第193話 師弟は大変
「マルティナの面倒を見ているんだが、あいつ、本当にバカだわ」
『それは最初からわかっていることです。でも、生まれてすぐに知識がある者なんていませんし、あの子はまだ若いですからこれから伸びます』
俺は生まれてすぐに知識があったがな。
特殊すぎるケースだけど。
「伸びしろという面ではすごいと思うな」
俺もこういうフォローを言える男になったなー。
『でしょ? で? どんな感じ?』
「まずなんだが、使い魔と契約させた」
『使い魔? なんでまた?』
「魔力のコントロールが下手すぎたから」
下手っていうレベル以下だけど。
『なるほど。どんな使い魔です? ウチの子達はヘビとかの爬虫類が嫌いですからものによってはアトリエに連れてこれませんよ?』
「そこは大丈夫。ハムスターだ」
『それはアイドルになれますね』
無理だと思うな。
すげー偉そうだし。
「優秀な使い魔で魔力の補佐だけでなく、色々教えているっぽい。世間知らずの親子は助かるだろう」
『それは良いですね。あの母親はちょっと……』
うん。
「一応、庇っておくと、リートは平和な土地柄なんだよ」
『まあ、わかりますね。あの光のオーラを纏っているお前の弟子とかそんな感じでした』
エーリカね。
闇の者はそう思うらしい。
「それでその使い魔のエルネスティーネの手助けもあって、魔力のコントロールはそこそこできるようになった」
そこそこは言いすぎかも……
『ハムスターなのにエルネスティーネ? なんか偉そうですわね』
お前もだけどな。
「言動もそんな感じだな」
どっかの女王様みたいだし。
『ふーん……まあ、その辺はわたくしが立ち入るところではないので好きにしたらいいですが……』
「あとは俺とゾフィーで勉強を見ているな。特に物理」
『それはどうですか? 一番気になるところです』
一番、ダメダメな部分だしな。
「俺達が卒業した魔法学校レベルで言えば、0点が5点くらいにはなったと思う」
『ハァ……ひどい……ひどいですけど、仕方がありませんわね。そう簡単に学べるようでしたら誰も苦労しません』
それはそう。
「そっちに行くまでに15点にはしておく。あとは知らんぞ」
『それで十分です。あとはこちらでなんとかしますから』
「どういう感じでいくんだ?」
あれはまず戦力にならない。
『まずは簡単な手伝いをさせつつ、勉強ですね。ウチも勉強会をしていますし、ひたすら学ぶしかありません』
勉強会か……
ウチもやってるし、かつては師匠である本部長のもとで俺達もやっていた。
「心が折れないといいな。お前の弟子を知らんが、本部で仕事をしている奴らだろ?」
『知らないって……あー、お前はそういう奴でしたね』
ん?
「何かあるのか?」
『いや、お前の同級生もいるんですけど……』
え?
あ、でも前にアデーレから薬品生成チームにクラスは違うけど、同じ学校の同期がいるって聞いたな。
「アデーレ、同じ学校で薬品生成チームにいるのは誰だっけ?」
名前も聞いたはずだが、さすがに覚えていない。
あの後すぐに会ったマルタは覚えているが……
「隣のクラスだったエルヴィーラさんのこと?」
そんな名前だったな。
「エルヴィーラか?」
電話に戻る。
『その子。学生時代からずっとわたくしに師事してましたわ』
知らねー。
「さすがにクラスが違うとわからんな」
おや? 後ろから視線を感じるぞ?
『まあ、そうかもしれませんね。話を戻しますが、マルティナは大丈夫でしょう。あの子には軽くない目標がありますから。苦労するでしょうし、ゾフィーのように悩むことも多いでしょうが、心が折れることはありません。むしろ、心配なのは他の子ですね。マルティナは偏っていますが、魔法の才能はピカ一ですから』
あの魔力量はな……
「弟子が多いとその辺が大変だな」
ウチは似たようなレベルの3人娘で良かったわ。
『それもまた試練です。わたくし達一門全員が通ってきた道ですわ』
「俺は通ってないぞ」
『お前のせいでって付け加えてあげます。人の心を生贄に捧げた社会不適合』
ヘレンが助けてくれるわ。
「お前も人のこと言えんだろ。とにかく、マルティナはそんな感じだ」
『わかりました。引き続き、お願いですわ。それともう一件。クリスの野郎から電話はありました?』
クリス?
「いや、ないぞ。王都で会って以来、話してない」
ドロテーもない。
『ふーん……ジークはいらないと判断したか?』
なんかムカつくな。
「後継者争いか?」
『ええ。あの野郎、どんどんと周りを固めていきますわ』
本部長も呆れてるだろうな。
「そんなに焦ることもないのに」
『周りへのアピールですわ。お前がいなくなったから次は自分だと……』
「お前も頑張れよー。俺は知らん」
『ジーク、ヘレンを貸してもらえません? スッと暗殺を――』
電話を切った。
「何をクリスを亡き者にし、しかも、犯人を俺に仕立て上げようとしてんだ」
ゴミカスマリーめ。
「なんか大変そうね」
アデーレはそう言いながらも呆れた表情になっている。
「まあ、王都のことだから俺達には関係ないがな」
「だといいけどね」
「それよりも音楽鑑賞会はまだか?」
せっかく部屋に上がったので聞いてみる。
「練習中だからまだダメ。週末……いや、もうちょっと待って」
「わかった。俺一人か?」
「ええ。あなたで感じを見て、エーリカさんを誘うから」
エーリカなんて『上手ですー!』、『すごーい!』くらいしか言わないと思うけどな。
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