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左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~   作者: 出雲大吉
第6章

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第219話 兄弟子


「あー、怖かった」


 慌てて本部長室を出ると、すぐにその場を離れ、階段を降りていく。


「そりゃ本部長さんも怒りますよ」

「昔を懐かしんでいたから暴言を言ってみただけだぞ」


 昔はそんなことで怒ることなかったのに。


「内容ですよ。デリケートな御年なんですから気を付けてください」

「はいはい。クリスのアトリエに行くか」

「太っちょカラスがいますかね?」


 君も言うよね……


 俺達は階段を降りると、クリスのアトリエまでやってきた。


「クリスー、いるかー?」


 扉をノックしながら声をかける


『帰れー』


 おー、ドロテーの声だ。


「入るぞー」


 扉を開け、中に入る。

 すると、デスクで作業をしているクリスと止まり木に止まっているドロテーがいた。


「やあ、ジーク、わざわざ悪いな。まあ、かけてくれ」


 クリスがペンでソファーの方を指して促してきたので腰かける。


「クヌートは?」

「仕事に戻った。本当にお前の弟子達を見に行っただけだよ」


 暇人だな。


「くだらない。何でもいいだろ」

「それだけお前が弟子を取ったことが意外なんだよ」


 まあ、1年前の俺に弟子を取るんだぞって伝えたら眉をひそめるだろうしな。


「そうかもな。あ、馬車ありがとうな。ウチの弟子達も感謝してたわ」

「構わん。前回は出ていて出迎えができなかったし、ドロテーの面倒を見てくれた礼だ。ジーク、本部長の話は何だ?」


 気にするわな。


「仕事だ。陛下からの依頼と来月の試験の試験官だ」

「なるほど。試験官はわかるんだが、陛下からの依頼とは? 魔剣をもう1本作ってくれ、か?」

「惜しい。今度は息子のための杖だとよ。本部長との合作になるだろう」

「ウチの王家は平和だな」


 ホントにな。


「お前、試験官をやったことあるか?」

「もちろんだ。問題作成も答え合わせも実技試験の試験官もやった」


 へー……

 まあ、3級になって長いし、王都在住だもんな。


「10級と9級の問題作成と実技試験を見ることになったわ」

「無難な良いところだな。自分の弟子達とは関係ないところだ。私の弟子の中に10級の者がいて、次は9級を受ける。実技の時には優しく見てくれ」


 最低限だけな。


「はいはい。ハイデマリーにも言われそうだ」

「言うだろうな。あそこはまだ10級試験に受かってない者も多い」

「あいつのところってそんなにダメなのか? マリーの指導力ない?」

「指導力以前だと思う。ハイデマリーは自分のチーム全員の面倒を見ているから才能がある人間もいれば、そこまでの人間もいる。あと、何と言っても数が多い」


 10人以上って言ってたしな。

 そこにマルティナも追加だ。


「大変だな」


 自身も忙しいだろうし、試験もあるだろうに。


「だろうな。でも、あのハイデマリーが選んだ道だ。それよりも試験の問題を作るのを手伝ってやろうか?」

「お前はそのまま弟子に流しそうだからダメ」

「そんなことはせんよ。ちょっと勉強の時間を増やすだけさ」


 試験対策で重点的に教えるんだろ?

 それは流すのと一緒だ。


「ダメ」

「そうか。ジーク、本部には戻らんのか?」


 やっと本題に入ったか。


「お前がリートにいた方が良いって言ったんだろ。俺を追い出したかったんだろ?」


 こいつが次の本部長になる際に一番の障害は俺になる。


「そういう意図はない。ただ、お前があまりにも変わっていたからそのままの方が良いと思っただけだ。いや、それは今でも思っている。お前は敵を作らなければ本当にただの仕事ができる優秀な人間なんだ。あそこで適当に遊んでおけ。それがお前のためだ」


 まあ、そうなんだろうな。


「地元志向の弟子を取ったし、戻れんわ」


 戻る気もないけど。


「それでいい。お前は私の味方だよな?」

「直接的だな。さっき本部長に誰が良いって聞かれてお前って言っておいたわ」

「おー、ジークさん。素晴らしい回答ですね」


 ドロテーが羽で拍手する。


「正直、変に乱さなかったら誰でもいい。ウチの一門で一番そうしなさそうなのがクリスだ。マリーはねぇ……技術屋としては超一流なんだけど……」

「そうだな。ハイデマリーはすごい。腕で言えば私よりも上だろう。だからこそ納得できないんだ」


 そりゃ自分より下の人間が上に行くのは嫌だろうな。

 ましてや、マリーは本部長にとって代わろうとする野心がある。


「仲良くしろよ。同期だろ」

「同期だからさ。同期を弟子にしたお前にはわかるまい」


 クリスとマリーはライバル関係だった。

 テレーゼも同期なんだが、あいつは争うのを好まない。

 正直、あいつが一番腕があるし、頭も良い気がするけどな。

 でも、貴族が苦手で昔はマリーの影に隠れていた奴だし。


「そんな程度の低い争いが俺にわかるわけないだろ」

「お前はそれでいい。ジーク、アウグストのことを聞きたいか?」

「どうでもいいし、興味ない。元々、眼中にない男だ。末路なんか知らん」


 というか、あの状況で極刑以外にあるのか?


「そうか。なら言わないでおこう。ただ、派閥の解体や協力していた者達の炙り出しには時間がかかりそうだ」

「そんなに大規模なのか?」

「魔術師協会、王都貴族だけじゃなく、地方の議員や権力者までいるからな。私も協力しているが、1年、2年といったところだろう」


 軍の少佐や議員といった辺境のリートにまで影響力を持った家だしな。


「お前も足を掬われるなよ」

「正直、そこは怖いな。貴族ももう数十年で終わりだろう。だからこそ、終わった後のことを考えないといけないんだ」


 頑張れとしか言えんな。


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