表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/216

第032話 電話


 支部に戻った俺達はそれぞれの仕事をする。

 エーリカがインゴットを作り、レオノーラがレンガを作っていた。

 俺はというと、鉄から作った刀身を眺め、調整をしていた。


「昨日くらいからずっと眺めていますけど、何をしているんですか?」


 エーリカが聞いてくる。


「歪みやわずかな凹凸がないかを確認し、それを調整しているんだよ」

「そうなんです? ぱっと見は立派な剣に見えますけど……」

「俺もそう見える。でも、剣を贈るような軍人は気にしたりするからな。要はオタクなんだよ」


 多分、使わずに飾っておくような剣だろう。


「へー……ウチは去年も魔剣の納品がなかったんで知りませんでした。そういうものなんですね」

「というか、武器作成の依頼はほぼなかったね」


 戦争とは無縁の南部の辺境だからなー。


「でも、インゴットの依頼は多いだろ」

「確かそこそこあった気がしますね。先輩達が作ってました」

「それらを北部に送って剣なんかを作るんだよ。俺も剣だけじゃなく、槍や矢尻なんかを作ってた」


 あれは楽で良かったな。


「そうなんですねー。じゃあ、このインゴットも武器になるんですかね?」


 武器が嫌いなエーリカは気になるのかもしれんな。


「さあなー。鉄なんかどこにでも使われているだろ」

「それもそうですね。きっと飛空艇に使われるんでしょう」


 いやー、そのDランクのインゴットは使われないだろうな。

 飛空艇に使われる素材はBランク以上じゃないといけないのだ。

 そんな野暮なことは言わないけど。


「だなー……さすがにこんなものでいいかな」


 調整を終えた刀身をデスクに置く。


「完成ですか?」

「ああ。これにエンチャントをしたら完成だな。今日、紅鉱石からエレメントを抽出して、明日エンチャントして納品」

「へー……そんなにすぐにできるもんなんですね」

「俺はこれが得意だからな。普通はもっとかかる」


 1週間はかかるだろう。


「さすがはジークさんですね!」

「当然だな」


 俺はその辺のボンクラ共とは違うんだ。


「自慢しかしない男とヨイショ女……」


 レオノーラがポツリとつぶやく。


「事実を言っているだけだ」

「ヨイショ女……え? 私、そんな感じです?」


 うん。


「そんなことないぞ。エーリカは俺と違って、人の良いところを見つけるのが上手いだけだ」


 俺は逆。

 人の粗を探すのが上手い。

 というか、そこしか見ていない気がする。


「――おーい。ジーク、電話だぞー」


 俺達が話をしながら仕事をしていると、2階に上がってきた支部長が声をかけてきた。


「電話? 誰ですか?」

「本部のアデーレだと。例の奴じゃないか?」


 アデーレという名の知り合いは例の奴しかおらんな。


 俺はチラッとレオノーラを見る。

 レオノーラが電話に出ないかな?


「君をご指名だよ」

「そうか……」


 仕方がないかと思い、立ち上がると、支部長のところに行き、一緒に1階に降りる。


「支部長、電話を2階にも設置してくれません? 受付がいないし、支部長もいちいち面倒でしょ」


 この支部には1階の誰もいない受付にしか電話がない。


「それもそうだな。明後日の休みにでも業者を呼んでおくわ」

「お願いします」


 1階に降り、支部長が自分の部屋に戻ったので受付にある電話を取る。


「もしもし、アデーレか?」

『ええ。ごきげんよう、ジークさん。お仕事中でしたか?』


 そらそうだろ。


「いや、一段落ついて休憩していたところだ。アデーレは仕事じゃないのか?」

『私も休憩時間です。それで異動の件なんですが……』

「許可が得られなかったか?」


 そういうこともあるだろう。


『いえ、あっさり得られましたね。許可が下りないとは思っていなかったのですが、ものすごい早さでした』


 下りたんかい……

 いや、ありがたいことではあるが……


「そうなると、いつ頃来られそうだ?」

『すみませんが、私は荷物が多いのでちょっと荷造りや引っ越しに時間がかかります。有休を取ろうと思っているのですが、それでも来週くらいになると思います』


 俺はすぐに終わったが、女性は時間がかかるか。

 ましてや、アデーレは貴族だし、物も多そうだ。

 まあ、2週間後の予定だったのが1週間になっているし、問題ないどころかありがたいことだろう。


「わかった。こっちではどこに住むんだ? 2LDKで住める寮という名のアパートがあるぞ。しかも、割引が利いて2.5万エル」

『ええ。そちらに住もうと思っています』


 貴族とはいえ、通勤30秒は魅力かな。


「じゃあ、初日から住めるようにこちらで事前に申請を出しておこう」

『ありがとうございます。助かります』

「いや、こちらこそありがとう。アデーレが来るのを待っている」


 例のナンパ本を参考にすると、ここで『君と一緒に働けて嬉しいよ』って言うべきなんだろうが、嘘くささが半端ないから言わない。


『はい。それでですね、本部長が電話を寄こせって言っています』


 ん?


「本部長? 何の用だろ?」

『さあ? 確か、師でしたよね? 近況を聞きたいんじゃないでしょうか?』


 そんなことを気にする人じゃない。

 というか、飛ばした張本人だ。


「回せるか?」

『ええ。少々お待ちください。あ、またこちらを出発する前に連絡しますので』

「ああ。わかった」


 返事をすると、受話器から保留音が聞こえだした。

 そして、しばらくすると、保留音が止む。


『ジークか?』


 本部長の声だ。


「どうも。何の用です?」

『相変わらず、急かす奴だな』

「仕事中なんですよ」


 別に急いでないけど。


『まあいい。そっちはどうだ?』

「悪くないですね。ヘレンがいればどこも一緒です」

『ヘレン? あー、あの泣き虫猫か』


 ヘレンは本部長の使い魔の鷹が怖くてすぐに引っ込むのだ。


「泣き虫じゃないですよ。そんなことより、この支部の人の少なさは何ですか? 俺が来る前は2人しか錬金術師がいませんでした。しかも、2人共、10級です。異常でしょ」

『それな。こちらでも問題視されていた。だからお前を送ったんだよ』


 ちょうどいい左遷野郎がいたわけね。


「北部の町で飛空艇を作るって引き抜かれたって聞きましたけど? よく許可しましたね?」


 異動するにしても本部長のハンコがいるはずだ。


『ジーンの町だな。王家からの発注の飛空艇だ。こちらも拒否できん』


 ジーンは北部の西の方にあるそこそこ大きい町だ。


「なんで王家からの依頼が王都の本部じゃなくてジーン? あ、いや、王妃様か」


 王妃様の出身がジーンだったはずだ。


『そういうことだ。立場上、あまり言及したくない話題だな』


 王妃様の鶴の一声か。

 まあ、そういうこともあるだろう。


「それなら仕方がないですね。飛空艇作成が終わっても仕事は多いでしょうし」


 どこの世界もそういう癒着はある。


『だな。それでリート支部がそういうことになっている。だからアデーレの異動願もすぐに許可を出したんだ。願ってもないわ』


 そういうことか……


「どうも。他にもいません?」

『リートに行きたい奴なんているわけないだろ。アデーレはよく異動願を出したわ。何だ? 彼女だったのか?』


 皆、そう言うな……


「彼女なんているわけないでしょう。単純に同級生ですし、こっちにはアデーレの友人がいたんで誘っただけです。まあ、オーケーをもらえるとは思っていませんでしたが」

『そうか……そっちの同僚はどうだ? 10級だし、使えんか?』

「経験がないだけで使えないことはないですよ。こっちの仕事内容から見ても十分です。何よりも人が良いですね」


 そこは非常に助かっている。


『ほう……それは良かったな。まあ、頑張ってくれ。一応、そっちの支部長からの要請で希望者は募っておく。期待しないで待ってろ』


 絶対に来ないな。


「わかりました。あ、アデーレに交通費くらいは出してくださいね」

『はいはい。じゃあな』


 本部長が電話を切ったので受話器を置く。


「ヘレン、アデーレが出発前に連絡するって言ってたな?」


 本部長との会話よりもそちらが気になった。


「はい。言っておられましたね」

「真意は?」

「出迎えに来てもらえると喜びます」


 やっぱりか……


「さすがに俺でもわかったな」


 何しろ、俺自身がエーリカにしてもらったし。


「アデーレさんも来たことがある町ですが、さすがに出迎えるべきでしょう。こちらが誘ったわけですし」

「確かにな……」


 俺は支部長にアデーレの部屋の件を伝えると、2階に上がり、仕事に戻ることにした。


お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新作】
宮廷錬金術師の自由気ままな異世界旅 ~うっかりエリクサーを作ったら捕まりかけたので他国に逃げます~

【新刊】
~書籍~
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(1)
左遷錬金術師の辺境暮らし 元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました(2)

週末のんびり異世界冒険譚 1 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~
週末のんびり異世界冒険譚 2 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

【現在連載中の作品】
その子供、伝説の剣聖につき (カクヨムネクスト)

週末のんびり異世界冒険譚 ~神様と楽しむ自由気ままな観光とグルメ旅行~

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~

バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~

最強陰陽師とAIある式神の異世界無双 〜人工知能ちゃんと謳歌する第二の人生〜

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~

【漫画連載中】
地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~
がうがうモンスター+
ニコニコ漫画

廃嫡王子の華麗なる逃亡劇 ~手段を選ばない最強クズ魔術師は自堕落に生きたい~
カドコミ
ニコニコ漫画

35歳独身山田、異世界村に理想のセカンドハウスを作りたい ~異世界と現実のいいとこどりライフ~
カドコミ
ニコニコ漫画

左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~
ガンガンONLINE

【カクヨムサポーターリンク集】
https://x.gd/Sfaua

【次にくるライトノベル大賞2025 エントリー】
https://x.gd/OSPb9
― 新着の感想 ―
悲しいモンスターが人間力が成長して来てる。
[気になる点] >「ヘレン、アデーレが出発前に連絡するって言ってたな?」 >「真意は?」 >「出迎えに来てもらえると喜びます」 >「さすがに俺でもわかったな」 全く気が付かなかったので自分のコミュ力…
[一言] 主人公追い出した計画には盛大に失敗してもらいたいね まあ主人公の性格も悪かったから非が無い訳じゃないけどあっちはあっちで権力使ってあれこれしてくれたしな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ