第262話 ジーク研究家のアデーレ女史
広場に戻ると、3人に役所で話したことを説明する。
「じゃあ、私達はこのままインゴットを作っていればいいわけですね」
「そうなるな」
エーリカの言葉に頷く。
「これ、結構な問題じゃないかなー? 鍛冶屋が機能しないと、作ったものを売っている商人も困るし、最終的には生活をしている人々が困るじゃないか」
レオノーラの言うことはもっともだ。
「そうなるな。ウチは困らないから安心だがな。責められることもない」
「まあ、そうかもしれないけどさ……」
なんかテーブルの下で足を蹴られている。
よく見ると、アデーレがジト目だ。
「何だ?」
「ジークさん、喉乾いてない? コーヒーでも淹れましょうか?」
なんかアデーレが怖いぞ……
地雷踏んだ?
どこにあったんだろう?
「あ、休憩にしましょうか。私が持ってきますよー」
エーリカが笑顔で立ち上がった。
「私も行くわ」
アデーレも立ち上がると、2人は協会の方に行ってしまった。
「レオノーラ、お前、足を蹴ったか?」
「アデーレだね」
やっぱりあいつか……
「俺、なんか怒らせるようなことを言ったか?」
「いや、そういうことじゃないよ。単純にエーリカの実家はその鉄なんかを使う船大工だよってことだけ」
…………なるほど。
「ウチは困らないが、エーリカの家は困るわけだ」
「心配だねぇ」
「そうだな……」
わかるかって思ってしまう俺はやはり35点……
「船大工ってどういう仕事なんですか?」
ヘレンが聞いてくる。
「船を作るんだろ」
「そだね」
「いや、それはわかりますが……前に皆さんが作っていたような感じですか?」
ふむふむ。
ヘレンは船のことを知らないか。
「俺達が前に作ったマルティナ号は魔導船だ。錬金術で作られ、魔石を動力にして動く。一言で言えば、魔法の船だな。木材なんかは普通だが、動力なんかは完全な魔道具だ。風がなくても進むし、風によるスピードにプラスされるから速い。それに小回りも利く。一方で高いんだ」
まあ、あれは補給用の小さい船だったからそこまでだったが、あれが戦闘用の大きい船だととんでもない値段になる。
「へー……じゃあ、エーリカさんのご実家で作られている船は普通の船なわけですか」
「そうだろうな。実際は見たこともないが、エーリカの家ではあいつだけが魔法使いのようだし、普通の船大工だと思う」
「やっぱりそうなると、鉄を使われるんですか?」
「ああ。木材が主になるが、それでも鉄も結構な量を使うと思う。でもまあ、それは船に限ったことじゃない。鉄や銅はどこにでも使われているし、何なら建物にも鉄筋や鉄骨が使われている」
日常に溢れているのだ。
「それが不足するって大問題では?」
「そうだな。役所は大変だろう」
「ここはリートの英雄の出番では?」
俺、か?
「いや、いくら俺が天才でも無から鉄は作れない。それこそ神の御業だ」
「なんかジーク君ならしれっとできそうだけどね」
無茶言うなっての。
「お待たせしましたー」
「どうぞ」
エーリカとアデーレが戻ってきて、コーヒーと菓子をテーブルに置いてくれる。
「悪いな」
「ありがとー」
封を開け、ヘレンにクッキーをあげた。
「わーい」
可愛い。
「何の話をしていたんですかー?」
エーリカが聞いてくる。
「エーリカの実家の話。エーリカの家って船大工でしょ?」
「そうですね。そんなに大きくないですけど、ドックもあるんですよ」
へー……
「実家の手伝いとかしないのか? 木材の錬成とかなら手伝えるだろ」
しかも、早い。
「あー……その辺はグレーというか、触れないというか、タブーというか……実家でも絶対に話題に上がらないことですね。理由は……えーっと……」
エーリカが言いづらそうにしている。
「仲悪いもんな」
「まあ……」
エーリカが苦笑いだ。
「ジークくーん」
「ジークさん」
「ジーク様ぁ……」
いや、そんな顔をするなよ。
「いいんですよ。事実ですから。皆さんもわかっていることでしょうけど、錬金術師って職人さんからものすごく嫌われているんです。もちろん、別にウチの家の家族仲が悪いわけではないですよ? 私が魔法学校に入る際も応援してくれましたし、協会に入った時も10級の資格を取った時も喜んでくれましたし」
まあ、それとこれとは別だからな。
娘が良いところに入り、頑張っているなら応援するだろう。
「それでも仕事はやっぱりダメなわけか」
「ええ。父にも兄にもプライドがありますからね。錬金術師と職人はちゃんと住みわけができているわけですし、そこに立ち入ることはしません。別にウチは父も兄も元気ですし、困っているわけではないですしね」
船もそうだし、鍛冶関係も住みわけはある。
俺達は魔導船しか作らないし、フライパンなんかの日用品を作ることなんてない。
作っても個人用だ。
「今度、見せてよー。ちょっと見てみたい」
「いいですよ。遊びに来てください」
レオノーラはさっきの話を聞いて、よく行く気になるな……
「いいの?」
気にしいのアデーレが確認する。
「もちろんですよー。ぜひぜひ」
「そ、そう? じゃあ……」
アデーレ、こっちを見るな。
俺は行かないぞ。
「いや、一緒に来てよ」
心を読まれた……
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