第185話 マリーは全会一致
ゾフィーと共にエーリカの家に向かうと、すでにレオノーラとアデーレはおり、いつものようにレオノーラが席についていた。
そして、アデーレがエーリカの料理の邪魔……じゃない、見学をしていた。
「お邪魔します……」
「いえいえ、どうぞー」
ゾフィーの遠慮がちの言葉にエーリカが笑顔で返すと、ゾフィーが見上げてくる。
「あの子を見ていると、自信がなくなってくるんだけど……」
「何の?」
「あ、私って嫌な奴なんだなーって」
「お前は嫌な奴だろ」
何言ってんだ?
「私、あんたやマリーが大好きだわ……自信が戻ってくる」
俺も今、お前のことが大好きになったわ。
「よくわからないけど、2人共、座りなよ」
レオノーラが勧めてきたので席についた。
「………………」
さっきまで饒舌だったゾフィーがまったくしゃべらなくなった。
「お前、いつまで人見知りしてんだ?」
「う、うるさいわね。距離感とか色々あるでしょ」
距離感って……
「そんなもんいるか?」
ただの同僚だろ。
「いるでしょ! というか、あんたが敬語を使えとか言うからどういう感じでいくかを悩んでいるのよ!」
「敬語使えよ。エーリカは同い年だから別にいいけど、レオノーラとアデーレは俺と同い年だから先輩だろ」
たいして上下関係に厳しくない世界ではあるが、上の者には普通に敬語を使う。
「まあまあ、ジーク君。ゾフィーが言っていることはその辺が複雑だからだよ。私やアデーレは確かに年上だけど、たかが2歳違いじゃないか。でも、錬金術師としてのキャリアは子供の頃から本部長の下についているゾフィーの方が圧倒的に上でしょ?」
そういやゾフィーは本部長の囲い込みで学生時代から本部でバイトしてたな。
「年齢かキャリアのどっちを取るかってことか?」
「まあ、あと面倒なことに私とアデーレが貴族なこともあるね。マルティナちゃんが微妙に私達と距離があるのもそれ」
そういや、マルティナって学校の先輩であるエーリカには懐いているが、レオノーラとアデーレとはあまり話さんな。
うーん、貴族か……テレーゼなんかビビりまくりだし、仕方がないこととも言える。
でも、本部には貴族がそこそこいるんだよな……
あいつ、大丈夫かね?
「めんどくさいな、お前ら……」
「ごめんよー。でも、こればっかりは仕方がないでしょ。ゾフィー、好きに話せばいいよ。そもそも気にしないし、私なんか敬語でしゃべったことなんてほぼないから」
レオノーラはなー……
敬語娘のエーリカとは真逆だ。
「そ、そう?」
「ジーク君が言うようにめんどいしね」
「ゾフィー、レオノーラは本部長相手にもタメ口を利いていたし、本人がこう言っているから気にしなくてもいいだろ」
「わ、わかった」
ゾフィーは頷いた後にチラッとアデーレを見る。
「アデーレ」
気にしてるぞ。
「私も気にしなくていいでしょ。受付の時と同じで普通にしゃべってちょうだい」
「あ、うん……」
ゾフィーが俺を見てくる。
「どうした?」
「あんたは落ち着く」
さてはこいつ、人間性50点以下だな?
「――できましたよー」
エーリカがアデーレと共に料理を持ってきてくれた。
「どうだった?」
一応、アデーレに聞いてみる。
「これなら私でも作れそうな気がする」
まあ、パスタだしな。
「せっかく王都からゾフィーさんがいらしてくださいましたから地元の魚介のパスタです」
「すごいわねー」
ゾフィーが嬉しそうにパスタを見た。
「どうぞ、どうぞ。食べましょう」
皆が席についたので料理を食べだす。
「おー! 美味しい! 王都にも色んなパスタがあるけど、これはすごいわ!」
ゾフィーが絶賛する。
「ありがとうございます。喜んでもらえて嬉しいですね」
「パンと謎の薬しか食べないジークが食に目覚めるわけだわ」
まあな。
「この町は食材が豊富だし、エーリカは上手なんだよ」
「本当にすごいわ。そっちの道でも大成するんじゃない?」
「そんなことないですよー」
エーリカは料理のことを褒めると、本当に嬉しそうになるな。
「いやー、これは店を出せるわよ。家や職場の近くにあったら通うもん」
「お前、自炊はせんのか?」
確か、ゾフィーも一人暮らしだったはずだ。
「そんな時間があるわけないでしょ」
本部は悲しいなー。
俺達はその後も話をしながら食事をしていくが、美味しい食事で機嫌を良くしたゾフィーは人見知りが治まったようでよくしゃべるようになっていた。
そして、夕食を終えると、ゾフィーにも加わってもらい、3人の勉強会をする。
「おー……テレーゼが優秀な子達って言ってたけど、本当にすごいわ。実技はあんまり見てないからわからないけど、筆記は受かるんじゃない? 8級と7級でしょ? これなら余裕よ」
3人娘の勉強を見ているゾフィーが絶賛した。
「マルティナの後だと余計にそう思うだろうな」
「……そんなことないわよ」
絶対にそうだろ。
あいつの物理を見てもらったが、目が泳ぎ、言葉を選びまくってたし。
「俺はこいつらの後にあれだったからしんどかったわー」
「だ、誰にだって苦手分野はあるわよ。私だって薬関係は全然だし」
そりゃ錬金術だろ。
あいつは基礎学の物理だ。
「頼むぞ、ゾフィー。お前もいつかは弟子を取るんだろうし、その時の練習と思え。あのハイデマリーですら弟子を持っているんだから」
しかも、いっぱいいるらしい。
「そうか……クズ3人衆の内の私だけ弟子がいない……あれ? 一番の問題児に見える……」
「クズ3人衆って何だ?」
「クヌートのバカがそう言ってた」
兄弟子のクヌートか。
女好きでうるさくてうざいあいつに言われたくないが、クズ3人衆に納得してしまった自分もいた。
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