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第021話 うーん……


 外で昼食を食べ終え、部屋に戻ってきた俺はアトリエに籠り、個人的な研究をしていた。

 まあ、研究と言ってもヘレンのために魚を獲る道具を考えているだけだ。


「釣竿にするか、網にするか……」


 当然、網の方が量は獲れる。

 でも、ヘレンはそんなに食べないだろう。


「網はマズくないですか? 漁師さんに怒られそうです」


 漁業権というのがあるのかは知らないが、縄張りはあるだろうしな……


「じゃあ、釣竿だな……エサを改良するか」

「あのー、普通に釣りを楽しんだらどうです?」

「釣りって何が楽しいんだ? 魚を獲る手段の一つだろう。というか、買えばいい」


 さすがに魚を買う金はある。


「ん? じゃあ、買えばいいんじゃないですか?」

「お前に獲れたてを食べさせてやろうと思ってな。生は美味いぞ」


 この世界に刺身はないが、日本生まれの俺は刺身も美味いことを知っている。


「ジーク様……でも、海を眺めながらゆっくりと過ごすのも一興ですよ? 私、海が好きなんです」


 好きなのは魚だろうに……


「じゃあ、普通にして、釣竿だけ作るか」

「それこそ買えばいいんじゃないですか? 売ってると思いますよ」

「そこはまあ、錬金術師だし、自分で用意するもんだろ」

「そうですか……頑張ってください!」


 ヘレンが俺の手に身体をこすりつけてくる。

 魚が嬉しいのだろう。


「よーし、サメかクジラを釣れるようなすごい釣竿を作ってやるからな」

「本当に釣れそうなんでやめてください」


 ヘレンにそう言われたが、大物でも折れないし、釣れるような強度の釣竿を作っていく。

 そして、夕方になり、ある程度できあがると、チャイムが鳴った。


「んー?」

「エーリカさんじゃないですか?」

「まあ、そうかもな」


 ヘレンを抱き抱えて立ち上がり、玄関に向かう。

 エーリカだろうなと思って扉を開けると、そこには三角帽子を被っていないレオノーラがへらへらと笑いながら立っていた。


「やあ」

「よう。どうした?」

「エーリカにそろそろ夕食ができそうだから呼んでくれって言われたのさ」


 あ、わざわざ呼んでくれたのか。

 というか、休みの日まで作ってくれるんだ……


「レオノーラも夕食を御馳走になっているんだっけ?」

「そうだね。まあ、夕食だけじゃなくて全部だけど」


 朝食も昼食もか。


 俺達は対面のエーリカの家に入ると、エーリカがキッチンで料理を作っていたのでレオノーラと共にテーブルにつく。


「エーリカ、悪いな」

「ありがとうございます」


 俺とヘレンは料理をしているエーリカに声をかけた。


「良いんですよー。今日はレオノーラさんが戻ってきましたし、頑張ってパエリアにしました」


 へー……


「エーリカは料理が上手なんだよ」


 レオノーラがドヤ顔をする。


「知ってる。レオノーラは料理をしないのか?」

「しないねー。まあ、一応は貴族だし、キッチンに入ることすら許されなかったんだよ。でも、家を出て、ここに来てからはしようと思ったんだけど、何からすればいいかわからないからエーリカに聞いたんだ。そしたら教えてくれるって言うから見てたんだけど、気付いたらできあがってたし、その日以降も作ってくれるからそのまま」


 なるほど。

 光景が目に浮かぶな。


「甘えちゃうよな」

「何でもやってくれるからね。私が男だったら嫁にするよ」


 確かに良い奥さんにはなりそうだな。


「はいはーい、できましたよー」


 エーリカが魚介類がたくさん入った黄色い米を持ってきてくれた。


「おー、美味しそうだねー」

「良い匂いです!」

「ホントになー」


 俺達はエーリカが作ってくれたパエリアを食べていく。

 感想は美味い、だ。


「エーリカの料理が恋しかったよ……帰ってきたって感じ」


 レオノーラがパエリアを食べながらしみじみと言う。


「2週間ちょっとじゃないですか。あ、どうでした?」

「悪くなかったし、勉強になったよ」


 勉強?


「レオノーラは何の出張だったんだ?」

「実地込みの研修だよ。協会が主催する勉強会みたいなものだね」


 あー、あれか。

 しょうもなくて出たことがないやつだ。


「そうか……良かったな」


 俺も成長したな。

 言葉には出さない。


「んー? まあいいか……それよりもジーク君は私と同い年なんだよね?」


 レオノーラは首を傾げつつも聞いてくる。


「そうだな。俺も22歳だ」

「だったらアデーレって子を知らない?」


 アデーレ……

 俺が知るアデーレは一人だけだ。


「クラスメイトにいたな。アデーレ・フォン・ヨードル」


 俺がこの名前を忘れることはないだろう。


「あー、その子、その子。クラスメイトだったのか……」


 うん……クラスメイトだった……


「あれ? レオノーラさん、アデーレさんのことを知っているんですか? ジークさんの御友人ですよ?」

「そうなのかい? 奇遇だね。私の友人でもあるよ」


 そうなんだ……


「どういう繋がりなんだ? 貴族?」

「そうだね。ウチの家とアデーレの家は仲良しだったんだ。町は違うけど、子供の頃はよく遊んだよ。去年、この町にも遊びに来てくれた」


 あ、そういえば、アデーレがホテルの優待券をくれる際に友人を訪ねて、このリートの町に行ったことがあるって言ってたわ。

 レオノーラのことだったんだ。


「世の中狭いな」

「そうだねぇ……ところで、アデーレと友人ってどんな関係? アデーレに男の友人がいるなんて初めて聞いた。あの子は奥手だからね」


 あの人、奥手なの?

 めっちゃはっきり物事を言うタイプじゃない?

 まあ、あんまり会話したことないけど……


「私もちょっと気になってました。文通するくらいですし」


 あのやりとりは文通なのか?

 いや、文通か……


「さっきも言ったが、クラスメイトだ。3年間同じクラスで実習の班も一緒だった。それでいて就職先も同じ錬金術師協会本部だったわけだ。つまり6、7年間も同じところに所属していたわけだな」


 あれ? なんでだろう?

 心が痛くなってきた……


「それは仲が良いだろうね」

「あれ? でも、ヘレンちゃんとの手紙の返信をどうするのかの会議でこれから仲良くなる予定って言ってませんでした?」

「何それ?」

「さあ?」


 レオノーラとエーリカが首を傾げながら俺を見てくる。


「2人共……特にレオノーラ、俺はな、それはそれは人として終わっているんだよ。友達もいないし、人から嫌われている人間だ」

「そうなの? そうは見えないけど?」

「ですよね。ちょっと偉そうですけど、それは実力も立場も上だからですし、先輩ですから当然です。ジークさんはちゃんと丁寧に教えてくださいますし、良い人だと思います」


 とりあえず、人を見る目がないエーリカはスルーしよう。


「俺はアデーレと6、7年間も同じところに所属していた。それに気付いたのが先週なんだよ」

「はい? 何言ってんの?」

「んー?」


 2人が再び、首を傾げた。


「いや、そのまんま。左遷され、飛空艇に乗り込む際にアデーレに自己紹介されて気付いたんだ。毎日、視界の中には入ってた受付の女が同級生だということにな……」

「…………アデーレが可哀想だね」

「あの……よくそれで文通できますね」


 2人がちょっと引いている。


「そう思うだろ? 俺は謝罪と優待券の礼を書いてそれで終わりだと思ったのに返信が来たわけだ。どう思う? 俺は返信なんてないと思っていた。来てもあんなこちらの状況を聞いてくるような手紙ではないだろうと思っていた」

「うーん……」

「逆にロマンスですかね?」


 ロマンス……


「え? この話を聞いてそう思うか?」

「思わない」

「まあ……」


 なんか怖くなってきたな……


「復讐のためとかじゃないよな?」

「アデーレに何かしたのかい?」


 えーっと……


「してないと思う……そもそも認識すらしてないし」


 まあ、それが問題なんだけど。


「うーん、復讐とかはないと思うよ。アデーレはそういう子じゃないし」

「ジークさん、手紙は出したんです?」

「出したな」


 昨日のうちに出した。


「まあ、その返信を見てから考えた方が良いですよ」


 そうするか。


「お前らも見てくれ」

「いや、それはない」

「あまり人の手紙を見せるもんじゃないですよ。内容を聞くくらいならしますけど……」


 それもそうか……


「人間関係って複雑なんだな」

「それはそうでしょ」

「難しいですからね」


 世界中の人がエーリカだったら戦争もなくなるんだろうなー……

 逆に俺だったら数年で滅ぶな。

 間違いない。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
今は本当に良くなったけど職場の人間全てにことごとく見捨てられる人格だったのも事実ですからね……
復讐かな?という発想 笑
コミュ障にも程があるが救いなのは若さがあるってことかな 意見を受け入れる柔軟さがある
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