第191話 頑張れ
その後もチビ2人が釣りをしていき、釣った魚を焼いたりしながら昼食を食べる。
なお、タコも焼いて食べたが、美味かった。
そして、午後からは仕事を再開し、それぞれの仕事をしていく。
「おぬし、本当におっそいのう……」
エルネスティーネがマルティナの木材加工を見ながらぼやいた。
「な、慣れてないだけです」
「それにしてものう……他の者と比べても倍以上遅いぞ」
確かに遅い。
「先輩達とはキャリアが違うんです。それにあの方達は9級や8級の資格を持つエリートなんですよ」
「そうか? たいした魔力を持っておるようには見えんぞ」
こら。
「飛び火が……」
「まあ、魔力に関してはねー……」
「私達は私達のペースでやりましょう」
そうしてくれ。
「錬金術は魔力の大きさじゃないんです」
「いや、わかりやすい指標の一つだと思うが……それにお前は魔力だけで他がダメダメじゃろ」
うん。
「エルちゃーん……もっと優しくしてー……」
「情けないのう……ものづくりはちゃんと完成形をイメージしろ。小手先ばかり見ずに視野を広くせい」
聞いてるか、ゾフィー?
「どういうこと?」
「設計図を見て、船の構造や仕組みをちゃんと理解しろ。おぬしは木材を加工しているんじゃなくて、船を作っているんだぞ」
「あ、うん」
良い使い魔だなー。
俺達はその後も作業を続けていき、夕方になったのでマルティナにテストを渡し、勉強させた。
そして、終業時間となったので解散し、家に帰る。
「あんたって、いつもこういう生活を送ってるわけ?」
テーブルにつき、丸まっているヘレンを撫でながら一息ついていると、ソファーに腰かけているゾフィーが聞いてきた。
「こんな生活って?」
「職務中に釣りしたりしてたじゃん」
職務中に釣りをしていたのはお前だけな。
俺達は火を見ながら食べていた。
「職務中にあんなことをしたのは初めてだな。でもまあ、暇な時は本を読んだりしているし、気楽にやってるぞ」
「ふーん……一応聞くけど、これからエーリカの家で夕食?」
「そうなるな」
「ほぼバカンスじゃないの」
まあ……
「王都でクリスやマリーと出世争いをして、責任だけがついてくる本部長の椅子を狙うのとどっちが良いと思う?」
「わかんない……普通はこっちの方が良いんでしょうけど、私は上に行きたいから」
ゾフィーはそうかもな。
俺もそうだった。
いや、本部にいるようなエリート共は大抵がそうだろう。
「本部長の椅子を狙ってんのか?」
「狙えるものならね。でも、クリスかマリーで間違いないでしょ。あんたがいないならその2択よ」
「そんなことないだろ。本部長はまだ元気だし、ここ数年で辞めることはないだろう。そうなると、10年か、20年か……その時までにあの2人を抜けばいい」
本部長はまだ40代だ。
辞めるような年齢じゃない。
「あの2人か……バランスのいいクリスに特化型のマリー……」
ゾフィーが真剣に悩んでいる。
どうやら自信を取り戻したようだ。
「まあ、ゆっくり考えろよ。もしかしたら10年の間にテレーゼの性格が変わって、あいつも参戦するかもしれんぞ」
まったく想像できないが。
「それはもうテレーゼじゃないわね」
「まあな」
「ジーク、今日はお世話になるけど、明日からはホテルに泊まるわ。良いところを知らない?」
良いところというか、1つしか知らんな。
「サイドホテルかな。マリーやテレーゼも泊まってたし、俺もここに来た初日に泊まった。良いホテルだぞ」
「へー……じゃあ、そこ行こ」
「そうしろ。こんな部屋よりずっと良いと思うぞ」
「いやー、ここもかなり良い部屋よ。広いし、職場も近い。しかも、食堂まであるじゃない」
エーリカ食堂。
「2.5万エルだぞ」
「安っ……良いなー……王都の自分の部屋に帰りたくなくなるわね」
「いつでも異動届を出せよ。本部長がすぐにハンコを押してくれるから」
「だからジークファミリーは嫌だっての」
変な名前を付けるな。
なんかマフィアみたいだぞ。
「まあ、気が向いたらでいいわ。エーリカのところに行くか」
「新鮮な魚って美味しいわよねー」
俺達はエーリカの部屋に行き、夕食を御馳走になった。
メニューは昼に釣った魚の汁物だったが、非常に美味かったし、ヘレンも満足そうだった。
そして、いつものように勉強会をし終えると、部屋に戻り、ゾフィーを先に風呂に入らせる。
俺もその後にヘレンと入り、リビングに戻ったのだが、ゾフィーが設計図を描いていた。
「まだできてなかったのか?」
「釣りしたり、マルティナの勉強を見てたりしたからね。でも、今日中に終わらせるから安心して」
あー……
「ゾフィー、そんなに急がなくてもいいぞ。納期は決まってないし、何より明日は支部での作業だからその時でいい」
「そう……じゃあ、明日にするわ」
ゾフィーは設計図をしまい、代わりに錬金術の参考書を取り出した。
「また勉強か……」
「まあね。一からやり直してる」
「ふーん……」
まあ、良いことだ。
「見てやろうか?」
「嫌。あんたは鼻で笑うし、『なんでこんなものもわからないんだ?』って真顔で聞いてくるから嫌い」
「それはやめた。思ってても言わないようにしたんだ」
おかげで何度も夢に出てきたが、最近は何も思わないようにすらなってきた。
「そういえば、あの3人やマルティナに言ってないわね。師匠である本部長の指導を鼻で笑い、勉強を見てあげようとしたテレーゼをガチへこみさせたあんたとは思えないわ」
そんなこともあったな。
「俺も成長し、凡人を理解できるようになったということだろう」
何しろ、人間性が35点もあるんだ。
「あとちょっとね……頑張んなさい」
お前が頑張れ。
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