第229話 女子会 ★
階段を昇り終え、テレーゼのアトリエに戻ると、席についた。
「何の用だったんですか?」
エーリカが顔を上げて、聞いてくる。
「ちょっと今夜、人と会うことになった。悪いが、俺も夕食は共にできない」
「ジークさんも王都出身ですもんね。わかりました。レオノーラさんとホテルで食べます」
「2人っきりでディナーだねー」
そっちはそっちで楽しんでくれ。
もっとも、俺は楽しくないだろうがな。
「それといつになるかはわからないが、本部長の屋敷に集まって一門の勉強会をするかもしれない」
「一門? 私達もですか?」
「いや、あくまでも本部長の弟子の集まりだな。最近は集まることもないし、同窓会のようなものだ。お前らまで呼ぶと部屋に入らん。他のクリス、ハイデマリー、テレーゼも弟子がいるし、ハイデマリーに至ってはさっきの薬品生成チームの全員が弟子だ」
すげー居心地が悪い空間だった。
ありゃハイデマリーが追い出さなくてもクヌートも異動届けを出しそうだわ。
「わかりました。いつになるかはわからないんですね?」
「皆、忙しいしな。もしかしたら俺が帰った後にするかもしれん。それなら参加せんでよくなるな」
あまり気乗りはしてないのだ。
「いやー、多分、ジーク君がいるうちに開催すると思うよ」
「そうね。それこそ他の人は王都にいるから会おうと思えばいつでも会えるけど、ジークさんはリートだもの。そっちを優先すると思うわ」
せんでいいのに……
「日程だけでもさっさと決めてほしいな。俺はすべての行動を予定立てないと気が済まないんだが」
「まあまあ。ジーク君、おおらかに行こうよ。何の予定も立てずに空を見上げるだけのデートも楽しいものだよ」
「わかりますー」
レオノーラとエーリカは大人だな。
「えー、私はちゃんと予定を立ててエスコートしてほしいわ」
アデーレはこっち側の人間らしい。
ちょっと意味合いが違うけど。
「王都の人間は余裕がないね。よし、ジーク君、アデーレ、明日は私に任せると良いよ」
「大丈夫? あなた、王都に詳しくないでしょ」
何も予定は立てないと言っても迷子は嫌だな。
「道案内はお願い」
「凱旋門は行きたいですよー」
「そこは行くから大丈夫」
「大丈夫かしら?」
なんだかんだで楽しそうな3人娘の話を聞きながら作業を再開した。
昼はテレーゼ達が来たので昼食を食べに行き、午後からも仕事をしていく。
そして、夕方になり、終業時間となった。
「じゃあ、私はお先に失礼するわ」
アデーレが立ち上がる。
「楽しんでおいでねー」
「ごゆっくりー」
アデーレが先に帰ったので片付けをする。
そして、俺達もアトリエをあとにすると、階段を降りていき、本部を出た。
「俺はこっちだから」
軍の本部は俺達が泊まっているセントラルホテルとは逆方向なのだ。
「はい。じゃあ、明日の朝」
「朝帰りしたらダメだよー」
「飯食ったら帰る」
俺達はこの場で別れ、それぞれ歩いていく。
そして、軍の本部までやってくると、隣接している2階建てのレストランに入った。
◆◇◆
「「「かんぱーい」」」
私達はグラスを合わせると、ワインを一口飲み、注文した食べ物を食べだした。
「いやー、アデーレ、よく帰ってきたね。懐かしいよー」
マルタが肩をぽんぽんと叩いてくる。
「試験は基本的に王都だからね。間違いなく、落ちたけど」
無理無理。
「鑑定士だっけ? ジーク君の彼女も大変ねー」
「弟子ね、弟子」
弟子と書いて彼女と呼ぶんじゃない。
「アデーレさー、よくジーク君の弟子になったよね。ウチの師匠が世界で一番愚かな選択をした3人ってボロクソに言ってたわよ」
エルヴィーラさんが苦笑いを浮かべる。
「ジークさんもハイデマリーさんのことをボロクソに言ってるわよ。あそこは悪口を言い合っているだけの兄弟姉妹でしょ」
本当はすごく仲が良さそう。
「そんな感じ。性格のこととかはボロクソに言うけど、認め合っている気はするしね」
それはする。
ジークさんは自分の能力が高いからああ言うだけで兄弟姉妹弟子のことは高く評価していた。
「師弟ってめんどくさいですよね」
「あそこだけの気がするけどね」
「私はどっかに弟子入りするのをやめときます」
「私もそうする」
サシャとマルタが『ねー?』と息を合わせた。
「リートに来ない?」
「遠いから嫌。実家が良い」
「4番目の女と言われるのは嫌です」
やっぱりないか。
「エルヴィーラさん?」
「いや、私が一番ないでしょ。もう5年近くも師匠の世話になっているし」
学生時代からハイデマリーさんの弟子だものね。
「そういえば、エルヴィーラ先輩はなんでハイデマリーさんの弟子になったんですか?」
サシャがエルヴィーラに聞く。
「あー、私がお世話になってた先輩が師匠の弟子だったの。それでよく見学に行ってたんだけど、それで」
これは私もマルタも知っている。
すごいなって思った。
これはほぼ就職先が決まったことを指すからちょっと羨ましかった。
「すごいですね。それだけ認められたってことです」
「いや、別にそうでもないけどね。結局、10級止まりだし。9級に全然受かんない。私もマルティナちゃんと同じで物理が苦手なんだよね」
エルヴィーラさんは学生時代、成績がかなり良かったが、それでも9級に受かっていない。
それほど難しいのだ。
「アデーレはすごいわよね。8級でしょ?」
「ホント、すごい。昔から勉強は完璧だったもんね。でも、実技でも合格基準に達するとは思わなかったわ。やっぱり彼氏さんのおかげ?」
エルヴィーラさんまで彼氏呼ばわりだ。
もう王都ではあることないことの噂が終わり、そういう風に認識されてしまったんだろうな。
「試験対策のような仕事ばかりやってたからね。リートはかなり自由が利くし、何よりもジークさんはそういう調整がすごく上手なのよ」
「まさしく仕事100点ね」
マルタがうんうんと頷く。
「人間性は0点だっけ? でも、随分と印象が変わった気がするわ。なんかマルティナちゃんのことをすごく気にかけてた。こう言ったらなんだけど、ジーク君が一番嫌いそうな子なのに」
最初はイライラモードがすごかったな。
エーリカさんとマルティナさんに教えていた時なんかこっちにまで負のオーラが届いていた。
でも、ジークさんはマルティナさんを見捨てなかった。
「リートに来て、変わられたのよ。ずっと根気よく面倒を見てたわ」
テストまで作ってたし、すごく頑張っていたと思う。
「案外、教師に向いているんじゃない? あの教科書のくだりはこっちにもグサッて、胸に刺さったわよ。あなた達が帰った後、全員がそっと教科書を開いたしね」
あれは私の胸にも刺さった。
勉強しようって思ったし。
「優秀な人だからね」
「性格が改善すると一気に優良物件になったわね。お幸せに。アデーレは来月の試験も受けるの?」
エルヴィーラさんが否定させる暇も与えずに聞いてくる。
「ええ。7級はちょっと厳しいけどね」
「私は9級かー。今から勉強しないとね」
「私も9級。無理ね。ちょっと長期的に考えないと」
「私は10級です。頑張ります」
ジークさんはこの人達の試験を作っているのか。
そして、実技試験も見るわけだ。
「アデーレ、コツない?」
「ひたすら勉強。仕事が終わったら勉強会だし、休みの日もそうね」
遊んだり、お酒を飲んだりもしているけど。
「もう一緒に住んでんじゃん」
「ファミリーだよね」
「一人でいる時間より一緒にいる時間の方が長いんじゃないですか?」
ほぼ仕事場かエーリカさんの部屋で集まっているから否定できない。
何しろ、同じアパートだし、4人共インドアだから外に出ることがほぼないしー……
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