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第027話 話し合い


 夕食を終えると、自分の部屋には戻らずに2人の勉強を見ていく。

 2人共、経験がないだけで地頭自体は悪くない。

 だが、どうしても得意不得意がはっきりしているため、そこを重点的に教えていった。

 そして、勉強時間も終わったのでエーリカが淹れてくれたお茶を飲み、一息つく。


「私はギリだね……」


 レオノーラが閉じた参考書を眺めながら首を傾げた。


「大丈夫、大丈夫。お前なら受かる」

「その期待は何? 落ちたらとんでもない軽蔑しきった目で見てきそうだよ」


 そうしないように気を付けるわ。


「受かるように勉強しろ。いつでも見てやるし、教えてやる」


 やることないし。


「ありがとう、師匠。頑張るよ」

「ありがとうございます」


 頑張れ。


「ちょっと今後の話をしたいんだが、いいか?」

「今後?」

「何でしょう?」


 2人が錬金術の本を置く。


「今、役所から通常の依頼と緊急依頼が来ている。あとは軍から魔剣作成の依頼だな。こういうのを地道にやっていけば、ウチの支部も信頼や信用を取り戻せると思うんだ」

「だろうね」

「頑張りましょう」


 うん、頑張ろう。


「つまりな、今後は依頼が増えていく可能性が高いわけだ。ちょっと本格的に人員を増やす策を考えないと残業続きになるぞ」


 支部は儲かるだろうが、肝心の職員が潰れてしまう。

 俺は慣れているから耐えられるが、経験も体力もない2人は厳しいだろう。


「そうだねぇ……でも、人を集めると言っても厳しいよ。まず錬金術師は数が少ないし、空いている人なんていないよ」


 それはそう。

 しかも、こんなところに来る奴なんて問題がある奴だけだろう。

 もちろん、俺のことね。


「エーリカ、例の囲い込み作戦はどうだ?」

「この前、学校に行って、先生に話はしましたよ。ただ、すぐに結果は出ないと思います」

「そうか……」


 まあ、そうだろうな。


「囲い込みって何だい?」


 レオノーラが聞いてくる。


「まだ資格を持っていない錬金術師志望の学生や受験勉強中の奴をバイト扱いで雇うことだ。要は経験を積ましてやるし、勉強も見てやるから受かったらウチで働いてねっていう青田買いだな」

「なるほど……でも、それってジーク君の負担が大きいでしょ。今はそれよりも即戦力じゃない?」


 それはそうなんだけど、その即戦力がウチに来るメリットがないんだよな。


「レオノーラ、知り合いとかいないか?」

「いないねー。家の繋がりも途絶えたし」


 家出したんだったな……


「あのー……ジークさんの知り合いはどうです? 王都の学校にいたわけですし、本部で働いていたわけでしょう? もっと言えば、本部長さんのお弟子さんだったわけですし、同門の友……お知り合いとかいないんですかね?」


 エーリカが以前、スルーしたことを改めて聞いてくる。


「いない。学校の知り合いも職場の知り合いもアデーレだけだ。それに同門の連中には確実に嫌われている自信がある。まあ、それにあいつらはわざわざリートには来ないだろう。頭でっかちでたいした能力はないが、皆、エリートだし」


 本部長の弟子は10人弱いるが、皆、6級以上だったはずだ。


「そ、そうですか」

「まあ、その言い方的には嫌われてるかもね」

「ジーク様、兄弟子さん達にそんな言い方はないですよ」


 本人達の目の前では言わないようにするから大丈夫だよ。

 俺は変わったんだ。


「気を付ける。まあ、そういうわけだから引き抜けそうなのはいないな」

「アデーレさんがいるじゃないですか」


 え?


「アデーレ?」

「はい。御友人なんでしょう?」


 微妙……


「あいつがここに来るメリットがあるか?」

「それはわかりませんよ。メリット、デメリットで考えたら何もできませんし、誘ってみるだけならタダじゃないですか」


 まあ、そうなんだけどさ……


「じゃあ、手紙を書くか」


 文通が続いちゃうけど……


「電話したらどうです?」

「あー、そっちが早いか……だったら明日にでも本部に電話してみるか。あいつ、受付だし、出るだろ」

「仕事中に引き抜きの電話はマズいのでは?」


 まあ、確かにな。


「今からかけたらどうだい? 私、アデーレの家の電話番号を知ってるよ?」


 レオノーラが提案してきた。


「ウチに電話はないな……エーリカは?」

「私もないです。支部に行きます?」


 一応、仕事に関わることだし、問題ないか。

 まあ、咎める人間もいないけど。


「私の家に電話があるよ? それでかけなよ」


 レオノーラの家には電話があるらしい。

 電話って安くないんだけど、さすがは貴族だわ。


「借りていいか……あ、いや、レオノーラがかければいいのか。友達だし」


 こんな時間に女性の家を訪ねるのは良くない。

 すでにエーリカの家にいるけど……


「電話を貸すからジーク君がかけなよ。アデーレと友達なんだろ? それに君がリーダーじゃないか」


 いつの間にリーダーに?

 まあ、キャリア的にも実力的にも俺がリーダーか。

 こいつらの師匠だし。


「ちょっと待て……まずはこんばんはか?」


 ヘレンに聞く。


「そうですね。無視の件がありますし、挨拶は絶対に必要です。あと、いきなり電話をしたことと夜にかけたことを謝罪するんです」


 なるほど……


「また会議が始まったねー」

「温かく見守りましょうよ」


 2人が優しい目になる。


「お前らも何かないか? 女の意見を聞きたい」

「あまり話を用意しない方が良いですよ。それをすると用意した話をしよう、しようと思ってしまって、逆に話が噛み合わないことになります。そういうのはバレます」

「そうだね。素で行きなよ……あー、アデーレの返信がそっけなかったのもそれかもね。君からの手紙に君らしさがなくて、嫌だったんじゃない?」


 何それ?


「どういうことだ?」

「明らかに助言をした人間の影が見えたんでしょ。2人のやりとりの手紙のはずなのに第三者の影が見えたらがっかりするもんでしょ」


 な、なるほど?


「主にヘレンなんだが?」

「そんなのは向こうはわからないよ」


 俺もアデーレが何を考えているのかわからない……


「じゃあ、電話してみるわ……」

「そうしよう。よし、ウチにおいで」

「なんかドキドキしますね」


 こいつら、楽しんでないか?


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