第023話 またもや?
俺とレオノーラが話をしながら錬成をしていると、エーリカが戻ってきた。
「ただいまー」
エーリカが席につく。
「おかえり、エーリカ」
「おかえり。どうだった?」
「うーん、ちょっとご相談ですね。緊急依頼です」
は?
「緊急? また?」
「今度は本当に緊急みたいですね。マナポーションを50個です」
マナポーションは魔力を回復できるポーションだ。
普通のポーションよりも高い。
「なんで役所がマナポーションなんて注文するんだ? 軍や魔術師協会ならわかるんだけど」
役所にマナポーションなんかいらんだろ。
「実は今度、この町の魔法学校と隣の町の魔法学校との合同演習があるそうなんですけど、そこでマナポーションが必要らしいんです。でも、発注をミスというか、連絡ミスで発注自体をしてなかったらしく、急遽、依頼を出すことにしたみたいです」
ひどいミスだな。
「確かに緊急だな。期限は?」
「できたら10日。最悪でも20日以内だそうです」
「依頼料は?」
「20日の場合は50個で200万エルだそうです。10日の場合は300万エルに増やしてくれるそうですね。あと、品質はEランクあればいいそうです」
高いな……
マナポーションの相場はEランクなら1個2万エル程度だから50個で100万エルだろう。
20日で倍、さらには納期を短くすればボーナスか。
「マナポーションねー……今の支部の現状を考えると受けた方が良いんだが……どうだろ?」
「私は良いと思うよ。マナポーションなら作れる」
レオノーラはポーション作りが得意って言ってたしな。
「それとなんですけど……実は注意事項があります」
エーリカがおずおずと告げる。
「何だ?」
「実はこの依頼って最初に民間に発注した依頼らしいです。それがマナポーション300個です」
支部より民間に頼ったわけか。
よく考えたら何百人も生徒がいるのに合同演習でマナポーション50個は少ないわな。
「支部より民間頼りか……悲しいな。それで? 50個はお情けか?」
「いえ、民間が250個しか納品できなかったそうです」
ん?
「なんで?」
「市場にマナポーションの材料の一つである魔力草がなくなったらしいんです」
「なくなった? あー……250個で尽きたわけか」
「はい。次の入荷までに間に合いそうにない感じですね」
つまり今から市場に行っても肝心の材料がないわけだ。
「なるほど……民間は儲けで動くからな。冒険者なんかに採取依頼を出しても期限的に割高になるし、割に合わないと踏んだわけだ」
「だと思います。それで困って、ウチに依頼をしたいって感じですね」
確かにウチは営利組織ではないが、それでも赤字は避けたいんだがな。
「だったら最初からウチに依頼しろよって思うな。どうせ非効率にマナを抽出してロクな仕事をしなかったんだろ? じゃないとたかがEランクのマナポーション250個程度で魔力草が市場から消えんわ。これだから質の低い民間の連中は……」
迷惑をかけんなよ。
「ジーク様、お言葉を……」
ヘレンが注意してくれる。
「そうだったな……まあいい。どうする?」
2人に聞いてみる。
「私は何とも……マナポーションを作ったことがないですし」
「そもそも材料がないとどうしようもないよ? ウチが赤字を出してまでやる義理はないし、断るか金額を上げてもらって、冒険者に緊急の採取依頼を出すかだね」
まあ、それが確実だが……
「冒険者ギルドはぼってくるぞ?」
絶対に足元を見て、高額の依頼料になる。
「だろうね。だから役所もこっちに投げたんだろう。私は断っても良いと思うよ」
俺も断っても良いと思う。
しかし、これはチャンスでもある。
「受けた方が下がりきっているウチの評判は上がるんだよな……」
こういう緊急依頼が支部に来ず、最初から高額の民間に行く時点でウチの評判は最悪なんだろう。
これを少しずつでも元に戻したい。
「それはわかりますが、赤字はさすがにマズいですよ?」
「そうだね。赤字はマズい。とはいえ、役所が金額を上げてくれるかっていったら微妙だね。最初に民間に出しているから予算を結構使っている」
だろうなー……
「今の金額で赤字を出さないようにするか」
「え? できるんです?」
「どうやって?」
2人が聞いてくる。
「俺達で材料を採りに行けばいい」
「え? 森に行くんですか? 魔物が出ますよ?」
「言っておくけど、私は戦闘なんてできないよ? 50メートル走を15秒だからね」
「あ、私は12秒です」
おっそ……
こいつら、見た目通りに運動ができないんだな。
まあ、錬金術師に限らず、魔法使いなんてそんなものだけど。
「魔力草ならそこまで奥に行かなくてもいいだろう。安心しろ。俺は5級の魔術師だ」
「おー! そうでした!」
「すごいねー。頼りになる」
ははは。
実戦経験ゼロだがな。
「お前ら、採取はできるな?」
「学校で習いました」
「私も習ったね。実際に森でやったことないけど」
俺もない。
王都近くの草原だった。
「品質がEランクでいいならそこまで正確にやらなくてもいい。やるぞ」
「「おー」」
まあ、何とかなるだろう。
「じゃあ、エーリカ。ルーベルトに依頼を受ける旨を伝えてくれ」
「わかりました。あ、ちょっと家に戻って準備をしてきます」
「あ、私もだ」
まあ、準備はいるか。
「わかった。待ってるから準備してこい。あ、ゆっくりでいいぞ」
「わかりましたー」
「急ぐよ」
2人はそう言って立ち上がり、階段を降りていく。
「俺も気遣いができるようになったな」
今までなら5分以内に用意しろって言ってた。
「すばらしいですね。気遣いができるジーク様はもはや死角がないですね」
やっぱりかー!
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