第215話 チェックイン!
俺達は去っていく2人とその上を飛んでいるドロテーを見送る。
「何だったんでしょうね?」
「さあ? ジーク君に用事があるようだったけど?」
エーリカとレオノーラが見てくる。
「俺が本部に帰らないからクリスとハイデマリーが後継者争いをしているんだよ。クリスはそれで来たんだな。クヌートは知らん」
あいつはサボり屋だし、何を考えているのかよくわからん。
「なんか王都は大変ですね」
「後継者争いかー。一門で揉めそうだね」
「たいした話じゃない。そもそも本部長はまだ現役だし、気の早い話でしかない」
このままいけば、間違いなく、クリスとハイデマリーはゾフィーに足を掬われるだろう。
もしくは、テレーゼの性格が覚醒するかもしれない。
「アデーレさんはクヌートさんを知っているんですよね?」
エーリカがアデーレに聞く。
「ええ。見ての通りの人だからよく話しかけられたわ。多分、ジークさんの一門では一番社交的なんじゃないかしら?」
物は言いようだな。
軽薄と言うんだ。
「私、ちょっとびっくりしたんですけど、貴族の方だったんですね」
「ええ。クリスさんの家ほど大きい家ではないけど、王都の貴族よ」
そうなんだ。
あいつの家の大きさを初めて知ったな。
「声をかけられたってナンパでもされたの?」
レオノーラがニヤニヤしながら聞く。
「何回かね。でも、あの人ってそういう人だから。同級生のマルタやエルヴィーラも誘われたことがあるって言ってたし」
まあ、そういう人間だな。
そんな暇があるなら勉強しろって思ってる。
「へー……エーリカ、気を付けなよー。都会の男だよ?」
「えー……ちょっと苦手ですね」
隠れてたしな。
「ジーク様、俺が守ってやるって言うところですよ」
ヘレンが囁いてきた。
「守るも何もない。無視すればいいだけだ」
「まあ、ジーク様がそこにいるだけで悪い虫が寄ってきませんね」
クヌートは虫か?
いやまあ、言いたいことはわかるけどな。
「何でもいい。それよりもホテルに行こう。優しい兄弟子が馬車まで用意してくれたんだ」
俺と違って気が利く奴だわ。
俺達が泊まるホテルまで把握してたしな。
「おー、そうでした。ありがたいですね」
「プレヒト家は違うねー」
「ジークさん、後でお礼を言っておいてくれないかしら?」
「わかった」
俺達は馬車に乗り込み、御者に行先のホテルを告げた。
そして、窓から王都の街中を眺めながら到着を待つ。
「この前ぶりですけど、王都はやっぱりすごいですねー。建物も高いですし、人も多いです」
「お店も多いしねー。こうしてたまに来ると楽しいよ」
「王都を離れて2回目だけど、やっぱりすごいわね」
俺はずっとリートでいいけどな。
別に外に出る用事もないし。
「レオノーラ、今回もセントラルホテルだったよな? 前回と同じで朝食と夕食付きか?」
この前と同じく、ホテルを予約したのはレオノーラなのだ。
「そだよー。もちろん、言えば夕食をキャンセルできる。今日はどうする?」
「明日試験だし、ホテルで食べて、早めに休んだ方が良いだろ。出かけるなら明日だな。例によってお疲れ会で奢ってやる」
俺ができるのはもうそれくらいだ。
「おー、ジーク君、優しい!」
「ありがとうございます!」
「慰め会……あ、いや、なんでもない。お店はどこにするの?」
若干、ネガティブモードに入っているアデーレが聞いてくる。
「どこでもいいぞ。お前の方が詳しいだろうし、決めてくれ」
アデーレの方が詳しいというか、俺はこの前行ったところしか知らない。
「じゃあ、今度は落ち着いた店にしようかな」
「そうしてくれ」
俺達が話しながら馬車に揺られていると、この前も来たセントラルホテルの前に到着したので御者に礼を言って馬車から降りた。
そして、中に入り、受付に向かう。
「リートのレオノーラですけどー」
予約したレオノーラが声をかけると、受付の男性が深々と頭を下げた。
「レオノーラ・フォン・レッチェルト様ですね。いつもありがとうございます。4名4室と伺っておりますが、よろしいでしょうか?」
「それです」
「では、こちらが鍵になります。お部屋は4階となります」
「はい。夕食はこの人の部屋で食べます」
レオノーラが俺を指差してくる。
「かしこまりました。朝食は1階のレストランでバイキングになります。それではごゆっくり」
受付のホテルマンが一礼したのですぐ近くにある階段を昇り、4階までやってきた。
そして、鍵に書いてある404号室を探す。
「ここね……」
3人娘も自分達の部屋の前に立っており、左にアデーレ、レオノーラ、エーリカの並びだ。
前とまったく一緒。
「じゃあ、夕方な」
ドアノブを握り、3人娘に声をかける。
「ええ。サシャによろしく」
「本部長さんにもよろしくー」
「頑張ってください」
頷くと、部屋に入る。
部屋の中はやはり十分に広く豪華な部屋だった。
「ほれ、ヘレン」
ヘレンをベッドの上に放ってやる。
「にゃー!」
ヘレンはベッドにダイブし、可愛い鳴き声を発しながらコロコロと転がった。
「楽しいか?」
「良い部屋ですねー!」
「そうだな。さて、本部長のもとに行くか」
「行きましょう」
俺達は荷物を部屋に置くと、ホテルを出て、本部に向かった。
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