第063話 デートです
いつもお読みいただきありがとうございます。
誠に勝手ながら本作におけるキャラクターの設定を以下のように変更いたします。
エーリカの髪色 茶→銀
アデーレの髪色 黒→赤
本作では最初の登場シーンのみに描かれている描写ですが、このように変えさせていただくことをご承知ください。
お詫びとして、本日は21時ごろにもう1話投稿いたします。
引き続き、本作をよろしくお願いいたします。
アデーレと暗くなりつつある町を歩いていくと、以前も泊まったサイドホテルに到着した。
すると、前にもいた老紳士のフロントマンが近づいてくる。
「御予約のお客様ですか?」
「ああ。最上階のレストランを予約しているジークヴァルトだ」
「かしこまりました……ちなみにですが、そちらの猫は?」
「使い魔だ。俺は魔術師なんでな」
良いところの店にペットを連れて入ることはできない。
だが、使い魔は別だ。
使い魔は魔法使いにとって大事なパートナーであり、人によっては拒否すると激昂することもある。
ちなみに、俺は激昂しないが、嫌味を言う。
「さようですか。でしたら問題ありません。では、こちらに……」
老紳士が案内してくれるみたいなのでホテルの中に入った。
そして、階段を昇っていき、最上階までやってくると、レストランに入る。
すると、すぐに若いウェイターがやってきた。
「こちらは御予約のジークヴァルト様だ」
「かしこまりました……ジークヴァルト様、ようこそ当レストランへ。どうぞこちらへ。席に案内します」
若いウェイターについていくと、隅の方にあるテーブルに案内される。
そこからは外が見えるし、確かに眺めは良かった。
「本日はコースを予約されておりますが、間違いないでしょうか?」
俺達が席につくと、ウェイターが確認してくる。
「問題ない」
「お飲み物はどうしましょうか?」
飲み物……
「ワインでいいか?」
アデーレに確認する。
「ええ。それで」
「ワインをおすすめで」
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
ウェイターが戻っていくと、アデーレと外の夜景を見る。
「部屋で見るより高いから綺麗だな」
「そうですね。王都では絶対に見られない風景です。ちなみにですけど、ジークさんもスイートに泊まられたんですか?」
「多分、そうだと思う。あの優待券を出したら金も払わずに案内されたし」
いくら良いホテルとはいえ、あんなに広くて良い部屋が普通の部屋ということはないだろう。
「なるほど。だから覚えられているんでしょうね。こんなに良い席ですし」
アデーレにそう言われて他の席を見てみる。
何席かは埋まっており、金を持っていそうな男女が飲み食いをしていた。
しかし、アデーレが言うようにこの席は町並みや海が一望できるため、眺め的には一番良い席に思える。
「そんなに前じゃないとはいえ、よく覚えているもんだな」
「私の名前を出した客ですし、ジークさんはヘレンさんがいますから印象に残るのでしょう」
ふーん……
「なあ、ちょっと気になっていることを聞いてもいいか?」
ずっと気になっていた。
「何でしょう?」
「なんで敬語なんだ?」
寮でレオノーラと話している時からずっと敬語だ。
「雰囲気です。お気になさらないように」
雰囲気って何だろ?
「まあ、何でもいいか」
俺達がそのまま待っていると、ワインが来たので乾杯した。
そして、コース料理を食べていく。
「美味いんだが、一度に来いって思うのは俺だけか?」
「あなただけでしょうね。こういうものです」
コース料理は前世でもあったから知ってるが……
どうしても時間の無駄って思ってしまうな。
「こういう料理をよく食べていたわけか?」
「あまり貴族を勘違いしてほしくないんですが、普通ですよ。王都にいた時だって、その辺の店で食べてました。貴族だってこういう店に来る時は特別な日だけですね。ましてや、私もレオノーラも下の方の貴族ですから」
へー……
「普通の店でも良かった?」
「そう言いませんでしたか? まあ、嬉しいですけどね」
アデーレがそう言って夜景を見る。
「俺、エーリカやレオノーラも連れてこないといけないんだよなー」
多分、試験も受かるだろうし。
「良いじゃないですか。2人も一度は来たいでしょうし、師匠ならそれくらいはしてあげるべきです」
まあ、眺めは綺麗だし、料理も美味しいから良いんだけど、ちょっと身構えるんだよな。
「アデーレ、新しい仕事場はどうだ?」
「それはとても良いですね。ちゃんと錬金術師として仕事ができますし、充実しています。気心が知れたレオノーラもいますし、エーリカさんも良い方です。というか、お世話になりすぎているくらいですね」
結局、アデーレもずっと食事を御馳走になっているしな。
「ジーク様はどうですか?」
おい、猫……
そういうデリケートなことを聞くんじゃない。
俺が傷付くだろうが。
「ジークさんも丁寧に仕事を教えてくださいますし、とても良いですよ」
アデーレがヘレンに向かって微笑んだ。
「ジーク様は正直なだけで根は良い方なんですよー。あとちょっとコミュニケーションが苦手なだけです」
いらんフォローだなー……
「なんとなくわかりますよ。私もそこまでコミュニケーションを得意とはしていませんし」
仲間、仲間。
天と地との差があるけど……
「アデーレは受付嬢だったから大変だっただろうな」
「それはもう……そもそも私は家族からも愛想が良くないと言われていました。最初に受付嬢と聞いた時は『私が? なんで?』って思いましたね」
「愛想の悪い美人は怖いからな。あ、俺はそんなこと思ってないぞ」
「ジーク様は怖いの部分を言っているのです」
すかさずヘレンがフォローした。
「あ、すまん。ヘレンの言う通りだ」
さっきの言い方だとアデーレを美人と思っていないと伝わってしまう。
非常に失礼だ。
「わかっていますので大丈夫です。それにまあ、挨拶を無視するくらいですから怖いと思っていないのもわかっています」
「無視する方が怖いもんなー」
あはは……
「いや、すまん」
「お気になさらずに。過去のことですし、それよりもリート支部に誘ってくれたことが嬉しかったですから。働きやすいですし、本当に良いところです」
不満はなさそうで良かったな。
「それでさ、今日、町長と会ったんだけど、流れでアデーレも弟子ってことにしたわ。悪いな」
「んー? 別に構いませんよ。教えてもらっていることは確かですし」
「そうか? 同級生が師匠って嫌じゃないか?」
俺は嫌。
「同級生と言ってもジークさんと私では差がありすぎますからね。特に何も思いませんよ」
「そうか……じゃあ、そういうことで。弟子と言っても教えるくらいだけどな」
「ありがとうございます」
俺達はその後も食事を楽しみながら話をしていると、最後のデザートを食べ終えたので帰ることにした。
夜道をアデーレと共に帰っていると、支部が見えてくる。
「美味かったな」
「そうですね。眺めも良かったですし、良い雰囲気でした。誘っていただきありがとうございました」
値段もそこまでだったし、あれならあと2回も余裕で行けそうだ。
「そう思ってくれたのなら良かった。でも、あんまり飲まなかったな」
「それも雰囲気です」
雰囲気ばっかりだな……
「まあ、あんなところで泥酔したら雰囲気が壊れるのはわかるな」
「でしょう? そもそもそんなに飲みませんが、ああいう場所ではセーブします。どうです? レオノーラやエーリカさんを誘って飲み直しますか?」
まあ、俺もそんなに飲んでないし、明日は釣りとはいえ、休みだからな。
「そうするか……」
俺達は寮まで戻ると、エーリカの部屋のインターホンを押した。
すると、エーリカが出てくる。
「あ、おかえりなさい。どうでした?」
「良かったな。試験、頑張ってくれ」
合格したら連れていく。
「はい! それでどうされました? 勉強会をするんですか?」
「さすがに飲んでいるし、それはしない。ただあまり飲まなかったし、飲み直そうってなったから一緒にどうかなって思って」
「あ、ジーク君、炭酸で割るやつを飲ませてよー」
部屋の奥にいるレオノーラが手を上げた。
「あー、それか……エーリカもどうだ? 薄いやつを作ってやるぞ」
「わかりましたー。ジークさんのお部屋です?」
うーん……炭酸を作る機械って重いんだよな……
「そうだな」
「じゃあ、行きまーす。あ、でも、洗い物だけ済まします」
「私はとっておきのジャーキーを取ってくるよ」
レオノーラがそう言って、部屋を出てきて、2階に上がっていく。
「アデーレは着替えるか?」
「いえ、このままでいいわ」
「そうか……敬語は?」
「終了。雰囲気ね」
雰囲気かー……
雰囲気ってマジで何だろ?
お読み頂き、ありがとうございます。
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