第279話 コミュニケーションが苦手な兄妹
ヴァルターが帰っていったので共同アトリエに戻り、席につく。
「ヴァルター先輩は何の話でした?」
エーリカが聞いてくる。
「たいした話じゃない。民間も鉄がなくて困っているんだと。そのことに関する情報交換ってところだ」
「そっか……鉄不足で困るのはウチや鍛冶師だけじゃないですよね」
同じ錬金術師だから民間も困るわけだ。
「どうも民間のアトリエには組合がないらしい」
「あー……ないですね」
「理由があるのか?」
「えーっと?」
なんかエーリカが言いにくそうにしている。
「ジーク君、民間は談合が当たり前だから組合なんて作らないよ」
レオノーラが教えてくれる。
「下手にそういう組織を作ると面倒になるわけか」
それで皆が鉄や銅を買い漁るのを止めることができなかったわけだ。
「責任問題とか色々あるんだって。前に他所に移っちゃった先輩に聞いた」
だからエーリカも知っているわけだ。
「ぼったくってんだから価格調整をしてるわな」
皆が受注額を上げればそれが適正価格だ。
しかも、それを役所が咎めようにも組合もなく、談合は個人個人で行われているから摘発が難しいんだ。
もっとも、それを止めるためにウチがいる。
魔導船作りはまさしく、その構図だった。
「私達は私達の仕事をするしかないよ」
「そうだな」
俺達は仕事を再開し、この日もひたすら銀やアルミを錬成し、それに鉄を抽出していく。
そして、夕方くらいになり、そろそろ一週間が終わろうとしていた。
「サシャ、明日は休みだが、どうする?」
「そうですねー……ちょっと町を見て回ろうかなと思います。海を見たいですしね」
良いことだと思う。
海は俺も好きだし、テレーゼの鬱を治したと評判だ。
「マルティナはどうするんだ?」
「友達と会います」
友達か……こいつはいっぱいいそうだしな。
「そうか。まあ、良いことだと思うぞ」
断言はできない。
理由はロクに友達がいない俺は知らないから。
俺達は片付けを終えると、支部裏のアパートに戻り、エーリカの家で夕食を食べた。
そして、この日も勉強会をしていく。
「エーリカー、明日だけど、どうするー? 勉強会をする?」
レオノーラがエーリカに聞く。
「明日は実家に帰りますね。もし良かったらドックを見に来ませんか?」
前に言ってたやつだ。
社交辞令じゃないらしい。
まあ、エーリカはそうか。
「いいの?」
「もちろんですよー。来てください」
「やったね。初めて、ご両親を紹介してもらえる」
嬉しいか?
「レオノーラ、その冗談はやめなさいね」
あ、例の嫁云々か。
「わかってるよー」
しかし、見事に行く流れになっているな。
ちらっとゾフィーを見ると、ゾフィーもこちらを見ていた。
「……なあ、俺も行く感じなのかな?」
「……そうじゃないの? というか、私は誘われていないわよね?」
どうだろと思い、2人でヘレンを見る。
「皆でっていう意味だと思いますよ。用事があるサシャさんとマルティナさんはあれですけど……」
そうなの?
「もちろんですよー。ジークさんもゾフィーさんも来てください」
気を遣った様子もなく、本当に最初から頭数に入っているようだった。
「そ、そうか……」
「私もなんだ……」
わからないよなー?
その後も勉強会をしていき、いい時間になったので解散した。
そして、部屋に戻ると、風呂の用意をし、リビングに戻る。
すると、ソファーに座っているゾフィーが何か悩んでいた。
「どうした?」
「明日、エーリカの実家に行くじゃない?」
「そうだな」
そうなってしまった。
正直、エーリカって断りにくいんだよな。
すごい罪悪感が生まれるから。
これがハイデマリーが苦手って言っていたやつだろう。
「あんたらはさー、同僚って挨拶するわけでしょ? ジークに至っては師匠」
「まあ、そうだな。いつもお世話になってますってやつだ」
いえいえ、こちらこそーって感じ。
これはさすがに大人のマナーなので知っている。
「私は何て自己紹介すればいいの?」
いや、知らねーよ。
「同僚でいいんじゃないか?」
「私、リート支部所属じゃなくて、本部なんだけど」
「じゃあ、そのまま言えよ、もしくは、叔母弟子で良いだろ」
「嫌よ! 『え? こんなに小さいのに?』って思われる」
別にエーリカと同い年なんだから良いだろ。
というか、チビなのは紛れもない事実だ。
「じゃあ、本部から出張で来ている友達とかなんかでいいだろ」
「友達? 私ら、絶対に友達って感じではないわよね?」
それを俺に聞かれてもね……
こいつ、本当に人見知りだな……
「ヘレン、どう思う?」
ここはヘレン先生の出番だ。
「正直にそのままを言えばいいと思いますよ。出向できている同僚のゾフィーです。以前も来たことがありますが、その時からお世話になっています」
「ふーん……ジーク、この子、頂戴よ」
誰がやるか。
ましてや、使い魔を枕にしようとした奴にウチの可愛い子をやるわけない。
「ダメに決まってるだろ。いいから風呂に入れ。俺も入って、ウィスキーのロックを飲みたいんだよ」
「はいはい……」
ゾフィーが風呂に入ると、続いて、俺も入った。
そして、風呂から上がると、ウィスキーのロックを飲む。
「ゾフィー、明日からちょっと手伝ってくれないか?」
ソファーで本を読んでいるゾフィーに頼む。
「んー? 何を? 廃品のリサイクル作業ならもうやってるじゃないの」
「それとは違う件だ。ちょっと勉強会終わりに作業をしたい」
「ふーん……まあ、いいわよ。お酒を飲むよりずっと健康的だし」
「頼むわ」
ゾフィーが頷いてくれたのでウィスキーのロックを飲み干し、もう一杯だけ飲んで就寝した。
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