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左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~   作者: 出雲大吉
第7章

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第276話 とっとこエルちゃん


 マルティナが抽出を始めたのでゾフィーと一緒にじーっと見る。


「あ、あの……気になるんですが……」


 マルティナが困ったように顔を上げた。


「気にするな」

「気にしないで」

「そうは言いますが、プレッシャーが……ダメですかね?」


 不安そうだ。


「いや、できてるぞ」

「ええ。できてるわね」


 サシャよりもさらに遅いし、魔力のバランスも悪い。

 もっと言えば、魔力を無駄に消費しまくっており、実に非効率だ。

 だが、ちゃんとできている。

 銅鉱石すらもロクに錬成できず、魔力を1ミリも動かせなかったマルティナではない。


「そうですか? なら良かったです」


 うーん……ハイデマリーかエルネスティーネか……


「その調子でやってくれ」


 その後も錬成をしながらマルティナを見ているが、ドヘタクソながらも失敗もなく、鉄を抽出していた。

 はっきり言えば、10級試験で容赦なく落とすレベルにひどいが、前のマルティナを知っているので本当に成長したなと思える。

 実際に錬金術師として始動して1ヶ月ちょっとであることを考えれば十分な進歩である。

 ちょっと感動すら覚える。


 本当に頑張っているんだなーと思っていると、マルティナのデスクの隅に置いてある木箱の穴からハムスターが顔を出した。


「んー? もう着いたのか?」


 ハムスターが顔だけを出し、キョロキョロと周りを見渡す。

 こうやって見ると、警戒している小動物のようで本当に可愛い。


「あ、エルちゃん、もうリートに着いて、今は支部だよ」

「ふーん……そういや普段見ないメンツがおるの」


 エルネスティーネがこちらを見てくる。


「王都ぶりだな」

「そうじゃの。ところで、マルティナ、妾の飯はどこじゃ?」


 もう昼は過ぎている。


「え? あー……ないです」

「三食を出さぬ飼い主は嫌じゃのー。ペット虐待じゃ。おぬしのような者が飽きて、どこぞに捨ててしまい、生態系を壊すんじゃ」


 昼食がなかっただけですごい言い様だ。

 やっぱり食い意地が張ったハムスターだわ。


「か、買ってきます」

「あ、クッキーとかのお菓子ならあるよー」


 エーリカが助け舟を出し、お茶コーナーのところに向かう。


「それじゃ」


 エルネスティーネは巣箱から出てくると、マルティナのところからゾフィー、俺のデスクの上をとっとこ走って、エーリカのところに行く。

 そして、エーリカがクッキーを差し出すと、それを抱えるように持ち、ガジガジと食べだした。


「いっぱいありますんでいくらでも食べていいですよ」

「美味いのー……やっぱりおぬしのところが良かったの」

「エルちゃん!?」


 エルネスティーネはマルティナをガン無視でクッキーをめちゃくちゃ食べていく。

 そして、満足したのかべたーっと横になった。


「あー、食った、食った。アサリが食べたいの」

「あ、ありますんで明日、持ってきますよ」

「ええ嫁じゃのう」


 お前は食っちゃ寝する休日のだらしない旦那に見えるぞ。


「お前、普段からそんな感じか?」

「暇じゃからの。あの女だらけの部署は色々くれるからええわ」


 可愛がられているって聞いたな。

 まあ、言動はともかく、見た目はハムスターだし、わからないでもない。


「ハイデマリーと上手くやっているか?」


 正直、相性が悪そう。


「あの娘は頭がええの。魔力操作も綺麗じゃし、錬金術師向きの人間じゃ。難点は責任感が強いところじゃろうな。いくらなんでも弟子が多すぎる」


 まあ、多いな。


「ダメか?」

「良いことだと思うが、いちいち手を止めて、丁寧に教えておるから自分のことができていない。あれは優しすぎて人の上には立てんな。人の上に立つにはある程度、切り捨てないといけない」


 意外な評価だ。


「でも、それだったらマルティナが可哀想だろ」

「まあの」

「がーん! 切り捨てられる第一候補が私!」


 そりゃそうだろ。


「切り捨てられたら可哀想じゃし、見てやるか」


 エルネスティーネはとっとこ走っていくが、俺のデスクで止まった。

 というか、丸まってスヤスヤ寝ているヘレンの前だ。


「んー? ハムスターさんですか……」


 ヘレンが片目を開けた。


「いたのか、猫……存在感を消すのが上手いな」

「ハンターなんで」


 ハンター?

 こう言ったらなんだが、ヘレンが何かを獲ってきたことないし、完全に家猫だろ。


「ふーん……」


 エルネスティーネは丸まっているヘレンをよじ登っていく。


「何です? もう食べてあげませんよ?」


 すごいセリフだ。

 例の食べられた妾っていう一発ギャグのことだと思うけど。


「ちょっと尻尾を立てて、曲げてみい」


 背中によじ登ったエルネスティーネが指示をすると、ヘレンが尻尾を立てた。

 すると、エルネスティーネが尻尾を滑り台に見立てて、滑っていく。

 しかし、尻尾の先がくるっと上を向いていたのでジャンプ台のように飛び、デスクにべちゃっと落ちた。


「おもろいのう」


 エルネスティーネはキャッキャとはしゃぐと、もう一度、ヘレンのところに走っていき、よじ登っていく。


「お前、マルティナはどうした?」


 遊びに夢中か?


「マルティナ? おお、そうじゃった!」


 エルネスティーネは思い出したようにヘレンから降り、マルティナのところにとことこと走っていった。


「エルちゃん、どうかなー?」


 マルティナが抽出中の鍋を見せる。


「ふむ。ドヘタクソだな。こんなひどい魔力の流れを見たことがない。今からでも遅くないから別の道を探した方がええぞ」


 辛辣ハムスター。


「頑張りますからぁ……」

「向いてないのに……まずは魔力をもう少し抑えろ。そんなにいらんわ」

「抑えているつもりなんだけど……」


 それで?


「ヘタクソ。貸してみい」


 マルティナが鍋を置くと、エルネスティーネがよじ登って鍋の中に入った。


「マルティナ、マルティナ。今日の夕食じゃぞ! ハムの煮付け」


 遊んでばっかりだな。

 こいつのために回し車でも作ってやろうかな?


「全然、面白くないですし、真面目にやってくださいよー」

「はいはい。よーく見ておくんじゃぞ。抽出っていうのは取り出したいもの以外の不純物を取り除くイメージじゃ」


 なんかハムスターが錬金術を始めている……

 しかも、魔力にまったく無駄がなく、ゾフィーと遜色ない。


「ほー……エルちゃん、錬金術もできるの?」

「こんなもん、遊びじゃ」

「試験受けたら受かるんじゃない?」


 受かりそう。

 それもかなり上の資格も。


「受かるわけないじゃろ。ペンを持てないから筆記がゼロ点じゃ。あと途中で飽きて、遊ぶか寝る。妾はハムスターぞ。すでに飽きたわ」


 確かに集中力は皆無っぽいな……


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

コミカライズが更新されておりますのでぜひとも読んで頂ければと思います。(↓にリンク)


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
なんか小腹すいてきた…コンビニでハム鍋買ってこよ
このハムスター有能すぎん? 一匹いたら凄い幸せになれそうなんだが 何処行ったら拾えますか?(笑)
使い魔って多分長生きするだろうし(ころころ使い魔変わるみたいな話は聞かないから)、主人の足りない部分を補ってくれるし、そりゃあ大事にもされるし蔑ろにされたら不機嫌になっても不思議はないわなあ。 長生き…
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