第196話 関わりたくないと思う奴ほど関わってくるのはなんでだろう?
翌朝、エーリカの家で朝食を食べていると、ゾフィーがやってきた。
「あ、おはようございます。朝食は食べました?」
エーリカがゾフィーに声をかける。
「うん。ホテルのバイキングで食べた。すごいホテルね。眺めも良いし、ご飯も美味しかった」
「あそこは人気のホテルなんですよ」
「リゾート地になるわけよね……あ、それでジークさー、やっぱりあんたの家に泊めさせてくれない?」
ん?
「感想と一致せんぞ?」
良かったんじゃないのか?
金も出張代が出るし。
「いやー、1人がキツい。晩御飯を屋上のレストランで食べたんだけど、夫婦かカップルしかいないじゃないの。それでいて、部屋で夜景を眺めながらサービスのワインを飲んでいると、一気に虚しさが襲ってきたわ」
あー、1人だとそうなるのか。
俺はヘレンがいたし、ハイデマリーはテレーゼを連れていた。
「エーリカ、こいつの飯も頼んでいいか?」
「もちろんですよ。皆で食べた方が美味しいです」
エーリカが満面の笑みで頷く。
「それもあったから1人がよりきつかったわ。昨日の昼には6人プラス2匹で食べたし」
王都に帰っても1人じゃないのかね?
まあ、一門の誰かを誘えばいいのか。
「エーリカもこう言ってるし、ウチに泊まれ」
こいつは邪魔せんから問題ない。
「ありがと。エーリカ、出れる? 物資の調達に行きましょうよ」
朝食はすでに食べ終えている。
「ちょっと待ってください。洗い物してしまうんで」
「エーリカさん、私がやっておくわ」
アデーレが立候補した。
「あー、じゃあ、お願いします。ジークさん、すみませんが、戸締りをお願いします」
エーリカがそう言って、鍵を渡してくる。
「わかった。俺達もすぐにドックに向かうわ」
「はい。では、行ってきます」
エーリカはゾフィーと共に家を出ていった。
すると、アデーレがテーブルの上の食器をキッチンに持っていき、洗い物を始める。
「アデーレ、大丈夫? 皿を割ったりしない?」
レオノーラがにやにやしながら聞く。
「私、別にドジじゃないし、大丈夫よ。というか、ドジはあなたでしょ」
「ドジじゃないよー」
いやー、50メートル15秒のトロさだしなー。
「じゃあ、皿洗いやる?」
「私の身長だと微妙だから任せる」
届かないわけではないだろうが、ちょっと辛いかもな。
食洗器でも作るか?
いや、あれはスペースを取るし、邪魔かもしれん。
「じゃあ、テーブルを拭いてちょうだい」
「それならできる」
レオノーラがキッチンに行き、布巾を持ってくると、テーブルを拭き始める。
「あ、そうだ。昨日の冷房器具を作ったからお前らにもやるわ。置いておくから夕方にでも持って帰れ」
そう言いながら玄関の方に冷房器具を並べて置いた。
「おー! ジーク君、ありがとう!」
「助かるわ」
その後、アデーレの洗い物が終わると、エーリカの部屋を出て、鍵をかける。
そして、一度解散し、準備をすると、ドックに向かった。
「まだ来てないわね」
シャッターを開けると、アデーレが周囲を見渡す。
「色々と買わないといけないからな。ちょっと時間がかかるんだろう」
「じゃあ、先に木材の加工を進めましょうか」
「そうだな」
俺達は2人が来る前に作業を進めていくことにした。
「ジーク君さー、別に飽きたわけじゃないけど、ゴールが見えないんだけど……」
レオノーラが木材の加工を行いながら愚痴ってくる。
「先に部材を作って、一気に練成しようと思っているからな。感動は最後に取っておけ」
「わかったー。見えないところにサインを書いてもいい?」
そういう技術者はいるなー……
「沈んだら縁起が悪いからやめておけ」
「マルティナ号にしようとしたくせにー」
まあ……
「わかった、わかった。サインぐらいなら入れてもいいぞ」
「レ、オ、ノーラっと……」
楽しいならいいか。
俺達はその後も作業を続けていると、エーリカとゾフィーがやってきた。
しかし、表情に笑顔はなく、ゾフィーに至っては不機嫌そうだ。
「どうした? ケンカはやめてくれよ。仲裁なんかできん」
「ケンカなんてしてないわよ」
ゾフィーが眉をひそめる。
「どうした? 何があった?」
「どうもこうもないわ。必要な部材が一切、売ってない」
はい?
「どういうことだ?」
「知らないわよ」
ヒステリックになるなよなー。
「エーリカ、説明を頼む」
「色々な店を回り、設計図にあった部材を買おうと思ったんですけど、どこの店も品切れと言われました」
品切れって……
「ここ、船の町だろ? 辺境とはいえ、ここまで大きな町なら常備してるだろ」
「そうなんですけど、昨日、一気に売れちゃったそうです。すぐに発注しているそうですけど、ちょっと時間がかかるみたいです」
そういうことね……
「嫌がらせだな」
「嫌がらせというか妨害でしょ」
「そうね。失敗したら価格調整が元に戻るって考えたんでしょう」
レオノーラとアデーレもわかったらしい。
いや、エーリカもわかっているか。
「何それ? あんたら、なんかのトラブルでも起こしてんの?」
事情を知らないゾフィーが聞いてくる。
「お前も知っての通り、この町の支部は俺達だけだ。もっと言えば俺が赴任する前はエーリカとレオノーラの2人だけ。そんな状況では本来なら協会に回す仕事も民間に回すことになる。ぼってたんだわ」
「まあ、それは仕方がないわね。事情を聞いたけど、王妃様のあれでしょ? 他のところでもちょこちょこ起きてるみたいよ」
そう、王妃様のあれ。
あまり大きな声で言えないやつ。
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