錬金術師にだって、個性や好みがある。
たとえば、エーリカはレンガやインゴットを作るのが上手だし、レオノーラは薬を作るのが好きだ。
そんな感じで錬金術師には専門分野というものがちゃんとある。
それは上に行けば行くほど顕著になるものなのだ。
「手伝えと?」
『頼む。私だってエンチャントは得意だが、魔剣なんか触ったこともないわ』
本部長はそうだろうな。
剣が好きなのは大抵、男だし。
「いつです? 今、ちょっと外せませんよ?」
『来週末は国家錬金術師の試験があるだろ。その時にでも来い。どうせ、お前の弟子共は試験を受けるんだろ?』
あー、その時か。
「支部を空けてもいいもんですかね?」
『支部ないじゃん』
まあ、そうなんだけど、こいつはこいつで人の気持ちがわからない奴だな。
「いいですけど、2、3日で帰りますからね」
『おー、悪いな。2、3日で作ってくれ』
全部、やらせる気だな……
2、3日で終わるか?
無理じゃない?
「下請けの依頼料はもらいますからね」
『抽出機と分解機をやるよ。燃えたやつよりも良いやつ』
ほう。
それは良いな。
「それで」
『はいよ。じゃあ、頼むわ』
本部長がそう言って、電話を切った。
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