第188話 人類皆友達
ヘレンに起こされ、ベッドから出ると、リビングに向かう。
すると、すでに着替え終えたゾフィーがテーブルについて、本を読んでいた。
「お前、早いな……」
「朝一番の勉強が大事って言ったでしょ。まあ、これはマルティナに教えるためのものだけどね」
ゾフィーがそう言って見せてきたのは魔法学校の教科書だった。
「そんなものをまだ取ってたのか?」
というか、空間魔法とはいえ、持ち歩くか?
「どんな本がいつ役に立つかわからないからこういう教本は捨てないし、いつも持ち歩いているの」
タブレットがない世界だもんなー。
魔法があるとはいえ、大変だ。
「それで教科書か」
「ええ……今になって見ると、間違えているわけではないけど、非効率なことも書いてあるわね。あんたやマリーがグチグチ言ってたのもわかるわ」
グチグチは言ってない。
「所詮は教師レベルの錬金術師が書いた本だからな。それよりも飯に行くぞ」
「もしかしなくても、対面のお宅?」
「そうだぞ。エーリカが3食作ってくれるんだ。昼は弁当」
「そう……お幸せに」
何が?
そりゃ飯作ってくれることは幸福ではあるが、ちゃんと金払ってるからな。
「いいから行くぞ」
「はいはい……」
俺達はエーリカの部屋に行くと、すでにいたレオノーラとアデーレと共に朝食を食べる。
そして、支部に出勤すると、【御用の方は港のドックへ】という看板を立て、ドックに向かった。
「おー! 海ねー! この前は時間がなくて見れなかったけど、すごいわ!」
港に着くと、ゾフィーが興奮した様子で海を眺める。
「お前、海は初めてか?」
「ええ。あまり王都から出たことないし、出張もないからね。もちろん、雑誌なんかで見たことはあるけど直で見たのは初めて。なんか独特な匂いがするわね」
「潮の香りだな」
潮の香りはプランクトンの死骸の匂いって言ったら大ヒンシュクを買いそうだな。
特に地元のエーリカと港町出身のレオノーラ。
「へー……なんか良いわねー」
俺もこればっかりは良いと思っている。
昔を思い出すのだ。
「ゾフィー、今日の昼は新鮮な魚だから楽しみにしておきたまえ」
レオノーラがドヤ顔を浮かべる。
「魚? え? 獲るの?」
「釣るんだよー。ジーク君がとっておきの釣竿と餌を作ってくれたんだ」
「へー……あんた、そんなのもできるのね」
ゾフィーが感心した顔になった。
「ヘレンは魚が好きだからな。それで作ったんだが、適当に作ったやつが思ったより良いものだったんだよ」
「あんたのモチベーションは昔からそこね」
他にないからな。
ヘレンさえいてくれればいいし、喜んでにゃーにゃー鳴いているのが可愛いのだ。
「それが大事なんだよ。ほら、ここがドックだ」
ドックに到着したので鍵を開け、シャッターを上げる。
「まだこの段階か……」
ドックには加工した木材もあるがまだほぼ手付かずの木材が積まれていた。
「俺達は木材の加工をするが、お前には動力を頼みたいわけだ。これが設計図」
ゾフィーに設計図を渡す。
「細かいわねー……というか、この設計図すごくない? やっぱり港町だと船の製造に関することはしっかりしているのね」
ゾフィーが設計図を眺めながら感心したように頷いた。
「ジークさんが描いたやつですね」
「既存の設計図は不満が多かったみたいだよ」
「単純に1枚が10枚になるんだからすごいわよね」
3人娘がゾフィーに説明する。
「あんたかい……ホント、こういうところはハイデマリーと一緒ね。だから研究者とか教師に嫌われるのよ」
「過ちを正しただけだ。感謝されこそすれ、非難される覚えはない」
「嫌味マックス。元の設計図を描いた人の気持ちを考えなさいよ」
「これが元の設計図だ」
ゾフィーにユリアーナからもらった1枚の設計図を渡した。
「ふーん…………ひっど。これで何を作ればいいのよ」
ほれ、嫌味マックス。
「そう思うだろ」
「協会にしろ、民間にしろ、技術屋連中がこれでよく納得するわ」
「逆に言うと、これで作れるくらいな技術力があるってことだろ」
「まあねー……でも、そうやって胡坐をかいてると、いつか廃れるわね」
ウチがそうなってるな。
人材流出のせいで作るノウハウを知っている人間がいない。
「一応、意見書は出すつもりだが、その辺りは俺達が考えることじゃない。それよりも動力の方はいけるか?」
「いけるいけないで言えば余裕。そんな複雑な構造じゃないし、むしろ、型落ちね。良いのかしら? 軍船でしょ?」
やっぱりしょぼいよな。
「軍船だが、補給船なんだと。それとこの辺はまず戦争がないからそのレベルで十分なんだろ」
「平和ねー。まあいいことか。北部ではまーた争いになるみたいだし」
ヴォルフから膠着状態になったと聞いていたが、始まるわけか。
「あいつ、大丈夫かな……」
「あいつ? 誰?」
ゾフィーが首を傾げた。
「同級生のヴォルフ。建築部の人間なんだが、北部に行くって言ってた」
「あー、建築部ね。確かに基地の補修で出張っているって聞いたわ。大丈夫じゃない? すぐに帰還でしょ。ウチが錬金術師の戦地投入なんて許すわけないし」
昔からそうなっている。
現本部長である師匠もその方針を変えていない。
「じゃあ、大丈夫か」
「何? 同級生って言ってたけど、友達?」
友達?
「アデーレ、あれは友達か?」
「私に聞かれてもわからないわよ。2人のことでしょ」
そりゃそうか。
「ヘレン、どう思う?」
「うーん……友達ということでいいんじゃないでしょうか?」
いいのかね?
同僚がしっくりくるんだが……
「ジーク君、困ったら友達って言っておくと良いよ。じゃないと向こうがそう思ってた時にショックでしょ」
なるほど……
さすがは勝手に旦那と嫁認定するレオノーラだ。
「ゾフィー、友達だ」
「少なくとも、あんたはそう思っていないことはわかったわ」
友達って何を以てそう言うのかわからないんだよな……
実は部下で弟子に当たるアデーレが友人で良いのか微妙にわからなくなってきているし。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
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