第212話 タコも買った
本部長との電話を終え、支部に戻ると、3人娘に陛下から仕事があることを説明する。
「へー、陛下から2度も仕事を頂くなんてすごいですね。さすがはジークさんです」
「私らもこの前と一緒で手伝いかー。肩を揉んであげるよ」
「旅費が出るのはありがたいけど、いいのかしら?」
アデーレが首を傾げた。
「本部長の方から言ってきたんだから良いだろ。今回は試験結果を気にせずに遊んでくれ」
結果は見えてるもん。
「それはそれでどうなんでしょうね?」
「ね? 2人で慰め会でもしましょうか」
エーリカとアデーレが顔を見合わせる。
「ジーク君、その杖作りはどれくらいかかるの?」
レオノーラが聞いてくる。
「この前の魔剣ほどはかからないな。でも、別の仕事があって、そっちは詳しい話を聞かないとわからん」
「別の仕事って?」
「来月の国家錬金術師試験の試験官の要請が来たんだよ」
たいした話じゃないし、別に言ってもいいと判断した。
「へー……へ?」
「し、試験官ですか?」
「あなたが?」
3人娘がガン見してきた。
「俺、3級だもん。あ、お前らは知らんか。3級以上になると、試験官の仕事も来るんだよ。どれかは知らんが、本部長が言うには試験作成か実技を見るやつだな」
「お、おー……」
「つまりジーク君から勉強を教えてもらえばそれが試験に出るわけ?」
「それってマズくないかしら? 国家試験でしょ」
俺が教えるわけないだろ。
「お前らの試験は担当にならないと思う。初の指名だし、多分、10級か9級じゃないか?」
いきなり6級とかは任せられないんじゃないかと思う。
「良かったー。試験に行って、ジークさんがいたらめちゃくちゃ緊張しそうです」
「10級、9級を受ける人は可哀想だね」
どういう意味だ?
「10級、9級となると……マルティナさん、サシャ、マルタ辺りかしら?」
他はテレーゼの弟子のリーゼロッテか?
あいつ、優秀らしいけど、何級なんだろう?
というか、そもそも何歳だ?
小さかったが、学生じゃないよな?
「マルティナが試験室に入ってきたらすぐに帰れって言ってやろ」
あいつは錬成を見なくてもわかる。
無理、無理。
「可哀想ですよー」
エーリカが苦笑いを浮かべる。
「冗談だよ。仕事ならちゃんとやる。それにお前らに教えているのはお前らが苦手なところだから気にせずに勉強しろ。極論を言えば全部覚えていればいいんだからな」
「極論すぎますよー」
エーリカはまだ苦笑いだ。
「わかってるよ。そのつもりで勉強しろってことだ。それと来週はほぼ王都にいると考えていいからちょっと仕事の方を前倒しで頑張ろう」
「それはそうですね。来週の分もやるつもりで頑張ります」
「やるぞー」
「そうね。まずは目の前の仕事をやりましょう」
3人娘が仕事を再開したので支部長のもとに行き、本部長の電話のことを報告する。
やはり支部長も陛下の依頼ということでそっちを優先するように言ってきたため、来週は支部長に支部を任せることになった。
そして、この週はいつものまったりな仕事ペースではなく、ちょっとペースを上げて仕事に励んでいった。
出発の前日、仕事を終えると、支部長に明日からのことをお願いし、支部を出る。
「エーリカ、俺はマルティナの魚を買ってくるわ」
支部を出て、アパートに回る小道まで来ると、エーリカに言う。
エーリカは夕食の準備もあるし、何もしない俺が買った方が良いだろうと思ったのだ。
「そうですか? では、お願いします」
「私も行くよー」
「じゃあ、私はエーリカさんの手伝いを……」
二手に分かれることなったのでレオノーラと市場に向かう。
そして、市場で魚を眺めていく。
「どうだ? 気まずいか?」
歩きながら隣を歩くレオノーラに聞く。
「微妙にね」
王都に行く最大の理由は鑑定士の試験だ。
多分、レオノーラは受かる。
でも、あいつらは落ちる。
「お前、会話に入ってこないもんな」
鑑定士の試験の話になると、おしゃべりなレオノーラがまったくしゃべらなくなるのだ。
「そりゃそうでしょ」
「俺は一切、気にしなかったな」
周りが落ちようとどうでもいい。
いや、これに関しては今もだろう。
試験のランク的に近いのはクリス、ハイデマリー、テレーゼだが、あいつらの合否は興味ない。
試験なんか相対評価ではなく、絶対評価なのだからいかに自分が頑張るかでしかないのだ。
「ジーク君はねぇ……」
「まあ、気にするな。あいつらも来年には受かる」
2年はかからないだろう。
「そうなの?」
「そうだし、そうするんだよ」
「そっかー……まあ、旦那様がそう言うならそうか」
旦那様が何の関係があるのかは聞かない。
どうせ答えなんてないし。
「王都のレストランでいいのか?」
もちろん、受かった後の話。
「うん。エスコートを頼むよ。その日はどこだろうと任せるし、ついていくからさ」
はいはい、エスコートね。
好きだねー。
店をクリスにでも聞くか。
困ったら貴族のあいつだ。
「また王都に行くのが面倒だから来月の試験の時でいいか?」
「面倒という言葉はいらないけど、それでいいよ。普通に行ったら時間もお金もかかるしね」
「それもそうだな」
前者も後者もそうだ。
「鑑定士、受かるかなー?」
「受かるから安心しろ。アドバイスをやると、お前は何も考えるな。物を見て、これだと思ったランクを答えろ。それが正解だ」
センスある人間はそれでいい。
「わかった。ジーク君がそう言うならそうするよ」
「ああ……なあ、魚ってどれを買えばいいんだ?」
いっぱいある。
マルティナってどれが好きなんだろう?
「さあ? 適当でいいんじゃない? さすがに食べられないものは売ってないだろうし」
よし、適当でいいわ。
レオノーラ先生も適当に生きろって言ってたし。
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