第214話 兄弟子
しょうもない話をしていると、アデーレも怖さがなくなったようでその後も雑談をしながら到着を待った。
そして、王都に近づいてくると、ゆっくりと降下していく。
「おー、王都です」
「いつ見ても大きいよねー」
窓際の2人は楽しそうだ。
「ジークさん、まずはホテル?」
アデーレが聞いてくる。
「ああ。まずはチェックインだな。俺はその後、本部長のところに行ってくるが、お前らは休んどけ。鑑定士は筆記がないから前日にやることはないしな。買い物でも行ってきたらどうだ?」
「うーん……どうする?」
アデーレが2人に聞く。
「そうだね。買い物に行こうよ。ジーク君が付き合ってくれない時間がかかるやつ」
「私、服とかが見たいです」
おー、行け行け。
楽しんでこい。
「じゃあ、そうしましょうか」
この日の予定を決めると、飛空艇がドックに着陸した。
そして、完全に動かなくなったので席を立ち、飛空艇から出ると、町中に向かって歩いていく。
「ん?」
前方にはこちらを見ている2人組がいる。
「むむっ、ドロテーです」
「あ、本当だ。クリスさんとドロテーちゃんだ」
「もう1人は誰?」
「あー……あれはクヌートさんですね」
前方には2人の男がおり、1人は肩にカラスのドロテーを乗せたクリスだ。
もう1人の茶髪の軽薄そうな男は同じく兄弟子であるクヌートである。
「珍しい組み合わせですね?」
ヘレンが聞いてくる。
「そんな気がするな。というか、仕事じゃないんだろうか?」
俺達は歩いていき、2人に近づく。
「やあ、ジーク、それに3人共、ようこそ王都へ」
「よう、ジーク、本当に綺麗どころばかりを弟子にしたんだな」
「ジークさん、こんにちは。社会に適合できるようになりましたか?」
なんでこいつらがここにいるんだろう?
「ドロテー、なんか太ったな」
ちょっと丸いような?
「きー! 社会不適合者めー! レディに何てことを言うのよ!」
だってねー……
「どうしたんだ、こいつ?」
ドロテーが肩で羽をバサバサしているために顔をしかめているクリスに聞く。
「付き合いのある人間に蜂蜜を大量にもらったんだよ。私は少しでいいし、残りをドロテーにあげたんだ」
あー、こいつ、蜂蜜大好きカラスだもんな。
「ドロテー、クリスさんが重そうですよ。飛んだ方が良いんじゃないですか? ぷぷっ」
「泣き虫めー!」
ヘレンに笑われたドロテーが飛び上がり、空で旋回しだした。
「ダイエット、頑張れよー。それでお前らは何してんだ? 仕事はどうした?」
「ちょっと休憩さ。可愛い弟弟子を迎えに来たんじゃないか」
これまでに一度たりともされたことないが?
「お前は?」
クヌートを見る。
「俺はついてきただけ。なんかジークが人間が変わって、しかも、弟子まで取ったって聞いたからどんなもんかなと……俺、この前までジーンに出向してたからさ」
ジーン……例の王妃様の出身地で飛空艇製造が盛んになっている町でリート支部の人間を引き抜いたところだ。
この前、王都に来た時にクヌートを見なかったが、そんなところに行ってたのか。
「そうか。仕事しろ。お前、6級だろ。ゾフィーは5級になったし、下は皆、お前を抜いたぞ」
俺、3級だし。
「……どこが変わったんだ?」
クヌートがクリスに聞く。
「悪いな、クヌート。私もそう思っている。お前は腕もあるし、魔力も高いんだから勉強を頑張れ」
クヌートは勉強嫌いで典型的な仕事はできるが、試験に受からなくて出世しない奴だ。
「お前もかい……まあいいや。ジーク、紹介してくれ」
クヌートが3人娘を見る。
「エーリカ、レオノーラ、アデーレ」
一人一人指差しながら簡潔に紹介した。
「いや、他にないか?」
「十分だろ」
軽薄そうなお前を見て、エーリカが俺の後ろに隠れてしまっているんだぞ。
「マリーやゾフィーが言っていたことはマジだな……」
「あいつらが何を言ったかは知らんが、マジじゃないと思うぞ。あいつらの言葉なんか耳に入れるな。どうせくだらないことだ」
「なあ、本当に変わっているのか? いつもの辛辣なジークだぜ?」
クヌートがまたもやクリスに聞く。
「私達につらく当たるところは変わってないだけだ」
「少しは兄弟子に敬意を持てよな……」
はぁ?
「敬意を持ってほしいならそれにふさわしい行動と実績を示せ」
「ダメだこりゃ……ウチの弟弟子がいつも世話になっているようですまない。俺はクヌート・フォン・イェーリスだ」
何かを諦めたクヌートが3人娘に自己紹介をした。
「エーリカ・リントナーです。ジークさんにはいつもお世話になっています」
「そだね。あ、レオノーラです……」
「私はいらないでしょうね。ご無沙汰しております」
アデーレ以外が自己紹介をした。
「受付にいたアデーレはさすがに知っているな。まあ、何にせよ、一門が増えたこととジークが世話になっていることに感謝しよう。大変じゃないか?」
「いえ、ジークさんにはお世話になりっぱなしです」
「9級に受かったしねー」
「ジークさんは良い師であり、良き隣人だと思います」
3人娘が答えると、クヌートが驚いた表情でクリスを見る。
「ジークは自分の弟子には優しいようだ」
「昔からそっくりだと思っていたが、そういうところも本部長に似たわけだ。道理で……」
俺は別に本部長に似てないがな。
「クリス、クヌート、こっちは遠いところから今到着したばかりなんだ。用がないなら帰れ。俺達はホテルに行く」
用件があるなら早く言え。
「それもそうだな。ジーク、ちょっと時間はあるか?」
クリスが聞いてくる。
「俺はホテルでチェックインしたら本部長に会いに行くから忙しい」
「その後でいいから私のアトリエに来てくれ」
ハァ……どうせ後継者争いの話だろうな。
「少しだけな」
「悪いな。馬車を用意した。セントラルホテルだろ? 使ってくれ」
そう言ったクリスの視線の先には馬車があった。
「金は払わんぞ」
「いらん。では、アトリエで待っている。クヌート、行こう」
「はいよ」
2人は歩いてその場を去っていった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!