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左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~   作者: 出雲大吉
第6章

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第213話 こら


 マルティナへのお土産を買いに行った後、エーリカの部屋で夕食を食べる。

 食後は少しだけ鑑定士の勉強をすると、この日は早めに解散し、出張の準備をした。


 そして翌日、朝早くに起きた俺達は朝食を食べると、空港に向かい、王都行の飛空艇に乗り込んだ。

 隣に座っているエーリカも斜め前に座っているレオノーラも窓から外を見て、出発を今か今かと待っており、楽しそうだ。

 一方で俺の正面に座っているアデーレは俯いて、俺から奪ったヘレンを撫でていた。


「大丈夫ですよ。落ちません」

「いや、別に怖いわけじゃないの。ただ、ちょっと苦手なだけ」


 嘘つけ。

 めっちゃ怖いんだろ。

 この前、はっきりと怖いって言ってただろ。


 相変わらずだなーと思っていると、出発の時間になり、飛空艇が浮かび出した。


「おー! やっぱりすごいねー!」

「ですねー! これが我々錬金術師の頂点ですよ!」


 窓際にいるレオノーラとエーリカは本当に楽しそうだ。


「ジーク様、手を握ったり、肩を抱いてあげてください」


 前にそんなこと言ってたな。

 でも、それは無理だ。

 何故なら俺は正面におり、アデーレはお前を撫でて心を落ちつかせているから。


「アデーレ、ちょっといいか?」

「何? しょうもないホラーの話なら怒るわよ」


 なんで俺がこの場面で怪談を話すんだよ。

 目が泳いでるし、本当にいっぱいいっぱいって感じだ。

 というか、こいつ、そっち関係もダメなんだな。


「いや、ちょっとした確認だ。俺達の同級生はマルタ、ヴォルフ、そして、エルヴィーラだったな?」

「ええ、そうね。ジークさんと同じクラスだったのはマルタさんとエルヴィーラさん」


 んー?


「ちょっと待て。同じクラスなのか? マルタも?」

「あ、同じクラスと言っても1年生の時だけよ。それ以降は私だけ。うん、私だけ」


 何故、2回言った?

 しかし、1年か……


「それは覚えてなくてもいいよな?」

「まあ、いいんじゃない? ジークさんは有名だし、インパクトがあるから向こうは確実に覚えているでしょうけど、特別親しくもなかったでしょうしね。私だって、1年の時の男子は思い出せる人と思い出せない人がいる。さすがに女子は全員覚えているけど」


 ふむふむ。

 じゃあ、セーフか。

 マルタもエルヴィーラも女子だし。


「マルタはもう忘れないから大丈夫だが、エルヴィーラを教えてくれ。マルティナに会いに薬品生成チームに行かないといけない」


 エルヴィーラはハイデマリーの弟子と聞いている。

 物好きな奴だと思っている。


「ハイデマリーさんのお弟子さんなら気にしないで良いと思うけどね。どうせボロクソに言ってんじゃないかしら?」


 ありえるな。

 薬品生成チームはハイデマリーの城だし。


「一応、頼む」

「はいはい。えーっと、エルヴィーラさんは背が高い金髪の女性よ」

「なるほどな……ちなみにだけどさ、飛空艇製作チームのリーダーの奥さんが魔導石製作チームのコリンナ先輩って知ってるか?」

「まあ……」


 そうか。

 アデーレまで知っているのか。


「ヘレン、こうなったらアデーレを前に歩かせるのはどうだ?」

「いつもアデーレさんがいらっしゃるならいいと思います」


 いない方が多そうだ……


「私、男性の前を歩くのは嫌なんだけど」


 アデーレが首を横に振る。


「なんで?」

「いや、特に理由は……そういうもん」


 そういうもん?

 怖いのかな?


「私もそうですね。わかりますね」

「私はどっちでもいいかな」


 エーリカが同意したが、レオノーラは別にそうでもないらしい。

 性格の差のような気がしてきた。


「ふーん……」

「ジーク君、まだ人間関係を勉強中なの?」


 レオノーラが聞いてくる。


「それはもちろん。人間性35点だぞ」

「低っ……いや、ジーク君はもっとあるでしょ。最低でも80点はあると思うけど」

「私は100点だと思いますね。優しいですし、頼りになりますもん」


 この世界は平和だな。

 マルタとリーゼロッテに聞かせてやりたいわ。


「ヘレン、どう思う?」

「お弟子さん方はまあ、そうじゃないですかね?」


 弟子は身内か。

 身内は贔屓目に見るもんだ。

 兄弟子、姉弟子共とゾフィーはあれだけど。


「ジーク君、勉強中なら良い本を貸してあげるよ」


 レオノーラがそう言って、本を渡してきたので表紙を見てみると、【複数の男性との付き合い方】と書いてあった。


「あ、本当にあるのか」


 前に【複数の女性との付き合い方】という本を見て、絶対にあるんだろうなーと思っていたが、やはりあった。


「またすごい本ですね……」

「ジークさん、前の女性の方もだけど、あまり外では読まない方が良いわよ。誤解される」


 エーリカとアデーレも表紙を見て、呆れる。


「えー、面白いよー」


 レオノーラがすっかりこのシリーズのファンになってるな。


「お前、【職場での人間関係 ~上司編~】を持ってないか?」


 俺はそっちが見たい。


「いや、持ってない。リートのは売り切れたんだって。だから王都で買えないかなって思ってる」


 レオノーラもか。


「俺も買おうと思ってたわ」

「じゃあ、買いに行こう。大事なことだよ」


 まあな。

 上司は支部長だけど、ちゃんとしておかないといけない。


「ジークさん、ちなみに、その本は何て書いてあるの?」


 アデーレに聞かれたので本を開いて、適当なページを見てみる。


「ふむふむ……大前提として、追う恋より追われる恋が大事らしい」

「……何言ってんの?」

「知るか。そう書いてあるんだよ」


 お前が聞いてきたんだろ。


「アデーレは追う恋だもんね」

「なんで?」

「私のためにリートに来てくれたじゃないかー」


 レオノーラが両腕を広げる。


「はいはい。そうね」


 アデーレがあっさりとレオノーラを流した。


「……エーリカ、ちょっと持ってみ」


 隣のエーリカに本を渡す。


「えっと、こうですか?」


 エーリカが本を開いて読みだす。

 聖女のエーリカがとんでもない本を読んでいる絵になっている。


「私の天使が汚れていくー」

「普段のエーリカさんを知っていると、すごいわね……」


 悪い子になっちゃったな。


「アデーレさんもどうぞ」


 エーリカがアデーレに本を渡した。

 何とも言えない感じになっている。


「うん……まあ、いいんじゃない?」

「……膝の上にいるヘレンさんが良くないんですかね?」


 レオノーラもエーリカも微妙な表情になっている。


「お前……なんか似合うな」

「おい……」


 だって、ねー?


「ジーク君にはこっちをあげる」


 レオノーラが【複数の女性との付き合い方】を渡してきた。


「あー、なんか嫌なカップルというか夫婦さんですね」

「ジーク君もアデーレもひどいね」


 言っておくが、この2冊、お前のだからな。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

コミカライズが更新されておりますのでぜひとも読んで頂ければと思います。(↓にリンク)


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
まあ、弟子の評価が高いのは改善中の姿を主にみているからだし、 一門や関係者からの評価が悪いのは改善前の姿を主に見ていたからだろうとは思うがw 今ならちょっと面倒くさい人くらいで済むんじゃないかな……
王都でも、読者が増加していた…
たしかこの著者の別のシリーズに「円満夫婦のコミュニケーション四十八手〜一夫多妻編〜」もあった気がするな。
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