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左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~   作者: 出雲大吉
第6章

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第207話 まあいいか


 3人娘が雑誌を広げながらわいわいしゃべっているので本を読む。


「あ、アデーレさん、そろそろ準備しましょう」

「もうこんな時間か。ええ、そうしましょう」


 3時を過ぎた辺りでエーリカとアデーレが立ち上がった。


「どうしたのー?」

「何かあるのか?」


 レオノーラと首を傾げる。


「今日の晩御飯作りです。アデーレさんの故郷の煮込み料理を一緒に作るんですよ」


 へ、へー……


「大丈夫か?」

「何が?」


 アデーレがニッコリと笑いながら聞き返す。


「いや、お前、料理苦手じゃん」

「無理しない方がいいよ?」


 なー?


「別に苦手じゃないわよ。ちょっと包丁と火が怖いだけ」


 料理において致命的すぎるんだがな。


「ふーん……まあ、頑張ってくれ」

「私、辛いのダメだからね」


 レオノーラは舌も子供らしい。


「普通の煮込み料理よ。ちょっと待ってなさい」


 アデーレはエーリカと共にキッチンの方に向かった。


「大丈夫かな?」


 うーん、アデーレってものすごく良く言うと、結構なお嬢様気質だからな……

 そのまんま言えば、ポンコツ。

 まあ、目の前にいるレオノーラはそれ以下で一切やらなくなったんだけど。


「さあ? あいつのためにピーラーでも作ってやろうか……」

「何それ?」

「皮むき用の道具だ。包丁と違って手が切れにくい」


 切れる時は切れる。

 切れるというか皮ごと手が剥けると言った方がいいかもしれない。

 まあ、そんなことは滅多に起きないし、さすがのアデーレもそんなことにはならないだろうけど。


「いいじゃん。作ってあげなよ。アデーレが頬を染めながら澄ました顔で丁寧なお礼を言ってくれるよ」


 澄ました顔なんだな。


「ちょっと作ってくるわ。すぐだ」


 そう言ってヘレンを抱えると、立ち上がる。


「いってらっしゃーい」


 レオノーラはそう言うと、雑誌を読みだしたので部屋を出て、正面の自分の部屋に入った。

 そして、奥のアトリエスペースでぱぱっと作っていく。


「王都かー……」


 行くのか……


「お嫌ですか?」

「そういうわけじゃないが、アウグストの件があったからな」


 良い思い出がないし、なんか変な目で見られそうだ。


「あれは火の粉を払っただけですので問題ありません。そう思うのであれば一緒に王都に行ってお弟子さんを守るべきです」

「まあ、そう考えるか」


 別にあいつらは関係ないから何も思わないだろうがな。


「それとマルティナさんの様子を見に行きましょうよ」


 そういやそうだ。

 あいつのことはちょっと気になる。


「ホームシックにでもかかってないかね?」

「どうでしょうかね? その辺も含めて声をかけてあげましょう」


 そうだな。

 将来的にはリートに真・マルティナとして戻ってくるだろうし。


 その後、完成したピーラーを持ってエーリカの部屋に戻ると、アデーレに渡す。

 その際、やはり姿勢を正し、丁寧な口調でお礼を言われた。

 そして、レオノーラと本を読みながら待っていると、夕方くらいには料理ができたので皆で食べた。

 ちょっと心配だったが、さすがにエーリカが手伝っている様子だったし、普通に美味しく食べられて良かった。

 あと、やけにアデーレが上機嫌だったのでちゃんと成功して良かったなって思った。

 夕食後は片付けをし、ちょっと勉強会をして解散となった。


 翌日、出勤すると、3人娘がすでに来ており、ぺちゃくちゃと王都に行ったら何をするかを相談していたのでエーリカにコーヒーを頼み、支部長の部屋に向かう。


「支部長、おられますか?」


 ノックをしながら声をかけた。


『んー? 何だー?』


 今日はちゃんと朝から来ているようだ。


「失礼します」


 そう声をかけて、扉を開けて中に入る。

 すると、支部長はいつものようにデスクにつき、新聞を読んでいた。


「おー、ジーク。おはよう。朝からどうした?」


 支部長が新聞を畳む。


「おはようございます。少し今週末から来週の頭にかけての予定について、相談したいと思いまして」

「予定? そういうのはお前らで話し合えよ」


 まあ、そうだ。

 基本的にそういうのはこちらに任せてもらっている。


「実は週末の休みの日に王都で鑑定士の試験があるんですよ」

「あー、そんなことを言っていたな。もう今週か」


 事前にそういうのは報告してある。


「一応、3人娘に受けさせようと思っております」

「良いんじゃないか? 俺でも錬金術師にとっての鑑定の重要性はわかる」


 物を作るのに物の品質をわかっているかどうかは重要なことだからな。


「それでですね、私も同行しようかと思っています」

「ほう? まあ、以前の国家錬金術師試験にも同行していたしな。しかし、お前も過保護だな」


 過保護……


「そう思いますか?」

「お前なら勝手に行けって言いそうだ」

「そう思ってましたが、ヘレンが行けというもので……」

「ふーん、じゃあ、行け。俺は若い男女のことはわからん」


 俺はあなた以上にわかりませんよ。


「よろしいので? ここを空けることになりますが」

「それは前も一緒だろ」

「以前は支部が燃えてしまったという理由がありました」


 ここにいてもしゃーなかったし。


「確かにな……仕事の方はどうだ?」

「その点は問題ありません」


 そこだけは自信がある。

 人間性は35点でも仕事は100点なのだ。


「だろうな。お前はよくやっている。そこが問題ないなら良いだろう。あいつらがついてきてほしいと思っているなら付き添ってやれ。たかが数日なら問題ないし、それであいつらのやる気が出るならそれでいいだろ」

「わかりました。それでは試験の前日とその翌日は休みますので」

「そうしろ。そもそもお前はそういう時じゃないと有休を使わないだろ。使っとけ」


 有休は用事がある時にしか使わないからな。

 俺、あんまり体調を崩さないし。


「わかりました。ありがとうございます」

「うむ」


 支部長が頷いて新聞を読み始めたので退室した。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
仕事100点のジークと人間性100点の支部長って良い上司コンビな気がする
理解のある上司君 ちゃんと責任取ってくれそうな上司君 良い職場ですね……
はぁーーー。 この物語で何が羨ましいって、一番は錬金術でもハーレムでもなく「できた上司」。あと使い魔の猫ちゃん。だよ。
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